隣近所の人を知っていますか?――芝園団地から考える「多文化共生」(中村)

 よく聞くようになった「多文化共生社会」という言葉。でも、それは一体どんな社会のことなのかイメージできているでしょうか?

 ここ数年の間に、近所のコンビニや居酒屋に行けば、さまざまな国の人が働いていることがすっかり当たり前の光景になりました。働いている人も同じ地域の住民だと思うのですが、お店以外の場所で接点をもつことはありません。

 在留外国人の数は、2018年6月末時点で263万7251人(法務省)と、統計をとり始めた1959年以降で最も多くなりました。改正入管法も成立し、これから私たちの暮らしが変わっていこうとしています。外国人の隣人とともに、どう暮らしていくことが「共生」なのでしょうか。

 そのヒントを探しに、公益財団法人早稲田奉仕園が開催した「多文化共生のまちを歩く〜川口市芝園団地」に参加して、埼玉県川口市の「UR芝園団地」を訪れました。埼玉県川口市は全国で3番目に外国人居住者数が多い地域ですが、芝園団地では住民の半数以上が外国人です。

 芝園団地の自治会事務局長・岡﨑広樹さん、「芝園かけはしプロジェクト」の圓山王国さんに伺ったお話を紹介します。

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 1978年に建設されたUR芝園団地は、約10万㎡の敷地に居住棟が7棟あり、総戸数は2400以上。JR蕨駅から徒歩8分、敷地内には商店街や幼稚園もある便利な場所。完成当時は、「こんな家賃が高いところに誰が住むのだろう」と話題になった場所でした。

 団地内を歩いてみても、築年数は古いもののきれいに整備され、公園や集会室などもあり、設備のしっかりした団地だということが分かります。しかし、かつてあった小中学校は廃校となり、当初からの日本人住民は70代以上が多くなっています。
 現在では、この芝園団地に暮らす約5000人の住民のうち、半数以上が中国人をはじめとする外国人住民です。日本人とは対照的に、外国人住民の大半が30代前後。子育て世帯も多く、子どもの小学校進学などを機に2〜3年ほどで引っ越す人が多いと言います。

 この芝園団地で外国人住民が増えていったのは、1990年代後半から。そのなかで、ごみの分別、騒音など生活習慣の違いから起きるトラブルを経験してきました。2010年に週刊誌で「チャイナ団地」などと取り上げられ、外からやってきた人たちが誹謗中傷の落書きや張り紙をしていくこともありました。こうしたなか、芝園団地自治会では大学生など外部の人たちとも協力しながら、日本人住民と外国人住民の関係性づくりに積極的に取り組んできました。

 「芝園団地での問題がいちばん大きくなったのは、2010年頃だったと聞いています。外国人が集住すると、いままでとは違う生活習慣が持ち込まれることになります。それは、公平に見れば生活環境の『変化』ですが、日本人側にとっては『悪化』に映るかもしれません」

 そう話すのは、2014年から芝園団地で暮らし、自治会事務局長を務める岡﨑広樹さんです。

芝園団地自治会事務局長の岡﨑広樹さん

 岡﨑さんは、以前に知り合いになった中国人住民から、「日本人は『郷に入っては郷に従え』と言うけれど、従おうと思っても、その郷が何かよくわからないから難しい」と言われたことがあるそうです

 「外国人住民にとっては情報が不足していて、日本のルールがよくわからないということもある。日本に入国するときに、誰も生活習慣について説明しませんよね。市区町村に転入するときにも、せいぜいパンフレットをもらうくらい。地域に住み始め、ゴミを捨てようとしたときに初めて『分別ができていないよ』って怒られるんです。悪気があってやらないのは困りますが、分からないからできないということもあります」(岡﨑さん)

 こうした状況を踏まえて、芝園団地ではさまざまな取り組みをしてきました。ゴミの分別・散乱に対しては、ごみステーションを分別の種類ごとに鉄枠で囲い、掲示物を3か国語表記にするなどの工夫をしています。また、自治会と市役所とURで話し合い、2012年から管理事務所に通訳の人を置くようになりました。さらに、文字だけでは分かりにくいので、イラストを使いながら「なぜ日本ではそれをしたらダメなのか」という理由がわかるように明示した外国人住民向け自治会冊子も配っています。

日本語、中国語、英語とイラストを使ったごみステーションの表記

 こうした工夫によって、生活習慣の違いによるトラブルは以前に比べるとかなり減りました。もうひとつ、外国人住民への情報伝達の工夫と同時に、岡﨑さんたちが取り組んできたのが人間関係の接点づくりでした。

 「結局のところ、人間関係の問題だと思うんです。接点ができると、そこから人間関係が生まれてきますよね。日本人、外国人に限ったことではなく、『あの人が言うなら協力しようかな』という関係が生まれてくる。
どこもそうだと思いますが、芝園団地の自治会加入率は下がっていて、日本人住民でさえも世帯の3分の1ほどしか加入していません。私が住み始めたとき、外国人住民の自治会員は数世帯だけでした。けれど、知り合いになった人たちなどに『自治会に入ってくださいよ』と頼んだところ、新規で50世帯が加入してくれました。2015年からは4年連続で中国人住民も自治会役員をやってくれています。それは人間関係ができたからなんです」(岡﨑さん)

住民同士が交流する場をつくってきた(画像提供:芝園かけはしプロジェクト)

 しかし、そうした地域住民同士が接点をもつ場自体が、そもそも日本社会から減っていると岡﨑さんは感じています。

 「自治会や地域のイベントに参加する人は限られているし、公民館で何かを一緒にやる機会もない。世代がちがうと子育て関係でのつながりもありません。芝園団地に限らず、隣近所の人を10人も20人も知っているという人が、いまの日本でどれだけいるのでしょうか。日本人同士ですら隣近所の人を知りません。接点がないのに、どうやって共生ができるのでしょうか」

 芝園団地での「接点づくり」に中心となって取り組んできたのが、学生団体の「芝園かけはしプロジェクト」です。さまざまな大学から参加する約35名がボランティアメンバーとして、芝園団地に通いながら活動を行ってきました。先ほど紹介した外国人住民向け自治会冊子も、この学生たちが中心となって住民にヒアリングして制作したもの。プロジェクトの代表で、大学院生の圓山王国さんが活動について紹介してくれました。

 「活動は大きく3つあります。ひとつは、いろいろな住民が集まる夏祭りのような大きなイベントを開催すること。もうひとつは、もっと日常的なコミュニケーションの場として、月1回の多文化交流クラブを開催することです。このクラブでは、日本と中国の料理を持ち寄るランチ会、住民が講師となる中国語教室、広場での太極拳体験などを行ってきました。そして3つ目は、日本人住民と外国人住民が一緒になって、こうしたイベントを企画・運営するという試みです」(圓山さん)


上2点:多文化交流クラブでの様子(画像提供:芝園かけはしプロジェクト)

 2016年2月から始まった多文化交流クラブには、これまでに延べ600人以上が参加しています。

 「ただ、芝園団地の住民数は約5000人なので、住民全体でみると600人というのは多くはありません。こういうイベントに参加してくれるのは、交流に関心がある方に限られる。外国人住民に対してネガティブな人、交流に無関心な人にどう接点をもってもらうのかは、これからの課題です」(圓山さん)

 岡﨑さんは、最後に「そもそも共生社会って何だと思いますか?」と問いかけます。

 「『チーズケーキをつくりましょう』と言ったときに、チーズケーキが何なのかわからなかったら作れないですよね。『多文化共生』という言葉をよく聞くようになりましたが、私たちは共生社会のイメージさえ共有できていないのではないでしょうか。
 たとえば、隣近所に住む外国人と『お互いに静かに暮らしあえる関係性』が『共存』だとします。そして、『お互いに協力し合えるような関係性』を『共生』だとします。でも、日本人同士でさえ、いまの隣近所との関係は多くが『共存』止まり。芝園団地で起きていることは日本社会の縮図だとも思うのです。日本人、外国人に限らず、隣近所で人間関係の接点をつくろうと思うと大変だし、苦労もあります。どれだけの人が『そういう大変な思いをしてもいいから共生を目指したい』と思っているのでしょうか」

 たしかに、とくに都市部では多くの人が隣近所と干渉し合わない「共存」関係で暮らしている人のほうが多いかもしれません。わざわざ面倒な人間関係を築かなくても……という気持ちも理解できます。でも、何かトラブルが起きたときには、協力し合える関係が重要になるかもしれません。若くて元気で何も問題がないときは「共存」でもいいけれど、たとえば高齢になったり、災害が起きたり、という場面を想像してみると「共生」関係の必要性が迫ってきます。

 「私自身は『共生』が大事だと思っているから、いまここで試行錯誤をしています。だけど、それは簡単ではないな、というのが5年たっての正直な感想です。
多文化共生の社会を目指すのであれば、地道な活動を続けて人間関係を築くことが必要ですし、問題の当事者である住民だけでは難しいので、第三者として地域づくりを支援する人材を配置するなど、行政や国の施策も必要になると思います。
 多くの人にとって芝園団地の問題は『対岸の火事』だと思いますが、これから、みなさんの隣近所でも同じことが起きるかもしれません。そのときにどんな選択をするのでしょうか。そう思って私たちの話を聞いてもらえればうれしいです」(岡﨑さん)

夏祭りで日本人住民と中国人住民が一緒につくった「ペットボトルランタン」/タイトル画像も同じ(画像提供:芝園かけはしプロジェクト)

(中村)