第140回:小泉国会改革の限界を見た(南部義典)

 “平成のうちの国会改革”を訴える小泉進次郎議員らが、国会閉会後、日本記者クラブで会見を行ったというので、期待を込めて動画を視聴したのですが…。

 「平成とは何だったのか」(15) 平成政治、そして国会改革 2018.12.14 @日本記者クラブ
ゲスト:小泉進次郎、村井秀樹、小林史明、福田達夫

 小泉議員は、「国会改革は今まで、与党が悪い、野党が悪いと互いに言い合うだけで、何一つ進んでこなかった。悪いのは“ルール”である。各党の国会対策委員会の合意があってもすぐに守られなくなるという失敗の連続で、“負け癖”が付いている。今こそ、何かを形にしたという“成功体験”が必要だ」「小さいテーマだが、①党首討論の定例化、②ペーパーレス化などIT活用の推進、③女性議員が妊娠・出産で採決に参加できない場合の代理投票、をまず実現したい」と述べました。

 そして、「国会改革は、間違いなく前進している」とも。「臨時国会最終日(2018.12.10)に開かれた衆議院議院運営委員会の理事会では、『②ペーパーレス化などIT活用の推進』を今後、正規の議題として採り上げることを決定した。議題に上がるだけでも画期的なこと」と評価したのです。

 掲げるテーマの小ささに対して、さすがに出席者(新聞記者)からも突っ込みが入りました。「国会改革で議論しなければならないのは、法案・予算審議の形骸化とか、常態化している会期末の混乱ぶりを踏まえ、国会をどう機能させるかという本質的部分ではないか」……。しかし、このような指摘に対しても、小泉議員は、「どんなに大きなテーマを掲げても、まずは小さなことから実現していかなければ意味がない。それが大きな改革につながっていく」と反論しました。

 次回、2019年1月に召集される国会(第198回国会・常会)は名実ともに「平成最後の国会」となります。小泉氏らの頭には、「②ペーパーレス化などIT活用の推進」を2019年通常国会のうちに何とか実現して、一つでも実績を残したいという思いがあるに違いありません。

小泉国会改革は、単なる「爪切り改革」ではないか

 国会改革は、およそ衆議院、参議院の組織、運営のあり方に関して、幅広いテーマを含むことは間違いありません。また、議院の構成は、選挙を通じて多数派と少数派が入れ替わる可能性を常に有しているので、その時々の与党の言い分だけで国会改革を進めることはできず、少数派である野党との合意の下で実現されることが不可欠です。この意味で、実現できるテーマが自ずと絞られてしまうのも、改革の限界として諦めざるを得ない面もあります。

 しかし私は、小泉国会改革のテーマ設定は、内容は正しくても、方法論としては誤っていると考えます。テーマの大小に関わらず、いつまでに実現するのかを時系列に並べて(政治論としては必然的に「議員としての任期中に」ということになりますが)、その達成度をオープンにする(評価に晒す)ことが必要なはずです。今のやり方は、大きなテーマを最初から排除してしまっているので、成功のハードルがとても低いのです。これでは、国会改革の名に値しません。私たちが「改革」という単語から受け取るイメージとは、相当かけ離れた内容です。

 一つ、例を出しましょう。ある病院に、重症患者が運ばれてきたとします。全身に負傷があり、早く手術をしなければ命を失う危険があります。しかし、医師の間では、手術の方針が一致せず、その重症患者は担架の上に乗せられたままです。

 「手足の爪がだいぶ伸びているようなので、まずは、爪を切りましょう」と、ある医師が言い出したとします。そして時間をかけて、ひたすら爪を切り始めました。おかげで手足の先はすっきりしましたが、それ以上は何もしません。爪切りは、果たして必要な手術だったのでしょうか。本来必要とされる手術にどうつながっていくのでしょうか。こんな対応では、遅かれ早かれ、患者のバイタルサインは消えてしまいます。本来の手術を考えない小泉国会改革は、単なる「爪切り改革」なのです。

身内批判の覚悟があるのか、ないのか

 小泉議員らは、自民党の若手の中でも強い発信力を持ち、発言、行動の一つひとつが注目されるポジションにあります。しかし、残念であり、情けないと思うのは、身内(自民党の先輩議員)に対する批判を避けようとする、その態度です。「悪いのは“ルール”である」と、誰も傷つけないような優しさを醸し出していますが、それでは改革者の名に値しません。

 臨時国会が閉じた後のエピソードですが、こちらのニュースをご存知でしょうか。

→首相が「若い連中もっとヤジを」発言? 河村氏すぐ訂正(朝日新聞2018.12.13配信)
→「若い連中、もっとやじを」首相が発言? 河村氏が一転訂正(毎日新聞2018.12.14配信)

 12月12日の夜、安倍総理と自民党幹部数名が会食した際、総理が「若い連中はもっと元気を出して、やじがもっと出てもいい」と発言したと、河村建夫・元官房長官が記者団に述べたという記事です。

 河村氏はその後、発言を撤回しているようですが……、それにしても、自民党の若手議員は随分となめられた存在で、自身のプライドは傷つかないのでしょうか。少なくとも、報道内容の真偽(総理発言の存否)に関して、ただちに決起して糾していくのが士(サムライ)の精神でしょう。「若い連中は、もっと野次を飛ばせ」と、ベテランから若手へと脈々と受け継がれてきたそのメンタリティこそ、国会改革を妨げる一因となっているのではないでしょうか。これを黙殺することが、国会改革をどれほど遅らせることになるのか、想像がつかないのでしょうか。

 身内批判の精神が必要なことは、別のエピソードからもいえます。

 臨時国会で最大の焦点となった外国人材拡大法は、「中身がスカスカ」との批判が高まりました。仮に、小泉議員らが野党の立場になった場合、時の内閣がそのような「中身がスカスカ」の法案を国会審議に乗せようとしたら、立場は変わっても、まったく同じ批判を加えるはずです。与党・野党のいずれの立場にあるにかかわらず、「中身がスカスカ」の法案を扱うのは絶対避けなければならないはずです。

 しかし、つい2日前(12月17日)、自民党の法務部会が開かれ、「特定技能の在留資格に係る制度運用に関する基本方針(案)」「特定技能の在留資格に係る制度運用に関する分野別の方針(案)」「新たな外国人材受入れに関する政省令(案)」「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(案)」が初めて政府側から提示され、若干の議論があったものの、最終的には了承されました。
 外国人材拡大法案の「中身がスカスカ」だったのは、これらの内容が、法案審議に間に合うタイミングで提示されなかったことに他なりませんが、国会が閉じて、わずか1週間しか経っていないのに、実質的な中身の話をまとめて出すという政府の態度に、小泉議員らは何の疑問も、怒りも湧いてこないのでしょうか。言い換えれば、1週間でも2週間でも会期を延長していれば、あるいは衆議院で閉会中審査の手続きを取って、通常国会でも時間をかけた法案審議を進める扱いにしていれば、「中身がスカスカ」との批判をかわすことができたはずです。国会改革の狼煙を上げながら、法案審議の形骸化を象徴する今回の出来事に対して、何のアクションもしないというのは到底信じられません。

「一期一言一会」のメッセージが泣く

 私も一度経験があるのですが、日本記者クラブで会見をしたゲストスピーカーは、その揮毫を披露することになっています。
 小泉議員は「一期一言一会」(いちご・いちごん・いちえ)と書きました。「一期一会」に加えて、政治家はその発する一言ひと言が重要だという意味を込めての造語と説明しています。小泉議員らしいともいえますが、言葉が大切であるという思いがあるのであれば、自らが発信する「国会改革」のメッセージ性についても改めて問い改めるべきです。
 小泉議員を買い被りすぎるメディアも問題です。ポスト平成から実行すべき国会改革を、本質的な所から後押しするような報道を心がけていただきたいところです。

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ご関心のある方はぜひ、ご一読ください。

南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。現在、シンクタンク「国民投票広報機構」代表。主な著書に『図解 超早わかり18歳成人と法律』、『図解 超早わかり国民投票法入門』(以上、C&R研究所)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)、『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナー No.255)』(共著、日本評論社)、『広告が憲法を殺す日』(共著、集英社新書)、『18歳成人社会ハンドブック』(共著、明石書店)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会)、などがある。(2019年1月現在)