第113回:北朝鮮に行こう! NO LIMIT 2018、平壌で開催か!?(松本哉)

 最近、北朝鮮をめぐる情勢がやたら動いている。南北会談に始まり、核放棄の動きもあれば米朝会談の動きもあるなど、我々下々には何が起きようとしているのかサッパリわからないが、何か異変が起きそうな感じはする。こちらとしても近年東アジア圏を中心に各地の大バカたちとの交流を深め、国際的なアンダーグランド文化圏のやつらとの連帯を深めてきていることもあり、この情勢はなんだか気になるところだ。確かに最近は、韓国や台湾、中国、香港をはじめとした各国との交流が活発になる中、北朝鮮だけがポッカリと穴が空き、交流はゼロの状態だった。ま、それもそのはず、あれだけガチガチに管理されている国では、国や政府とは全く関係ないアンダーグランドのマヌケたちと交流なんかできる隙はあるはずがない。そこで北朝鮮のまだ見ぬマヌケ文化圏との遭遇を期待しつつ、状況を注視したいところだ。
 しかし! 去年の暮れ前ぐらいだっただろうか、実は北朝鮮から謎のオファーが到来していたのだ!!!! これはやばい!!!! とりあえず、このポスターを見てもらいたい。

 そう、何を隠そう、「NO LIMIT平壌」の予告ポスターだ! NO LIMITとは、一昨年は東京、去年はソウルで開催されたイベントで、アジア圏のアンダーグラウンド文化圏のマヌケなやつらがワラワラとして、ライブや展示、上映会やトークショー、飲み会など、様々なイベントを繰り広げ、地下文化交流をしまくるという無謀な企画。で、今回のポスターはなんとその北朝鮮・平壌バージョン! ポスターには2018年と書いてある! なんだなんだ!? 主催者は誰なんだ〜!!
 で、この出所はどこかというと、どうやら去年のNO LIMITを企画した韓国ソウルの主催者チームのもとに北朝鮮から届いたという。見せてもらった資料によると、すでに完成しているNO LIMIT平壌のステッカーや、朝鮮労働党ナントカ部のキムさんの名刺まで添えられていた! 誰だそれ〜!! ギャー、これは信憑性が高い!!!! 今から北朝鮮語勉強はじめないと!!! 

 …いや、ちょっと待てよ。しかしこれ、本物なのか!? アジア圏のとんでもない奴らが大量に集結するNO LIMITイベント、誰がどんなふざけたことをしでかすか全く予想できない。まんまとはめられている可能性だってある。そうなってくると、これは予想が難しい。ソウルチームが、まんまと騙されている可能性もあるし、ソウルチームが悪ふざけでこっちを騙している可能性もある。あるいはもちろん本物の可能性もある。う〜ん、NO LIMIT 平壌が実際に開催されるかの真偽は今の所まだ定かではない。今なお、全力で調査に当たっているところだ。とりあえず少なくとも高円寺周辺では「今年は平壌らしいぞ」「本当にいけるの?」「いや、とりあえず行ってみるしかねえ」と、すでに噂が立っているほどだ。皆さんも、事と次第によっては平壌行きを覚悟しておいた方がいいかもしれない。

 さて! 実際に平壌で開催されるかどうかは神のみぞ知るので、とりあえずそれはどっちでもいい。そうそう、実はNO LIMITはどうでもよく、最近の朝鮮半島情勢もあるので、今後の北朝鮮の動向に注目してみたい。言うまでもないがどこの国だろうと国家や政府についてほぼ興味がない。興味があるのは民衆文化の方。ただ、北朝鮮情報というのは基本的によくわからない。そもそも、北朝鮮は政府が死ぬほど情報を管理しようとする国なので、なかなか庶民のマヌケな文化のことなどは分からない。さらには、アメリカをはじめとする西側諸国は基本的に北朝鮮のことをボロクソに言うので、どれぐらい脚色してコテンパンに言ってるかは未知数なので実態はほぼ不明だ。それに、どこの国も政府の発表って嘘ばっかりなので、真実は何もわからない。最近の各国の報道を見てもそうで、アメリカでは中国や北朝鮮を手玉に取ってることになってるし、中国ではアメリカを手玉に取っていて、北朝鮮ではアメリカと対等に渡り合ってることになってて、日本はアメリカの手下なのでトランプの意見が変わった瞬間に安倍の意見も変わる(←これは一番みっともない)。要はみんな言語が違うのをいいことに自分に都合のいいことばかり言ってやがる。全く、どいつもこいつも〜。
 結局はどんなにいい政府だろうと悪い政府だろうと政府発表などはむやみに信用せず、実際に交流して感覚や実感をつかんでいって情報を得ていくのが一番いい。と、言うわけで、今後の情勢次第では将来的に北朝鮮の国境やガードが少し緩くなって、直接交流ができるようになる可能性もあるので、来たるべき時に備えて準備しておかなければならない! 最近、世界の各地のアンダーグラウンド文化に触れてわかることは人間のたくましさ。人って結構強いもので、どんな大変な状況におかれても何かしら面白いことを目論んだりするものだ。世界中に本当に不幸で辛いことはたくさんあると思うが、その人間の強さと、なんだかんだと目論んで色々やらかし始めるところが唯一の光だ。さあ、北朝鮮にもいるであろう、最高に面白い大バカなやつらを探しに行く準備だ!!!

 と言うことで、北朝鮮に遊びに行けるようになった場合に、どう遊んでどう交流すればいいのかをいまのうちに目論んでおきたい。将来、実際にNO LIMIT平壌が開催された時のイベントにも生かされるはずだ。

マヌケ全開! 村の大バカ

 日本のニュースなどで得る北朝鮮のイメージだと、マスゲームと軍事パレードしかない感じだが、そんなわけはない。人口だってなんと2500万人ぐらいいるとのことなので、最高にマヌケで面白いやつだって大量にいるはずだ。ただ、あまりバカなことをやって怒られたら大変なので、目立たないようにうまいことやってるに違いない。そういえば、中国なんかは少し似てて、モロに反政府なことをやるといきなり弾圧されたりするけど、ちょっと方向性をずらしてうまいことやると大丈夫だったりするし、そんなに政治的でなければむしろ日本より自由にできたりするぐらい。いろんな裏技や隙があって、みんなそこをうまく活用してイベントやライブなど面白いことをやってる。北朝鮮も面白いことをやってる大バカな民衆がどこかには絶対いるに違いない。まずやるべきは各地で飲み歩きまくっていくと、絶対「あそこに面白いところがある」「どこどこの誰さんが最高だよ」などと言う情報が入ってくるはずなので、そこを遊び歩くことだ。ネットで調べてもその辺の情報は一切出てこないはずなので、完全に80年代にサブカルチャー情報を漁りまくるような、現代では新鮮すぎる体験ができるに違いない。さらに、まだこちらの情報を知らない北朝鮮人からしたら、こっちのごく普通の話が腰を抜かすほど驚くのかもしれない。う〜ん、これは超楽しみだ!

北朝鮮、謎の文化を探せ!

 みんな大して金を持ってない上に、色々窮屈なことも多いはずなので、何か面白い文化が生まれているに違いない。例えば音楽でも、奴隷として扱われていた黒人文化の中からジャズやブルースが生まれたり、抑圧の中からパンクが生まれたり、演歌だって元を辿れば自由を訴える演説の歌から始まった。ということは北朝鮮でも、密かに入った欧米の音楽が独自の進化を遂げてる可能性もあるし、あるいは伝統楽器をふざけたやつらがメチャクチャに搔き鳴らしバカ騒ぎの大パーティーをやってるかもしれないし、それがすでに一つの地下音楽のジャンルを形成しているかもしれない。かつて冷戦時にロックが禁止だった東ドイツでも密かに入手したカセットテープを聞きまくって大量のバンドが極秘裏に結成され、ビルの地下などで秘密にライブが行われていたが、冷戦の終結後にそれが一気に明らかになって西ドイツの奴らが腰を抜かすほど驚いたそうだから、北朝鮮でも面白いことが今起きていてもおかしくはない。
 芸術も同様で、何か頭をひねることが多い時にはいろんなものが生まれる。校則の厳しい高校で、髪型や制服などいろんな制約がある中でなんとかしてオシャレしてみたり、小学生が学校に持って来ちゃいけないものリストを凝視しながら学校での新しい遊びを研究開発する、あの感じ。自分も警察に捕まった時、留置所内であまりにヒマなので同房のヤクザや外人たちと一緒に密かにトイレットペーパーを溶かして固めて乾燥させてサイコロを作り、博打やスゴロク、謎の新ゲームを始めたりもした(看守に見つかったら怒られて没収されるけど、いつでも無限に作れる)。あの手この手を使ってすごい表現を編み出しているはずだ。あるいは、日本から予想すると超窮屈な社会と思ってるけど、実はなぜかある方面だけ超自由な謎のピンポイントがあったりする可能性もある。我々からしたら「おお! そんな表現があるのか!」と驚きの連続なはずだ。
 さて、この辺の地下文化に触れるためには、どこの国でも同じだけど、とりあえず飲みまくったりして仲良くなって打ち解けていくと、必ず「おい、ちょっと面白いもの見せてやるよ」と、こっそり教えてくれたりする。北朝鮮でもこの方式でマヌケ文化に接して見たい。

手付かずの大自然!

 資本主義社会の最悪なところはなんでも金にしようと目論まれてしまうところ。ちょっと面白い街並みがあれば大企業がどんどん進出して来て開発してあっという間につまらない普通の大都市になってしまう。田舎のいい場所もちょっと油断するとリゾート開発され、自然は壊され不自然な高級ホテルや施設が立ち並び、せっかくの大自然が台無しになってしまう。現在の北朝鮮の田舎は、まさにクソ田舎もいいところで空気もきれいだし景色がすごくいいはずだ。道も悪いし交通の便も悪く、コンビニも何もなく、めちゃくちゃ不便なはず。でも、そんな田舎の人たちと交流できたら、日本から来たなんて言ったら目を点にして驚くに違いない。これはやばい。もはや日本では無くなってしまった田舎の光景に出会えるに違いない。

北朝鮮に行こう!

 いや〜、色々考えてると、北朝鮮にある謎の地下文化圏、見てみたくなって来た〜〜〜! とは思うが、まだちょっと早そうだ。国と国が睨み合ってバチバチしてる時、とばっちりを受けてひどい目に遭うのは、決まって我々のような下々の庶民だ。「うわ〜、楽しそうだ!」とか言っていきなり大喜びで訳も分からず北朝鮮に行ったりしたら、言っちゃいけないこと言っちゃったり、やっちゃいけないことやっちゃったりして捕まって懲らしめられても大変だ。それに何も考えてない奴らが大量に現れたら北朝鮮人のその辺の奴らにとっても「まだ早い!」「ややこしい!」と、大迷惑かもしれない。もう少し様子をみよう。で、ちょっとでも隙が出てきたら、続々と遊びに行って、庶民たちとの交流、特に最高に面白いことやってる大バカな奴らとの交流をしまくるのがいい!
 そこで少し思うのは、北朝鮮の一般市民は超大変な生活してるかもしれないのに、そんな面白半分で遊びに行ったりしたら失礼じゃないか、という意見。少し頭をよぎる。初めて中国に行った時に少し思ったんだが、その時は1994年で、中国の特に田舎の方なんかはまだ超貧乏だった。当時貧乏学生の自分ですらなんでも買えるぐらい物価も全然違う。現地の田舎の中国人も「お前ら日本人は金持ちでいいよな!」と、よく嫌味を言われた。「いや、超貧乏だよ」と言っても無意味で、当時頑張ってバイトして貯めた10万円ぐらいの現金なんか、向こうでは誰も見たことないぐらいの大金。結局「お前らには俺たちのことなんかわからないよ。こっちは本当に大変なんだから〜」と言われたりもしたが、まあそれは確かにその通り。例えばドバイやアラブあたりの若い奴が財布に300万円ぐらい入れて「いや〜、俺たち貧乏だよ」と、高円寺の寂れた商店街に現れても、我々は当時の中国人と同じことを言うはずだ。むやみに状況の差があるところに行ったら、結局は金があって余裕がある立場から面白半分に見てるように映るんじゃないだろうか。
 …しかし! 大丈夫! そこは臆せずどんどん行こう。我々が行うであろう交流は単なる観光客のように金を使って消費しまくって「いや〜、楽しかった」と帰る訳じゃない。もしかしたら最初は勘違いされるかもしれないけど、色々話をしてみたり、遊んだり、面白い情報を交換しまくっていくうちに「おお、お前はそういうことやりたいのか!」と、こっちの価値観もわかっていくはずだ。もちろん最後まで悪態ついてくるやつもいるかもしれないが、それは高円寺に来たアラブの石油王に「テメー、金もってんじゃねーか。なめんなよコノヤロー」と絡みまくる高円寺人がいるのが容易に予想できるのと同じことだ。そんなのを気にしていてもしょうがないので、どんどん交流を攻めて行こう。それに少しでも多くの交流があれば、こっちもすごい刺激を受けたり新しいことを知ったりできるし、向こうにとってもそうだ。それに今はチンプンカンプンでも後々「あ〜、あれは!」と、気づくことだってある。
 いま、世界にはびこる社会状況の二大悪は、金もうけ優先主義と管理社会。それに対抗するには、勝手な奴らが自分たちの力で、小さくてもいいからのびのびとした社会をどんどん作っていくことが大事だ。マトモ風にいえば独立と自治を大事にした空間や社会を無数に作っていくこと。そのためにも大バカたちの交流をどんどんしていって、ふと思いついたやつがどんどんなんか始めちゃう感じが一番面白い。それにそういうのを求めている奴らは、どんな国や社会にも大量にいるはずだ。ということで、交流しにいくのを変に遠慮して、ちょっとでも躊躇していたら、その隙に「ほら、みんなお金欲しいでしょ?」という謎の手配師みたいなのが続々と乗り込み、あっという間に金もうけ最高な感じのつまらない社会になってしまう。それか逆にどんどん管理して身動き取れなくなっていくようなでかい政治の力が働いて来たりもする。どっちにしてもつまらない。大資本vs管理社会vsマヌケの三つ巴! ギャー、絶対負けそうだ! ええい、コノヤロー、こうなったらマヌケの恐ろしさを見せるしかない!

共産主義と資本主義の現状についての復習

 最後に改めて、北朝鮮をめぐる周りの環境についてのおさらい。いま、アメリカやら北朝鮮が周辺を巻き込んでガタガタ揉めたりしてるけど、これなんだかんだいって、かつての共産主義vs資本主義のわだかまりみたいなものが大きい。いま、その両方はどうなってるのか? さあ、勝手にまとめてみましょう〜
 まず、「みんなで金もうけして競争しまくったら勢いづいてなんだかうまくいくんじゃねえか?」って言うのが資本主義の原理。ただ、よくよく考えたら分かる通り全員が儲かるわけなんかなく、限りある人口の内のだれかが貧乏くじを引くことになり、その貧乏くじのたらい回しをしているのがいよいよバレてきて、おまけに儲け度合いも限界に達して来て、ついに頭打ち状態になってるのが現在の状態。
 一方、共産主義は「人から金を巻き上げたりする経済はよくないから、みんなで働いてちゃんとうまく計画して平等に分けたらそんなに苦労しなくて生きられるだろ」ってことから始まった。そう、その理想は素晴らしいんだけど、これが残念ながら見事にことごとく失敗。それもそのはず、世の中には悪いやつやだらしないやつ、どうしても言うこと聞かないやつなどが山ほどいて、そいつらを「マジメに働け」と取り締まりまくったらキリがなくなって超窮屈な社会になるし、ほったらかしてたら計画通りにものが進まない。このジレンマでニッチもサッチも行かなくなって、苦肉の策で超窮屈社会になるか弱肉強食社会に戻るかで二分してきているのが現在の感じ。
 そう、言っちゃえばどっちも今の所大失敗してるのだ。失敗者同士の戦い。これは切ない! 夫婦喧嘩の言い合いの末、カミさんにケチョンケチョンに言い負かされて、誰の目にも敗色濃厚なのに、脂汗を流しながら「いいや、俺はまだ負けてねえ!」と、根拠なく頑張ってるお父ちゃんの感じ。そのお父ちゃんが二人で、どっちがかあちゃんと善戦してるか競ってる。いまの煮詰まった資本主義経済も行き場を完全に間違えてる共産主義国家も、そんなやせ我慢のお父ちゃんと同じ状況なのだ。 いや〜、こりゃ〜バカバカしい。どっちもパッとしないじゃねーか!
 さあ、そんな時はマヌケの出番。敗色濃厚な時は負けを認めた時から面白くなってくる。「もう無理! 金もうけばっかり考えてたって限界あるじゃねえか! 無理無理! もういいよ、金にもならないことでも、みんな好きにやったらいいじゃねーの」とか、「いや、周到な金勘定とか、全て管理を徹底するとか無理! みんな全然いうこと聞かねーじゃねえか! もう自由にやったらいいじゃねーか、どうなっても知らねーよ」とか、そんな感じ。いいね〜。じゃ、あとの社会はどうなるの? そんなの知ったこっちゃない。我々にできることは、どんな世の中になってもその社会に食い殺されないために、少しでも自力で自分たちの独立した生活圏や謎のネットワークを作っておくことだ。そう、そんな自分たちの生活を守るためにも、世界中のマヌケな奴らとのネットワークを作りまくっておくしかない。さあ、諸君、北朝鮮に遊びに行ける瞬間を虎視眈々と狙いまくっておこう〜!
 いや〜、これは楽しみ!!!!!! みなさん、北朝鮮に行く準備を整えるしかない!

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松本哉
まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)編著に『素人の乱』(河出書房新社)。