今回のレポートは、私が暮らす地元ベルギーの動きをお届けする。
雪が残る1月24日木曜日、気温1度のベルギー首都ブリュッセルの中心部を中高生が埋め尽くした。気候変動問題のための学校ストライキ(School Strike for Climate)は1月10日に2000人で始まり、翌週の木曜日は1万2000人になった。そして3回目の24日は3万5000人へと膨れ上がった。労働組合や環境団体もかかわらない、大学生さえ蚊帳の外の中高生による毎週木曜の自発的行動に、大人もメディアも驚愕している。
(Climaxi.beのフェイスブックページから)
こうした「#ClimateStrike」(気候ストライキ)が、スウェーデンの16歳の環境活動家グレタ・トゥンベリさんがたった一人で起こした行動への共感と共鳴によって、ブリュッセルだけでなくスイスやドイツの都市でも広がっている。昨年8月の夏休み明け、グレタさんは学校に行く代わりにストックホルムの国会議事堂前に単身で座り込み、政府が気候変動問題に真摯に取り組むことを求め、2週間にわたってこの行動を続けたのだ。
彼女は11月のポーランド、カトウィツェでの国連気候変動枠条約会議でも発言し、この1月には世界の政治・経済会のリーダーがスイスのリゾート地ダボスで集まる世界経済フォーラム(ダボス会議)でも伝説的なスピーチを行った。スウェーデンからダボスまで32時間かけて電車で行き、スイスの高校生たちの #ClimateStrike に加わった。
敬意を込めてグレタと呼ばせてもらう。グレタは大人の偽善的な気候変動問題への態度に「将来に希望があるなんて言ってほしくない、私が毎日感じているようにパニックになってほしい」と訴えた。
「気候変動はみんなが作った問題と言ってみんなの責任にするのは都合のいい嘘。大企業や政治家は気候変動問題のつけが誰にくるのか完全に知りながら、現状を変えずに想像を絶するお金を毎日稼ぎ続けている」
世界の富と権力を握る支配階級エスタブリッシュメントの前で、グレタは気候変動問題を権力と正義(ジャスティス)の問題だと、するどく指摘したのだ。ダボス会議の参加者に対して「この部屋にいる多くの人たちが、この(支配階級エスタブリッシュメントの)グループに入っている」と堂々と言った。ところで彼女の英語は美しい。私は世界中で北欧の人の英語が一番きれいでわかりやすいと思っているが、彼女の度胸だけでなく、中学生が母国語でない英語でスピーチするスウェーデンの英語教育のすごさにも感心してしまった。
(グリーンピース・ジャパンのフェイスブックから)
私の息子ヨナタン(高3)もブリュッセルの隣町ルーベンから #ClimateStrike に参加している。ヨナの学校からは150人がいっしょに電車に乗ってブリュッセルへ向かった。24日朝に学校からお決まりの電話がかかってきて「ヨナタンが学校に来ていませんけど」「気候アクションに行きました」「あぁやっぱりね」というやり取り。学校は公式には反対しているが事実上は容認している。
ブリュッセルの #ClimateStrike のリーダーシップはみんな女の子だ。その一人アヌナ・デ・ヴェーバーは、同性の環境大臣が親しみを込めて「若い人たちが環境対策を支持してくれてうれしい」なんて言ったら「(何とぼけたこと言ってるの)私たちはあなたたち政府の腰抜け政策に完全に反対しているし、怒ってるの」と一蹴した。グレタと同じように彼女たちも、極寒の中集まったティーンエイジャーたちも、解決を装って本質的に何もしない政府の欺瞞を見破っている。
おりしも12月、ベルギー政府は、右派政権であるチェコとともに、エネルギーの使用削減を図るEUの政令に反対したのだ。「この国の大人たちが責任を果たすまで、私たちは木曜日に学校をストライキする」と5月の総選挙までがんばる意向だ。
今年5月には、EU議会選挙とベルギー国政選挙が同時に行われる。世論調査によると、気候変動問題を「18~25歳」が一番大切な政策として挙げているのに対し、「50歳以上」では優先順位7番目である。現在のベルギー政治は、経済は新自由主義、政治はナショナリズムという、最近お決まりのコンビネーションだ。昨年11月に国連で移民に対応する初の枠組み「国連移民協定」が決まった時、連立与党4党のうち最大議席を持つ右翼政党「新フラームス同盟N-VA」の閣僚が「移民政策に関する主権を失うことにつながる」などとして辞任し連立が崩壊した。
N-VAは、ベルギーからのフランダース地方の分離独立を主張する極右政党と共に、この選挙の関心を難民や移民攻撃に向け、脅威、憎悪を強調することで不安をあおり、議席を伸ばそうと画策している。そのために閣僚が辞任して連立を崩壊させたのだから。このような政策は50歳以上の(白人男性)有権者には、特に有効だ。
来たる選挙も悪質な右派ポピュリズムに独占されるのかと暗澹としていた矢先、高校生たちがまったく違う風を起こしたのだ。彼らにとって、本当の、そして緊急の脅威は、気候変動問題なのだ。インターネットで世界中とつながり、英語を楽々と使いこなし、多文化社会の豊かさを地で知っているミレニアム世代は、移民、難民を攻撃する作られた脅威を簡単に見破っている。そして社会や政治に届かない声を直球で表現し始めたのだ。気候変動問題を黙殺して自分たちの将来を奪うのは許せないと。
実は、ベルギーは他の近隣諸国と違って環境主義が発展してこなかった。それがどうしてなのか私にはよくわからない。有機食品は極端に少ないし、ベジタリアン文化も乏しいし、自動車生産国でもないのに自動車大好きで車に乗っている人たちが必要以上に威張っている。自分たちが原因にもかかわらず車の渋滞のひどさの文句を言い、どこにパーキングできるかの情報交換は、主要な話題として延々に続く。結果、ヨーロッパでもっとも空気汚染がひどい国となってしまった。
ヨナタンが #ClimateStrike に参加したいと言ったとき、私たちは親として誇りに思った。たとえ最初の動機が学校を休める、だったとしても、彼は同世代が1万人以上も路上を埋め尽くして声を上げる高揚感を存分に味わったはずだ。これからもベルギー政府が真に態度を変えるまで木曜日の #ClimateStrike に参加するだろう。彼は、今まで非営利セクターで働き、車も免許も持たない環境主義者の両親を冷ややかに見てきた。自分はこんな分の悪い生き方はまっぴらと思っている節がある。夜遊びとファッションに忙しい不良少年にとって、真面目や一生懸命はアンクール(かっこ悪い)と同義語だ。
ブリュッセルで「気候変動問題をちゃんとやれ」という高校生集団が彼の中でクールになった時、私は彼の中だけでなく社会全体で地殻変動が起きたと思った。これは、世界中で断続的に起こっているアンチエスタブリッシュメントの運動と無関係ではない。10代の怒りは支配層だけでなく、気候変動問題の緊急性をないものとする大多数の大人に向かっているため、その力強さは半端じゃない。彼らはこの選挙の争点を変えるだろう。娘、息子が#ClimateStrike に行くことを親が許可しないという話も周辺で聞いているが、来週はもっと多くの親が、これ以上の自立と民主主義の教育はないと気が付くかもしれない。
#ClimateStrikeに呼応するかのように1月27日、日曜日に行われた「気候デモ」にはベルギー過去最多の7万人が参加し、ブリュッセルの街を歩いた。冷たい雨はつらかったけど、小さな子どもたちかからお年寄りまで、3、4世代をつなぐ平和な行進だった。そして、#ClimateStrikeの主役たちもたくさん来ていた。中高生たちは大人に対して怒っているけど、世代を分断しているわけではない。むしろ世代をつなげているということを、このデモが証明してくれた。世代を超えた私たちの怒りは、政治家を含めた支配階級に向いているのだ。
●グレタによるCOP24での演説の日本語訳が、こちらのブログに載っています。