第116回:全世界の再開発と高級化に苦しむ人々への呼びかけ(松本哉)

 東京・高円寺にも再開発の波が着々と迫っていることは、以前この連載でも紹介した。もちろんまだ工事着工目前という段階までは行ってないにせよ、油断はならない。災害と再開発は忘れた頃にやって来るらしいので、今のうちから少し考えておくのがいい。
 ちなみに、一口に再開発といっても、色々なパターンがある。単純に老朽化したところを建て替えるという割と小規模のものから、巨大な開発企業や国家レベルでエリア一帯をガラッと別の街に組み替えてしまうものまである。その質も色々あって、単純な建て替えの場合もあるし、公園やら広場や病院も造ってより住みやすくする場合もあるし、逆に貧乏人を全部追い出してチェーン店や高級店ばかりの街にするようなつまんない開発もあるし、色々ある。ということで、当然、再開発=悪とまでは言えない。
 ただ、その中でいま世界中で一番問題になっているのが、「ジェントリフィケーション」っていう種の再開発だ。なんだそりゃ。単語としてはジェントルマンでおなじみのジェントリーにするってこと。そう、いわば紳士淑女化(いきなり高円寺の真逆の雰囲気だ!!!)。要するに、街を開発してガラッと様子を変えちゃうんだけど、その時にゴチャゴチャしてたり貧乏くさかったり、雑多なわけの分からないものなど、高級な紳士淑女が眉をひそめそうな物を街から一掃して、一気に小ぎれいに高級化してしまうというもの。すると高級店や大型チェーン店が増え家賃も上昇し、高級街になっていく。家賃収入が増える大地主や開発事業体、税収が増える自治体や国も喜ぶ。そのかわりに街はありきたりの街になって面白みや特色は無くなってしまう上に、元々いた金のない奴らはどんどん追い出されていく。同時に雑多なものが無くなっていくので、街の大衆文化も衰退する。とりあえずジェントリフィケーションじゃ意味がわからないので、ここは都市高級化とでも呼んでおこう。

世界各地でも環境は同じだった!

 最近、頻繁にアジア圏と交流を広めまくってるんだが、その前はヨーロッパへ度々足を運んでいた時期があった。おそらく10年ほど前。そんな頃、向こうで初めてジェントリフィケーションという言葉を聞いた。当時、欧州の古い町並みも徐々に立て替えて商業ビルが増えたり、街の雰囲気がどんどんかわり、家賃も跳ね上がり始めており「こりゃ大変だ!」とヨーロッパ人たちが大騒ぎしていた。欧州でも今やそれがさらに進み、若手の芸術家やミュージシャン、変わった店や面白いイベントとかやってる奴らなどは、続々と大都市圏から脱出して他の小さな町へ移っているという。
 そして、その後アジア圏との交流が始まると、これがまたすごい。その都市の高級化はヨーロッパの比じゃないものすごいスピードで進んでいた。せっかくなので軽く紹介してみよう。
 まずはお隣の韓国。10年ほど前、例えばソウルの弘大(ホンデ)という大学一帯の学生街が、日本で言えば今の高円寺や下北沢、昔で言えば御茶ノ水や高田馬場のようなところで、いろんな変な店や安い飲み屋、ライブハウスなどが密集して若者たちが遊ぶ場所だった。ところがそうして人気の街になって来ると、大企業の開発屋が素早く目をつけ、次々と土地を買収しデパートや大型ショッピングセンターをどんどん建てて、あっという間に渋谷のような街になってしまった。別に渋谷みたいな街があるのはいいんだけど、前からホンデでいつも遊んでた奴らからしたら、たまったもんじゃない。以前の一癖二癖あるような店は高騰した家賃に耐えられず閉店ラッシュ。嫌になって廃業したり、別の街に移って行ったり。「前の面白い場所を返してくれ!」って感じだ。
 その後、みんな新天地を探して各地に散っていくんだけど、その先もせっかく穴場を見つけて盛り上がってきたら、また開発屋に発見されてそこも高級化されてしまう。もちろんソウルだけじゃなく、釜山など他の都市も同じで、釜山の知り合いのスペースも移転を余儀なくされ、そのまた移転先も今また開発の危機にさらされている。

 台湾も完全に同じ。例えば師大路という若者の街があり、近所には面白い店がたくさんあり、公園では若い奴らが飲んでたり遊んでたしして、路地をちょっと入ると夜市があるところで、やばいミュージシャンが集う「地下社会」という伝説のライブハウスもここにあった。さっきの韓国の例で言えば先ほどのホンデみたいなところ。ところがここも同様でやれ騒音だのゴミが散らかるだのといろんな理由をつけてどんどんこぎれいになってきて家賃は上がる一方。師大路の話を聞いても、今や台北の奴らみんな口を揃えて「昔は面白かったけど、今は面白くもなんともないね」という。
 台湾南部の古都、台南の街も同じ。昔はちょっと古くさい町並みがいい感じで、若者たちが家賃の安い空き店舗を借りてカフェや雑貨屋などを開いて面白い感じだったが、これまた資本家たちが死の商人のごとく現れて開発しまくって、今や家賃は上がる一方。今やわざとらしいオシャレな店が乱立し、前の古き良きいい雰囲気は急速になくなり、逆に退屈になってくる。

 そして台湾の対岸、中国なんて経済が急成長してるからもっととんでもない。開発も規模が超巨大で問答無用の開発が進むので、広大な居住エリア一帯が一瞬で瓦礫となり、そこに超巨大なタワーマンションやショッピングモールが乱立していく。中国ではどこの都市を歩いていてもそんな光景を目にする。

上海の古い商店街。背後から迫り来る恐怖の高層ビル

 大都市の中心部でもそんな開発は進んでいる。例えば北京の街は、経済都市の上海とは一味違って、街の隙をつくように意外と面白いカフェやライブハウスなどがたくさんあり、謎のとんでもない奴らもウロウロしてた。ところがここ4〜5年の間で一挙に都市全体をこぎれいな近未来都市に改造しようということになったらしく、古い町並みはどんどんと壊されて行き、意味不明の大バカたちがやってるスペースなんかはどんどん淘汰されていき、閉店ラッシュが続いた。最近は北京の友人たちに聞いても「5年10年前は北京は最高に面白かったけど、最近は面白くもなんともないよ〜」とみんな言っている。日本ではあまりニュースになっていなかったが、去年の終わりごろ、突如として北京中の貧乏人たちの居住区が「防災上危ない」ってことで、数万人とも数十万人とも言われる数の人たちが追い出されて路頭に迷ったという事件も記憶に新しい。チキショー、残念。ちょっと前の北京は本当に面白い街だったのに〜。
 そしてこの流れは、最大都市に続いて広州や武漢、成都など二番手三番手の都市にも拡大して行き、その辺の奴らも「次はうちらの街が小ぎれいになってつまらなくなるんじゃないか!?」と、戦々恐々としている。

 マレーシアもそうだった。こちらは一足先に高度成長をした東アジア圏とはまた一味違って、まさに開発の真っ只中。首都のクアラルンプールも、古くてボロボロの町並みもまだたくさん残る一方で、超近代的なビルも立ち並び始めるというすごい光景。それはもう金のことしか考えてない財界や政府からしたら開発したくてしょうがない感じ。
 首都クアラルンプールにも、知り合いがやっているアートスペースや謎の空間などが入ってる雑居ビルがある。しかし、ここも結構中心地にあるだけに案の定再開発予定地になり、周辺では見たことないような規模の工事現場が続々と登場。もはやそのマヌケビルの周辺は工事現場だらけになり、こちらも明日をも知れぬ感じ。でも本当にもったいない。ローカル感のある文化を感じる町並みはすごい大事なのに、金に目が眩んで世界中どこも同じような商業都市にしたって魅力ゼロになるだけなのにね〜。わかってないな〜

 ついでにもう1都市、香港。香港はかつて超金持ち都市だったので、その時代に南部の香港島地区に超近代都市を建設。で、それに対して大陸側の方は旧市街地(こっちはこっちで超賑やか。超巨大な上野アメ横みたいな感じ)が広がっていて、こちらは昔の香港映画に出てくるような光景で、古いビルが林立し看板やネオンサインが大量にある雑多な賑やかさ。うまく住み分けができていてよかったんだけど、ここにきて高級都市化の波は旧市街地にもやって来て、古い町並みがどんどん壊され始めている。
 香港は人口密集地ということもあり、家賃の相場が東京の2〜3倍というふざけたことになっているんだが、それがさらに値上がりして、もはやマヌケな連中がふざけた場所をつくるなんてかなり大変な話になってきている。現に以前はこの地区に知り合いのゲストハウスや日替わり店主のビーガンレストランなどもあったが、みんな音を上げて閉店したり規模を縮小したりしている。でもみんな色々知恵を絞り、政府の支援を受けていたアートスペースを期限切れ後に占拠してスペースをつくってみたり、工場という名目で倉庫街の一角を借りて(倉庫という建前だと家賃が若干安い)ライブハウスを開いたりしていたが、結局なんだかんだで追い出されたりしている(それでも負けずにいろんな隙を見つけて場所を確保してるのが香港人のすごいところ!)。
 こんな感じなので、今、香港の面白いことをやらかしてる奴らはみんな郊外の高層ビルの中でプライベートなホームパーティーという建前で口コミだけで宣伝して大イベントを開催したりしている(これはこれですごい!)。

 とまあ、こんな感じに、少しあらすじのように概要だけ書いてみたが、知り合いの場所だけでももう到底書ききれないぐらいの事例があるし、他の都市でも同じような事態が同じように進行しているし、日本国内を見てみても似たようなことはたくさんある。

無意味な高級化は都市だけではなく全ての文化に関わる問題だった!

 開発して町並みをこぎれいで高級な感じにして、お金がたくさん動く場所にしていく。それと引き換えに、民衆による予測不能の雑多なものから生まれてくる文化は停滞してしまう。お金や経済と大衆文化を天秤にかけお金を選んでいる。この発想は間違いなく、だいたい60年代70年代ごろの高度成長期のイケイケだった感じが忘れられないオッサン達の感覚。やつらは数字の上や物質的な豊かさを得るごとに「スゲー!」と感動して(ま、その気持ちはわかるけど)、その裏で大事なものをどんどん捨ててきていることに気づいていなかった。彼らには、数字や物質的な高度成長はしてきたけど、総合して考えると結局プラマイゼロだということに気付いてもらいたいし、今若いやつらが必死になくなったものを取り戻そうと色々頑張ってる姿を見て、少しは反省してもらいたい。
 ジェントリフィケーションという名の都市の高級化は、まさにそういう発想で進んでいる。この問題は意外と根深く、その高度成長的な時代遅れの思考回路がいろんなところに染み付いている。
 例えば先日、たまたま京都大学の吉田寮に遊びに行って来たんだけど、いま取り壊しの危機にあると言う。もちろん老朽化してるからという点はあるけど、本当の理由はそこではない。貧乏な学生たちがウロチョロして、いろんな奴が出入りしてたり、中もゴチャゴチャしてわけわからないことがたくさん発生しているような状態をなくしたいのだ。寮を建て替えるだけではなく、そのカオス感をなくして小ぎれいにして、ちゃんということ聞く人ばかり住まわせて、ついでに家賃も少しあげちゃったりしたいんだろう。この発想って、高円寺や、さっき紹介した海外の都市の高級化と全く根は同じ問題だ。
 人間味のある状態とか、昔ながらの感じ、田舎だったら自然の残る様子などを用もないのに手を加えて小ぎれいにする必要はない。それなのに、「いや、こっちの方が生産性あるから」と、やろうとするが、そういう高度成長的な発想はもういらないんだってば〜。

数々の文化を生んで来た伝説の京大吉田寮。先月行われた寮食堂を改造したスペースでのイベントにて

巨大な商業文化vs予測不能の雑多な大衆文化

 かつて再開発の反対運動とか自分のことしか考えない感じになり、地域エゴ化することもあった(「なんでうちに火葬場つくるんだよ。隣町につくりゃいいじゃねーか」みたいなやつ)。しかし、高円寺をはじめ各地の再開発の問題は、今や根本的には価値観の問題になってきてる。貧乏人の元には還ってこない謎の経済成長よりも、次から次へと大バカな面白い奴が登場してくるカオス感の方がいい。日本社会も一旦は豊かになったんだから、この期に及んでまだ金金しつこく言わなくてもいいでしょ。雑多でいろんなものが混在してる代わりに何かが突如生まれてくるような面白さの方が、今は断然必要だ。各地で同じように高度成長の亡霊に困ってる環境の奴らは、都市も国境も越えて結託して、このカオス感を守るしかない! そう、これからの開発反対運動は場所を超えて結託するのがとても大事だ。
 それに、当時バリバリ働いてた熱血漢の高度成長世代がぼちぼち死の予感を感じ始めてるいま、「後の世代に残してあげないと!」と、いらぬお節介で頑張り始めて高級化の総攻撃が始まりかねない。これはやばい! これからが山場だ。「おじいちゃん、おばあちゃん、そうじゃないんだよ! 大きな道路も綺麗なビルもいらないんだよ!」と、みんなで説得しよう! なんとかして「おや、そうなのかい?」と気付かせよう!!!!!!

 余談だけど、街のおじいさんおばあさんたちと話してると、よくこういう事を言い出す。
 「今の人たちはそっけないねぇ〜。昔は、みんなお金なかったけど、相談に乗ってあげたり、助け合ったりしてたんだよ。そっちの方が生き生きとして楽しかったと思うねぇ…」
 コラー!!!! お前ら! わかってるじゃねーか!

高円寺再開発反対パレードで使用された横断幕

〈おまけ〉 高円寺の蜂起

 ということで、早速高円寺で巨大パレードが開催された。上に書いたような理由で、各都市の人や違った境遇だけど根本的に抱える問題は同じ人なんかに来て挨拶してもらい、あとはいつものようにバカ騒ぎパレードが高円寺の街中を行進!!!!
 こういうのは、続けてやるのが大事だし、そもそも本当に最高だったので、次回はまた桜が咲く頃にでもやろうかという話も出てるので、そちらはお見逃しなく!! 開催された内容は下記の通り!

〈9月23日 高円寺に再開発は要らない! 超巨大パレード!〉
15:00 高円寺中央公園集合(南口徒歩2分・氷川神社となり)
16:00 前代未聞のパレードスタート
(高円寺一周2時間コース)
18:00 高円寺中央公園到着

★TALK
総合司会:山下陽光
雨宮処凛(作家)
柄谷行人(哲学者)
松本哉(素人の乱5号店)
井野朋也(新宿「ベルク」店主)
斉藤正明(高円寺北中通り商栄会会長)
関口健太郎(杉並区議会議員)
京都大学吉田寮
三浦佑哉(弁護士・区長選出馬したが落選)
下平憲治(「SAVE THE 下北沢」代表)
楊竣翔(ヤン ジュンシャン/台湾)
イ・サンヒョン(韓国)
Doris(香港)
市来とも子(杉並区議会議員・メッセージ参加)
川野たかあき(杉並区議会議員・時間足りなくて挨拶できず)

★DJ
RADIO JAKARTA
H.E.W. $
本田光義
TeT3
SECRET T

★LIVE
ねたのよい
BOOViES
どついたるねん
パンクロッカー労働組合
へよか

逮捕者(2名・すぐに無罪放免)
・出演バンド(パンクロッカー労働組合)のボーカル
ライブ中にステージの前に現れた新人警官の帽子を取ってかぶって歌い始めたところ、新人くん思いのほか怒り始め、先輩警官の制止を振り切って御用。
・たまたま参加したオッサン
パレード中、歩いてたらやたら進路妨害する警官がいたので「オメー邪魔なんだよ」って感じで手に持ってた空のペットボトルで警官の頭を軽く一撃(→御用)。厳しすぎる(笑)。オッサンに罪はない。

★19:00~23:00 アフターパーティー(TKA4にて 梅里1-1-50)
【DJ】
タンタン
Ayami
本田光義
RADIO JAKARTA
二木信 ほか
【TALK】
山下陽光×二木信×松本哉
ほか

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松本哉
まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)編著に『素人の乱』(河出書房新社)。