第137回:憲法改正という脅嚇 ~報復人事の先に、何が見えるのか?(南部義典)

早くも始まった報復人事

 「これで、みんなで一致結束して、力を合わせて、新しい日本をつくっていこうではありませんか」
 9月20日、自民党総裁選挙で当選(連続3選)を決めた直後、安倍総理が全所属議員に向けて発した言葉です。しかし、あれから1カ月も経っていませんが、一致結束どころか、総裁選で自らを支援しなかった議員に対する報復人事を始めています。

 自民党執行部は今週に入り、衆議院憲法審査会の与党筆頭(No.1)幹事である中谷元議員、次席(No.2)幹事である船田元議員を解任し、それぞれ新藤義孝議員(元総務相)、下村博文議員(元文科相)を充てる人事を決定しました。総裁選において、中谷議員は一貫して石破応援団の陣頭に立ち、船田議員は白票を投じています。一方、新藤、下村両議員は思想・理念の上で安倍総理に非常に近い議員として知られています。何とも分かりやすい報復人事です。むしろ、粛清に近いものです。

 中谷議員といえば防衛族のイメージが強い人物ですが、自民党が野党であった頃には憲法改正推進本部の事務局長を務め、例の「日本国憲法改正草案」をとりまとめています。船田議員は、衆議院に憲法調査会が立ち上がった2000年1月から一貫して党内の憲法論議をリードし、国民投票法の制定(2007年)と最初の法改正(2014年)に中心的な役割を果たした憲法族の重鎮です。いずれも自民党にとっての“功労者”であることは間違いないわけですが、まとめて排除されたわけです。この報復人事がいかに冷徹なものであるか、外側からみてもよく分かります。私は、坂本龍馬暗殺に匹敵するくらいの政治テロであると考えます。

議論は前進し、加速するのか?

 憲法改正論議を煽ることしか能がない一部のメディア・ジャーナリズムは、それに熱心な議員が積極的に登用される事実だけを以て、相変わらず「前進」「加速」といった単語を並べています。安倍総理の言葉を盲信し、24日に召集される臨時国会で早速、自民党の憲法改正案の審議が始まるのではないかといった、とことん前向きな記事が乱発される始末です。本当に、「前進」であり「加速」なのでしょうか?

 憲法改正の発議には、両院議員の総数の3分の2以上、つまり衆議院議員310名、参議院議員162名を超える賛成が必要です。これらは絶対に必要な数で、とても高いハードルです。自民党は現在、衆議院で283名、参議院で125名しか所属議員がいないので、単独で超えることは絶対にできません。この状況で、自民党を要にして憲法改正発議をしようとすると、①自民党内が一致結束してまとまっていることを前提に、②連立与党のパートナーである公明党との合意を整え、さらに、③野党との合意を拡げることが必要となります。③には、色々な組み合わせがあるでしょうが、①+②+③の足し算を固めなければならないことは、選択の余地がなく、これしか為す術がないのです。

 ところが今は、①のレベルで、自民党内の排除・分断が強力に推し進められている状況です。憲法改正の発議に向けては本質的に、政党間合意の幅をどんどん拡げていかなければならないのに、逆にそのウイングを狭めているのが実態です。現執行部は、憲法を基準に「敵・味方」を分けるために、石破氏のグループに加え、今回報復の対象となった中谷・船田両議員など、党内には「敵」が増えるばかりなのです。世間で思われているほど自民党は一枚岩でないことが、本当によく分かります。

 時々、「自民党はいざとなったら無茶苦茶やるのだから、総理の言うように進むのだ」と言って憚らない方を見かけますが、これこそ無茶苦茶な思考です。確かにこれまでも、共謀罪(テロ等準備罪)法、特定秘密保護法、カジノ法(IR法)といった法律を国会で審議するプロセスでは、最後は数の力で押し切ったことがありました。しかしこれは、法律の制定(改正)なので、衆参総議員の3分の2以上ではなく、出席議員の過半数で成立させることができたのです(しかも、定足数は総議員の3分の1です)。言い換えれば、自民党の内部に多少の造反が出ようとも、野党の協力がまったく無くとも、与党だけで「無茶苦茶」が出来ただけにすぎません。他方、憲法改正発議はハードルの高さが全然違うので、自民党が持つ数の力だけを考えることは無意味です。また、憲法改正(原案)で強行採決もある、というようなことを語る人もいますが、先に述べたように、①自民党+②公明党+③その他野党という組み合わせで、いわば3人4脚走(さらに増えて4人5脚走?)的な構図でゴールインしなければならないことからすれば、①自民党の単独走的のごとく猛ダッシュするイメージそれ自体が「無茶苦茶」であるということを申し上げなければなりません。

報復人事の先に、何を見ているのか?

 憲法改正に熱心な側近を重用したからといって、論理的に、議論は前進もしなければ、加速することもありません。本気で議論を進めようと思えば、少なくとも「報復」はありえないでしょう。安倍総理はこの先に、具体的な憲法改正スケジュールを睨んでいるわけではなく、前回指摘したように、2019年11月に在任日数が歴代総理で一位となることから、この日まで大過なくやり過ごすということに尽きます。要は、自らの求心力の保持のために、憲法をネタに活用しているだけです。

 改めて思うのは、この社会には、(安倍政権下での)憲法改正を狂信的に渇望している人たちが少なからずいますが、現在の政治状況をどう受け止めているかということです。一部のメディア・ジャーナリズムに乗じるように、そのテンションを上げていることは容易に想像が付くものの、「結局、何も出来ませんでした。でも、取り組む姿勢だけは見せました」となったとき、彼の人たちはどういう総括をするのでしょうか。もちろん、これは自民党自身の問題にも跳ね返ってきます。結党以来、党是となっている憲法改正の意義を、ゼロから改めて考えることになるでしょう。

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南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。現在、シンクタンク「国民投票広報機構」代表。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。主な著書に『図解 超早わかり国民投票法入門』(C&R研究所)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)、『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナー no.255)』(共著、日本評論社)、『広告が憲法を殺す日 ――国民投票とプロパガンダCM』(共著、集英社新書)、『18歳成人社会ハンドブック ――制度改革と教育の課題』(共著、明石書店)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会)、などがある。(2018年10月現在)(写真:吉崎貴幸)