『障害者の経済学』増補改訂版(中島隆信/東洋経済新報社)

 岡山県倉敷市で障害者の就労支援のための事業所を運営する会社が経営破綻し、障害者約170人を解雇されるというニュースが流れたのは今年の3月だった。中央省庁による障害者の雇用数の水増しが発覚したのは8月。前者においては、経営者が十分な仕事がないにもかかわらず、補助金目当てで利用者(障害者)を集めていたことが、後者では国の法定雇用率(2.5%)をクリアするために数値を偽っていたことが明らかになった。
 障害者の雇用はこのようにごまかしの対象にされるけれども、本書のメッセージを集約すれば、「障害者を健常者と比べ、能力が低いからといって働く場を与えないことは、人道的見地のみならず、経済的効率性の観点からも不適切である。どんな人でも世の中の役に立つ」となろうか。その根拠を様々なデータや取材で得たものを駆使して示すのだが、随所で人間心理の痛いところを突くのは、著者自身が脳性マヒの子どもをもつ当事者だからかもしれない(本文でそのことをおくびにも出さないが)。
 北海道の浦河町にある「べてるの家」をご存知だろうか。統合失調症を患い、幻聴や幻覚に悩まされ、許容限度を超えるとパニックを起こし、自傷・他傷行為に及んでしまうこともある人たちが住み、通っている。施設ではない。近くにある日赤病院の精神科からの協力を得ることで、障害者が地域で暮らすことが可能になっているのである。
 浦河町の人口は約1万4000人。「べてるの家」のメンバーは150人。人口の1%強が住むところを確保し、生活物資を地元で調達することの経済的効果は小さくない。
 そもそも障害者の仕事ぶりは様々であり、自閉症の障害をもつ人は対人関係を苦手とする一方、決められたことを着実に行うことは得意であり、手抜きをしない。重度の知的障害のある人でも、会社の玄関の前で箒を持っているだけで、そこにごみを捨てる者はいなくなる。それを馬鹿にするなかれ。本書を読み進めれば、マネーゲームに狂奔するような人たちの異常さの方が際立ってくるはずだ。
 WHO(世界保健機関)によると、全世界の人口の15%が障害者だという。米国は人口の20%が障害者という前提で社会をつくっており、ニュージーランドのそれは22%とのこと。この数字(5人に1人)は、障害者がもはやマイノリティとはいえないことを示している。
 日本はどうかといえば、わずか7%弱だが、約860万人の身体・知的・精神障害者に認知症患者462万人が加わると、一気に10%強に上がる。さらに発達障害、アルコール依存症などを患う人も含めれば15%になる。
 であれば、そこですべきは健常者と障害者の区別をなくし、個々のもつ相対的に優れた能力を磨いて、それを社会に活かすことをみなで考え、誰にでも居場所のある社会をつくっていくことではないか。
 きわめてシンプルな結論である。けれどもそこにいたるまでの論考は何度も読み返したくなる。

(芳地隆之)

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