第118回:マヌケ文化圏ついに赤道を超える! NO LIMIT ジャカルタがやって来る(松本哉)

 中国とアメリカが貿易問題で揉め始め軽く仁義なき戦いと化している一方で、例の韓国での徴用工の問題で日韓がまた揉めている。その他世界中では次から次へと国家間紛争が勃発して常に大揉めだ。
 で、その一方で、全く次元の違う各国のマヌケ同士がウロチョロしているのが、アジア圏のアンダーグラウンド文化圏交流の「NO LIMIT」と呼ばれる謎のイベントだ。一昨年の2016年に東京で行われたのを皮切りに、昨年は韓国ソウルで2回目が開催された。いずれも、いろんなミュージシャンや芸術家、各地でスペースを運営してる人から、その周辺で飲んだり遊んだりしてるやつらまで、各国の人たちが集結して、ライブや展示、上映会やトークショーなど各種イベントが開催されて、とんでもないことになった。
 そして、今年はどこで行われるんだとみんなが気にし始めた頃、北朝鮮説がまことしやかに囁かれ始めたのは以前に紹介した。しかし、バカバカしさがバレて主催者が粛清されてしまったのか、単に失敗したのか、そもそも何者かが仕組んだデマだったのか、あるいは我々の知らないところですでに開催されたのか、完全に謎に包まれたままだ。とりあえず続報はない。で、そうしてる間に今年も11月下旬を迎え、今年は開催されないのかと思われたその時!!! 急転直下、インドネシアのジャカルタとバリで開催されることが発表された!!! これはヤバい! ついに東南アジアへ進出!!

 せっかくなので、史上最大のマヌケイベントが開催へ至る経緯を少し紹介しておこう。まず、最大の要因はやはり最近高円寺界隈にインドネシア人がやたら多く、友達がどんどん増えてきたということがある。特に高円寺にSUB STOREというカフェバーがあり、ここの存在はでかい。インドネシア人のアンディと日本人のクミさんという夫婦で経営しているお店で、音楽イベントもよくやっており、店自体もジャカルタやバリのインディーミュージシャンとのつながりが強い。ってことで、ミュージシャンだけではなく、この界隈にいると面白いインドネシア人が続々と現れる。これはすごい。そして、人と同時に謎のインドネシア情報もどんどん舞い込んでくるので、いよいよ行ってみたくなってくる。
 と、そこへある時、突如シュンさんというジャカルタ最重要人物が高円寺に現れるという情報が入った。この人、日本人なんだけどもう長い間ジャカルタに住んでおり、そこでカフェを運営していて、インドネシアのバンドやDJはじめアンダーグラウンド文化にものすごい繋がりを持っていて、ジャカルタでも一目置かれていうという。ヤバいヤバい、大御所が来る! 普段はのほほんとしてツチノコみたいな感じで高円寺をのんびり歩いてるアンディも「松本さーん、超ヤバい人来るから紹介するよ〜」とか言ってるし、いつもは大物感が半端ないクミさんも「来た方がいいですよ〜」とテンション上がってる。こいつはやべえ、とんでもないのが来るに違いない。間違いなく座頭市の勝新かダーティーハリーのどっちかだ。いや、水戸黄門かもしれない。とりあえず殺されそうだ!! …と思いつつ恐る恐る会いに行ってみると、これがまた超マヌケ感全開の兄ちゃん。勝新もダーティーハリーも一瞬で全部吹き飛んで、普通に飲みまくる。やたらノリがよく「せっかくだから、なんかやりましょうよ〜」ということに。で、日本の冬は寒いし12月ぐらいに行ったらいいねー、なんて話になる。話のついでに活動紹介がてら「そういえば去年とか一昨年とか、アジア圏の奴らが集まって遊ぶNO LIMITっていうのやったんですよー」みたいな話とかしてたら、「じゃ、それにしましょ」みたいなノリ。軽い!!! これは最高だ!!! そう、これがNO LIMIT 2018の全貌!!

高円寺のツチノコ・アンディ(中央)と、ジャカルタのダーティーハリーのシュンさん(右)と

 さて、具体的にはというと、12月8日と9日にジャカルタで開催され、10日、11日の間に各自で勝手に移動してもらい、12日には同じくインドネシアのバリ島で行われてしまう。そして前日の7日あたりは前夜祭とばかりに大宴会になることは必至。う〜ん、カオスな首都ジャカルタはまだしも、まさか観光のイメージ全開のバリ島でまで開催されてしまうとは!!!
 先ほど紹介したジャカルタの水戸黄門ことシュンさんがやっているMONDOというカフェはもちろん会場のひとつなんだけど、そこと同じビルにはKelelawar Malam(夜の蝙蝠)というジャカルタのバンドの人たちが運営するライブハウスとスタジオなどが入っており、そのビル丸ごと使って開催するとのこと。すごそう!! ま、詳細に関してはサイトを参照してもらいたい。

ジャカルタですでにばらまかれているというフライヤーの表面(裏面はまだ未入手)。名前がWHY FESTIVALになってる!!!

 さてさて、急転直下の展開で今年も行われてしまうNO LIMITだが、この脈絡なく行われる感じが最高。よくよく考えたら2016年の東京も2017年のソウルも主催メンバーも全然違った。というか、ソウルの時の主催者は東京の時に参加すらしていない。東京の話を後から聞いて、「なんだかよくわからないけど、それ楽しそう! ソウルでもやりたい!」と言い出したのがきっかけだった。おおまかな趣旨を踏まえつつ毎回主催メンバーがガラッと変わり、極端に行っちゃえばたまたま名前が一緒ぐらいの感覚。これはすごくいい。
 そういえばかつて「原発やめろデモ!!!!!」という反原発デモを立て続けにやったことがあるんだが、これもこのスタイルだった。惰性で続いていったり、一つの運動体のようなグループになっていったら必ず破壊力が減るので、毎回毎回必ず解散して、その後に改めてメンバー募集し直して次回を開催していた。
 面白いことをやる時に継続は最大の敵。続けるとだんだんルールができてきたり、暗黙の了解のような制約が出てきたり、最初からいる人と後から参加する人の存在や発言に差ができてきたりして、いろんなものがどんどん狭まってくる。もちろん続けることで出てくる良さとかもあるにはあるので一概には言えないけど、瞬発力やインパクトなどは明らかに減退していく。具体的にいうと、長くなんかやってる人が「これはこうやればいいんだよ」などと言って、まわりが「なるほど、そうなんですね!」みたいなことになって運営されてるイベントや活動が面白かったためしがない。一番面白いのは「こうすればいいんだよ」と言ってる奴が謎の展開に直面して「こんなの見たことねえ〜」と、腰を抜かしてる状態だ。全てが未知!!! そう、これが一番面白い。そして二度と同じことやらない。ざまあみろ。

 ともかく、今回のジャカルタ作戦の話を聞いて「あ、第3回目やるんだね」なんて思ってる人はとんだ大間違い。何がどうなるか、誰にもわからない。イベント直前になっているいま現在でさえ、参加者のみならずスタッフ、出演者含め全員の頭の中が「???」な感じ。やばいことになるよ〜、これは!
 いろんなイベントとか経験したことある人ならわかるけど、イベントごとは第3回目が肝。だいたい1回目は好き放題やるので超面白い。2回目は1回目を踏まえてできなかったことをやるから完成度が上がる。3回目で変に流れを踏襲すると惰性が始まるので、3回目は全てを無視して流れを裏切れば裏切るほど面白いし、それが「何やってもいいんじゃん!」という幅を与え、その後に続く。
 さあ皆さん、そんなわけで毎度お馴染みの大博打が始まってしまうよ〜! 吉と出るか、凶と出るか、いったいどんな面白いことが発生するのか!? それは行ってみないとわからない! これはもう、無意味に飛行機をとるしかない!!!! ジャカルタで会おう!!!

〈告知〉
11月29日(木)
北京の老舗独立系音楽レーベル“Maybe Mars”の大御所、蘑菇(モグ)が高円寺に帰ってくる! 今回は台湾のバンド“雨國”と一緒に来日!
高円寺 SUB STOREにてイベント開催。しかもなんと! この日はラジオ素人の乱を復活させて久々に公開放送もやっちゃうので、そちらもお楽しみに!!!!

DJ : Ayami
Live : SANTA DHARMA
Radio : ラジオ素人の乱(松本哉×松本るきつら)
Live : 雨國(台湾)

20:00start!!!!! (24:00まで)
1000円(1ドリンク付)
高円寺 SUB STORE https://substore.jimdo.com/  にて

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松本哉
まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)編著に『素人の乱』(河出書房新社)。