第143回:行政監視院は、誰の味方か?(南部義典)

会期末に提出された“重要法案”

 国会の会期末が近づいていて、明らかに成立させることができないと分かっていながらも、法案が次から次へと提出されることがあります。「会期中に法案を○○本提出した」という単なる実績づくりと見透かされようとも、「出さないより出した方がまし」ということで、与党・野党を問わず、議員立法のオンパレード現象になるのです。
 今回紹介する行政監視院法案は、2019年6月17日、立憲ほか野党5会派が衆議院に共同提出したものです。第198回国会の会期末日(6月26日)の8日前なので当然、審議入りさえしないことを織り込んでいるわけですが、国会の権威失墜に歯止めをかけ、大局的には国民主権、法の支配を全うしようとする制度を構想する重要な法案であり、「一部野党の実績づくり」と受け流してしまうには、じつに勿体無いと私は考えています。また、この法案を近い将来、必ず成立させるべきと私は熱望していますが、現段階での法案内容に全く問題がないというわけでもありません(生煮えな箇所がある)ので、改めて読者の皆さんにも考えていただきたいと思います。

 以下、「行政監視院の活動イメージ」を横に見ながら、読み進めてください。

行政監視院の目的

 法案の第1条は、次のように定めています。

 国会が国権の最高機関であって国の唯一の立法機関であることに鑑み、国会による行政の監視及び立法に関する機能の充実強化を図り、もって民意を反映した国政の健全な発展に寄与するため、国会に、国の行政機関等の業務に関する監視、調査及び評価を行うとともに、その結果に基づいて必要な法律の制定及び改廃等に関して意見を述べる行政監視院を置く。

※下線筆者

 このように、行政監視院は、①監視等、②意見具申を柱とする機関として国会に置かれます。
 国会に置かれる機関としては、すでに国会図書館が存在しています。行政監視院も同様、イメージ図のとおり、国会の新たな附属機関となる位置付けです。

行政監視院の組織

 行政監視院は、行政監視委員3人をもって組織されます(第2条)。そして、その行政監視委員は、国の行政機関等の業務に関する監視、調査及び評価に関して優れた識見を有する者のうちから、衆参議長が衆参両院の承認を経て任命されます(第3条)。大学教員、法曹出身者が念頭に置かれていると思います。
 行政監視委員の任期は6年で(第4条第1項)、原則として任期の途中で罷免されることはありません(第5条)。
 行政監視委員3名のうち1名が院長に任命されるとともに(第7条第1項)、事務の処理等を行うのは行政監視委員会議の議決(合議)によります(第8条)。
 行政監視院の事務局には、事務局長、事務局次長、専門調査員、調査員その他の職員が置かれます(第9条、第10条)。法案では明らかではありませんが、イメージ図では「約200名体制」と説明されています。数だけ見れば、復興庁と同じくらいの規模です。

行政監視院の権能

 第一は、衆参の委員会、参の調査会の要求に応じ、必要な期間継続して、当該要求に係る国の行政機関等の業務に関し、必要な監視を行うことです(第17条)。監視結果は、要求をした委員会等の属する議院の議長(衆参)に提出されます(第18条第1項)。監視の要求は、要求議員のほか衆院議員20人以上、参院議員10人以上の賛成連署によって行うこともできます(第19条)。つまり、衆参それぞれ21人、11人で要求可能です。

 第二は、衆参の委員会、参の調査会の要求に応じ、第17条の監視の結果を踏まえて、必要な法律の制定または改廃、予算の議決等に関して行う意見の具申です(第20条第1項)。監視と同様、衆21人以上、参11人以上によって、意見具申が要求されることもあります(第21条)。憲法第41条「唯一の立法機関」の解釈の上で、国会は国会以外の機関が関与することなく立法することが原則であり、当然ながら、行政監視院が行う意見具申に法的拘束力を認めることはできません。

 そして、第一の権限(監視)、第二の権限(意見具申)を行使するにあたって必要があるときは、国の行政機関等に対して資料の提出を要求したり(第22条、第23条)、専門調査員その他の調査員をして官公署その他必要な場所に立ち入って調査をしたり(第24条)、参考人の出頭を要求したり(第25条)することが認められます。行政機関が立入調査、参考人出頭要求に応じないときは、当該職員の任命権者に対し懲戒処分を要求するよう、衆参の議長に求めることもできます(第26条)。
 また、監視、意見具申とは独立した権限ですが、行政機関の業務に関し、幅広く国民の意見等を把握し、資料収集を行うこと等に努めることとされています(第27条)。
 およそ、制度の骨格は以上のとおりです。

制度の問題点

 行政監視院法案の条文だけでは不明な点も多々ありますが、次の2つを問題点として指摘しておきます。

 第一は、行政監視院の権限行使が合議制による点(第8条)です。国会に、行政監視や国民の苦情救済を目的とした「オンブズマン」を設置している例は、スウェーデン、デンマーク等がよく知られていますが、いずれも独任制が採用されています。つまり、複数名のオンブズマンが活動していても、調査、意見表明などその権限の行使は単独で(個別独立に)行っているのです。事案の処理を迅速に行う必要があること、決定等に対する責任の所在を明確にする必要があることが独任制採用の理由です。行政監視委員は日本の「国会オンブズマン」と評することもできますが、なぜ独任制ではなく合議制なのか、その積極的根拠を明らかにする必要があります。

 第二は、行政監視院の権限の一つに、立入調査権を認めている点(第24条)です。
 この点、憲法第62条は国政調査権について「両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。」と定めているところ、国政調査権の範疇には「強制力を伴う立入調査権」は許されない一方、相手方の協力に基づく「任意の立入調査権」であれば認められるとする見解が一般です。
 行政監視院法案第24条も間違いなく、憲法第62条違反の嫌疑を掛けられることがないよう、「立入をさせて、必要な調査を行わせることができる」という表現にとどめている点(強制力の否定)は理解できます。しかし、ここで想起したいのは、森友学園に対する国有地土地売却が問題となったさい、野党議員数名が、決済文書の「原本」を確認しようと、財務省近畿財務局に押しかけて、職員と押し問答になった挙句、結局、議員による抜き打ち調査は実現しなかったエピソードです(2018年3月6日)。行政監視院による立入調査によれば、本件のような場合で、結論は変わるのでしょうか。専門調査員等が近畿財務局に立ち入って、必要な文書の提出を受けてくることは、確実に担保されるのでしょうか。立ち入り先が調査を断った場合、当該職員の懲戒処分を求めることができる点は一定の担保にはなるでしょうが、果たしてそれで十分といえるでしょうか。結論が変わらないのであれば、行政監視院という制度が国民の幅広い支持を得るとは考えにくいと言わざるを得ません。森友事例は一つのメルクマールになります。法案提出者の見解を聞いてみたいものです。

 行政監視院を、国会議員のために存在させるのであれば、単なる「屋上屋」になってしまいます。国民一人ひとりの目線、立場に拠る、「公正、強力な行政監視院」と設計するべく、秋の臨時国会以降の審議に期待したいと思います。

1日の毎日新聞に、私のコメントが掲載されました。ぜひご覧ください。

「憲法改正国民投票:テレビCM規制巡り、与野党対立 識者の話」
https://mainichi.jp/articles/20190701/ddm/004/010/057000c

南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。現在、シンクタンク「国民投票広報機構」代表。主な著書に『図解 超早わかり18歳成人と法律』、『図解 超早わかり国民投票法入門』(以上、C&R研究所)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)、『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナー No.255)』(共著、日本評論社)、『広告が憲法を殺す日』(共著、集英社新書)、『18歳成人社会ハンドブック』(共著、明石書店)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会)、などがある。(2019年1月現在)