『へいわってどんなこと?』(浜田桂子著/童心社)

 日中韓三カ国の絵本作家たちが、国境を越えて交流を重ねながら、「平和」をテーマにした絵本を制作・出版するという「日・中・韓平和絵本プロジェクト」。その第一弾のうちの一冊として、2011年に出版されたのが本書である。
 著者は、プロジェクトの呼びかけ人の一人でもある浜田桂子さん。メッセージはとてもシンプルでストレートだ。1ページ目の「きっとね、へいわって/こんなこと。」の言葉に応えて、「平和」な状態とはどういうことなのかが、絵と文でさまざまな角度から描写されていく。
 「せんそうを しない。」「ばくだんなんか おとさない。」──このあたりは、誰もがそうだよね、と同意するところだろう。けれど、ページを繰っていくうち、なんだかいろんなことがぐるぐると頭の中に浮かんで、落ち着かない気分になってきてしまった。

〈おなかが すいたら/だれでも ごはんが/たべられる。〉

 2016年の厚生労働省の調査によれば、日本では今、17歳以下の子どもの7人に1人が「貧困」状態にあるという。もちろん、その全員が食べるのに困っているわけではないにしても、無料や低額で食事を提供する「子ども食堂」が各地で急増しているのは、さまざまな事情で「ごはんが/たべられる」状況にない子どもが決して少数とは言えないからだろう。大人にも目を向けてみれば、貧困の末の衰弱死・餓死事件が、ここ数年だけでも何度も報じられている。

〈いやなことは いやだって、ひとりでも いけんが いえる。〉

 昨年春のテレビ番組で放映されていた、ある小学校での道徳の授業の様子を思い出した。教科書に載っている物語をみんなで読んだ後、一人だけ周りとは違う意見を発表した男の子が、それを(教師からさえも)受け入れてもらえず、孤立して涙を浮かべていた姿。あるいは、保育園に入園できずに追いつめられて、「日本死ね」と怒りをぶつけた匿名ブログは、多くの共感を集めた一方で激しいバッシングにも遭った。
 極めつけはこれ。

〈わるいことを してしまったときは/ごめんなさいって あやまる。〉

 ちゃんと「ごめんなさいって あやまる」ことができていない政治家なんて、いまや珍しくもないような……。そういえば、あいちトリエンナーレの「表現の不自由展・その後」をめぐり、「慰安婦問題は完全なデマ」と、過去の「謝罪」行為をぶち壊すような暴言を吐いた政治家もいた。

 絵本の終盤は、肌の色も性別も格好もさまざまなたくさんの子どもたちが、みんなで「おまつり」のパレードに出発する場面。そして、こう続く。

〈へいわって/ぼくが うまれて/よかったって いうこと。〉

 今の私たちの社会は、果たして子どもたちが自分で「生まれてよかった」と思える場所だろうか。息子に読み聞かせしつつ、考え込んでしまった。

 なお、この「日・中・韓平和絵本プロジェクト」の一冊、元日本軍「慰安婦」の女性をテーマにした絵本『花ばぁば』は、当初日本での出版を拒否され、シリーズの他の作品とは別の出版社から刊行されるという経緯をたどった(詳しくはこちらのインタビューを)。そのことも、あわせて知っておきたい。

(西村リユ)


『へいわってどんなこと?』(浜田桂子著/童心社)

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