北東アジアに進路をとれ(助田好人)

 「ゴールまで、ウラジーミル、二人の力で、駆けて、駆け、駆け抜けようではありませんか。歴史に対する責任を、互いに果たしてまいりましょう。平和条約を結び、両国国民が持つ無限の可能性を、一気に解き放ちましょう」

 ウラジオストクで開催された東方経済フォーラム全体会合で行われた安倍首相のスピーチの一節です。「ウラジーミル」と呼び捨てる(親密の表現でもない)失礼さについては以前のコラムで言及しましたが、今回の驚きは、東方経済フォーラムの前日、プーチン・ロシア大統領が色丹島の水産工場の稼働式典に出席したことに安倍首相が何も語らなかったことでした。日本メディアは「プーチン大統領による揺さぶり」と論評しますが、私はプーチン大統領が安倍首相の本気度を試したのではないかと思います。安倍首相が本気で怒れば、そこから交渉を始めようと。

 ところが安倍首相はプーチン大統領との対談でそのことに触れず、後日、外交ルートで抗議したとのこと。当人は目の前で何も言わず、後から文書で遺憾を伝える。こういうやり方、相手の信用を損ねる最悪の方法ではないでしょうか。

 文在寅・韓国大統領との関係でもそう思わせることがありました。同大統領は、8月15日の「光復節」のスピーチでは次のように語っています。

 「光復は私たちにとってのみ、うれしい日ではありませんでした。日清戦争と日露戦争、満州事変と日中戦争、太平洋戦争まで60余年間の長く長い戦争が終わった日であり、東アジア光復の日でした。日本の国民たちもまた、軍国主義の抑圧から逃れ侵略戦争から解放されました」

 とても抑制的です。そして同大統領は日本に対してこう呼びかけました。

 「今からでも日本が対話と協力の道に出てくるのならば私たちは快く手を握ります。公正に交易し協力する東アジアをともにつくっていくことでしょう」

 これを安倍首相は無視。批判があれば、きちんとコメントをすればいい。それが真摯な態度というものでしょう。ところが、何の反応もしなかった。それは「あなたとは交渉しない」というメッセージと受け取られても仕方がありません。だから、その後、韓国は日本とのGSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄に踏み切った。すると日本政府は「残念だ」という。これだけ関係が悪化すれば、軍事情報を共有できなくなることは想定可能でしょう。米国は韓国の判断に「失望」したと言っていますが、これを招いた日本の対応にも「失望」しているという意味だと思います。日韓のどちらか一方に肩入れするようなことを米国がこれまでしたことはありません。

 一部の週刊誌は「中ロ北朝鮮が大喜び」みたいな見出しを掲げました。あたかもこの3カ国は一体化しているように。冷戦時代のままの思考回路です。

 ロシアも中国も経済体制としての社会主義を捨てました。いくら米中が貿易戦争に突入しているとはいえ、互いが緊密な経済関係を有している(ここが米国とソ連の冷戦時代と決定的に違うところです)なかで、本格的な戦争に発展するとは考えられません。中ロの関係についていえば、日本の領土の16倍以上ありながら人口がわずか620万人しないないロシア極東は、4,000km以上におよぶ国境線で中国に接しています。しかも、隣の中国東北部だけで1億以上の人々が住んでいる。ロシアは極東地域が中国に飲み込まれてしまうことへの脅威を常に抱いているのです。北朝鮮に目を転じれば、「金王朝」の存続できる道はどこにあるかを懸命に模索しています。それが保証されると思うからこそ、米国とはつかず離れずの微妙な駆け引きをしているのでしょう。

 このように個々の思惑が絡む東アジアにおいて、日本が日米同盟頼みというのはリスクが大きすぎます。冒頭に話を戻せば、ロシアにとっての最悪のシナリオは、日本に返還した北方領土に米軍基地をつくられること。しかし、プーチン大統領に「そんなことはしない」と安倍首相は断言できない。にもかかわらず、「君とぼくは同じ未来を見ている」と言う。

 プーチン大統領の方が、「中国に輸出できなくなった余剰のトウモロコシをシンゾーは買うと約束した」などと公表してはばからない「同盟国」の米国大統領よりも、日本の置かれた立場をよほど理解していると思います。あるテレビキャスターは、「(売れ残りのトウモロコシを買って)アメリカに恩を売ることで、日米同盟を強化する」とコメントしていました。そんなことで強化される同盟関係って何なのか私はよくわかりません。

 日本にとって重要なのは平和で安定した東アジアであることを再認識すべきです。そのための最重要パートナーは民主国家である韓国のはず。同国と連携し、北朝鮮を民主化に誘導(これは拉致問題解決につながりうる)。そしてロシア、中国、米国とは等間外交をする。

 文大統領は「光復節」のメッセージでこうも語っています。

 「私たちがみじめで力がない時には、 朝鮮半島は大陸でも、海洋でも辺境であったし、時には強大国の角逐場となりました。それが私たちが経験した過去の歴史でした。しかし私たちが力をもてば大陸と海洋をつなぐ国、東北アジアの平和と繁栄の秩序を先導する国になることができます」

 将来、朝鮮半島が東アジアの経済的なハブとなるという決意です。それを支え、自らもプレーヤーになって参加することが日本の経済に資する道でないでしょうか。東アジアに背を向け、同地域への影響力を失い、有力な情報が集まらない日本は、米国にとってもその重要性を失っていきます。

 こんな外交はもうやめにしませんか。

(助田好人)