ナディさんがイランから日本へやって来たのは6歳のときのこと。それから現在に至るまでの生活を書いた本書には、「普通」に暮らしている、即ちマジョリティの日本人には考えられない“壁”が次から次へと登場する。
言葉はもちろん、食事、生活様式から、学校での勉強や給食、差別、さらに両親は働きづめなので子どもだけで暮らさなくてはならない毎日……。大変だったはずのこれらの苦労も、逆にいろいろな楽しかったことも、ナディさんは軽やかな筆致で記すのでどんどん読み進められる。
成長するにつれ自分が何者であるか次第に悩む彼女が、自身を「イラン人」「日本人」という枠の中に嵌めず、「イラン生まれで日本育ち。中身はほぼ日本人のイラン系日本人」とアイデンティティーを獲得し、「私のふるさとは、日本です。この先も日本で暮らしていきます」と記す一行は実に感動的だ。
この本の編集者である岩下さんが書いたnoteによると、この本の企画は15年前に立ちあがったものだとのこと。中断などさまざまな出来事や葛藤、逡巡を経てつくり上げられた本なのだという。
外国から働きに来る人を「労働力」としてしか見ない日本政府や社会。排外主義を唱える勢力も跋扈している。それらに対して、彼らを「隣人」として私たちが受け入れられるかどうかが問われている。多文化共生について考えるフックとなるだろう。
文章は平易で、すべての漢字に振り仮名が振ってあり、子どもや日本語に慣れていない人でも読みやすい。伊藤ハムスターさんのイラストも可愛らしい。夏休みの読書にもってこいだ。
(仲松亨徳)