第146回:混迷と行き詰まりの憲法改正論議(南部義典)

実質1か月半の秋国会で何ができるのか?

 3年に一度、参議院選挙が行われる年は、臨時国会の召集が二度行われるのが慣例です。2019年はこのパターンに当たります。
 一度目の臨時国会は、8月1日に召集されました。会期(国会の活動期間)は5日までの5日間で、おもに参議院側の人事と国民投票法改正案などの継続審議を決めて閉会しました。
 あさって(10月4日)、二度目の召集が行われます。会期は12月9日まで、約2か月間の予定です。もっとも11日までは、衆参本会議における代表質問(2日ずつ)、予算委員会(集中審議)が行われるので、他一般の委員会が本格的に動き始めるのは10月第3週に入ってからです。さらに、22日は即位礼正殿の儀(祝日)が挙行されるほか、その前後も関係行事が予定(優先)されるので、10月第4週は会期中とはいえ“開店休業”に近い状態になります。二度目の臨時国会は、委員会の活動可能期間だけをみれば、実質的に1か月半(6週間)しかありません。
 そんな短期の秋国会が始まる矢先、一部メディアは、憲法改正論議の進展が焦点になると煽りに煽っていますが、果たしてそうでしょうか。私は「焦点でさえない」と理解していると同時に、「混迷と行き詰まり」しか目に映りません。

自民党内部の混迷

 自民党内では時すでに、憲法改正の方向性をめぐる混迷が始まっています。党役員人事(9月11日)の後、岸田文雄政調会長、下村博文選対本部長(前・憲法改正推進本部長)がひたすら口を揃えて、同性婚容認に関する憲法改正(=憲法24条の「両性」を「両者」に改める)に言及しているからです。現段階では、ちらほらとニュースの見出しになる程度ですが、その唐突さは否めません。
 言うまでもなく、自民党が国政選挙において同性婚を容認し、推進する旨を公約したことは一度もありません(夫婦別姓でさえ家族崩壊につながると、反対し続けています)。岸田、下村両氏の発言は無論、自民党内の議論を経たものでも、正規の決定に基づいたものでもありません。とにかく、同性婚は公明党、その他野党にとって受けがいいのではないか、これなら反対しづらいだろうと、「下手な鉄砲、数打てば当たる」の感覚で観測気球を上げたことは明らかです。
 下村氏は別にしても、岸田氏は、“ポスト安倍”の一角として優位なポジションを回復するために、憲法改正という意に沿わない案件を周囲から押し付けられている状況にあると察します。何でもいいから、憲法改正で一定の成果を出さなければならないというプレッシャーを受けながら、当面しばらくは「懸命に、憲法改正に取り組むポーズだけは取らなくてはならない」と、諦めと開き直りの心境でしょう。積極ポーズを強いられているのは岸田氏に限らないと思いますが、同性婚にプライオリティを置くというのでは今後、党内の混乱を招くことは避けられません(9条改正と同様、党を二分します)。

改憲シフトの失敗

 二つ目の混迷としては、党役員人事に合わせて、憲法改正推進本部長を交代させたことも挙げられます(9月11日)。先に名前を出した下村氏から、細田博之氏へと交代しています。下村氏が憲法改正推進本部長に着任したのは2018年10月なので(自民党総裁選後の内閣改造・党役員人事のタイミング)、1年経たずにその役が解かれたことになります。
 一般論として言えば、事が上手く運んでいれば、人事を触る必要はありません。人事に手を出して、かえって事が滞ってしまうことは、政治・行政の分野では珍しいことではありません。今回は、憲法改正論議が思うように進まなかったからこそ、人事に手を付けざるを得なかったのです。2018年10月の時点で、下村氏のほか、加藤勝信総務会長、高市早苗衆議院議院運営委員長など安倍晋三氏の思想信条に近い議員を憲法改正関係プロセスの要所に登用し、「改憲シフト」なる人事コンセプトも定着したところですが、この1年間、何の成果も上げられず、失敗に終わったのです。自民党は認めたくないでしょうが、改憲シフトの失敗こそ、混迷に他なりません。
 下村氏は今回、党四役の一つである選対本部長に着任していますが(この意味で昇格であることは間違いありませんが)、着任直後の会見では「選対本部長という立場でも、憲法改正にしっかり取り組んでいく。これからは党を挙げて、憲法改正論議を展開していく」と述べています。それでは、憲法改正推進本部長だった1年弱の期間は、党を挙げての憲法改正論議は展開されていなかったのかと、逆に皮肉を返したくなります。
 先に、憲法改正の方向性をめぐる自民党内の混迷ぶりを指摘しましたが、下村本部長時代にも一度あります。自衛隊明記案では議論の進展が見込めないと考えたからか、下村氏はことし2月1日の講演(@日本記者クラブ)で「自民党改憲4項目のうち、教育充実を先行して発議することもありうる」と発言しました。同月中、自民党教育再生実行本部の中に「憲法における教育課題を考えるプロジェクトチーム」を立ち上げ、馳浩元文科相を事務局長に据えるなどして、会合を2~3回開いています。しかし、党内の支持は広がりませんでした。そして、参院選では自衛隊明記を公約の前面に押し出すことになり、この教育充実先行発議論は立ち消えになっています。
 つまり、2019年だけみても、自衛隊明記→教育充実→自衛隊明記→同性婚と、下村氏のプライオリティが変わってきているのです。年内、さらに変わるかもしれません。風見鶏もビックリです。大半の自民党議員がこの変化をフォローしていない(真面目に受け止めていない)ことも、また事実です。

国民投票法改正案の成立可能性は、30%と予想

 秋国会では、2018年6月に提出され、5つの会期を跨いで衆議院で継続審議になっている国民投票法改正案(自民、公明、維新、希望の4会派案)が成立するかどうかが焦点です(これは焦点と言っていいと思います)。
 この点、その成立可能性は30%くらいではないかと、私は見ています。しょせん法律案の一つに過ぎないので、与党の賛成だけで可決させることができますが、なぜもっと高い予想値にならないかといえば、衆参ともに憲法審査会の定例日は週1回しかなく(衆は木曜日、参は水曜日)、審議機会がかなり限られることに加え、召集日までに与野党間の合意が整っていない状況を踏まえると、先国会までの運営の混乱が続くのではないかと考えられるからです。成立しなければ、2020年の通常国会にさらに持ち越しとなります。
 仮に、国民投票法改正案が成立しても、視界が一気に開くがごとく、憲法改正の発議に進展することはありません。憲法改正の発議には衆議院議員310名以上、参議院議員164名以上の賛成が必要ですが、これらが一致して賛成できる憲法改正案など何一つ存在していないからです(もし存在するのなら、教えてほしいです)。法改正後の憲法改正論議は、無限遠にある目標に向かっての歩みを模索することに他ならず、改憲シフト失敗の直後にあっては、早晩行き詰まることは明らかです。平成中期から、自民党は時折、強引に事を運ぼうとして停滞を招くという、同じ失敗を何度も繰り返しています。
 ちなみに、今週5日で自公連立政権の誕生から20年を迎えますが、この間、自民、公明両党で具体的な憲法改正項目について意見の一致をみたことはありません。憲法解釈の変更の例はありますが、改正に向けた協議を行ったことさえありません。6日を過ぎて、急に意気投合することもないでしょう。それがなぜか、与党である(内閣が提出する予算案、法律案に賛成する立場にある)という理由だけで、“改憲賛成勢力”に範疇化され続けているというのは奇異な話です。

「自民党」ではなく、「一部自民党」の企て

 明後日4日、衆参本会議で安倍総理による所信表明演説が行われます。安倍氏は演説の中で、改めて憲法改正問題に言及するであろうことは、誰しも容易に想像が付きます。多くのメディアが「安倍内閣」や「自民党」を主語に、「憲法改正に意欲」といった見出しを付けて大々的に報じることでしょう(多かれ少なかれ、何か起きるのではないかという変な期待感を滲ませながら)。
 憲法改正発議は、内閣ではなく国会の専権事項です。「安倍内閣」を主語においた記事など何の意味はなく、無視すれば済む話ですが、「自民党」を主語においた記事も、字義どおりに自民党のすべてではなく、「一部自民党」と置き換えて受け止める必要があるように思います。「自民党」が目指す憲法改正は、「一部自民党」という特殊な衆団の企てというのが実態だからです。
 「一部自民党」の動きは、憲法改正(発議)というゴールに焦点を当てているものではありません。党内はおろか、公明党、その他野党との幅広い合意を度外視し、“放言”を繰り返すばかりです。外部から、そんな「一部自民党」の動きに焦点を当てても意味はないのです。
 秋国会でさらに、どんな混迷、行き詰まりが生じるか、しっかりと注視していきましょう。

南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。現在、シンクタンク「国民投票広報機構」代表。主な著書に『図解 超早わかり18歳成人と法律』、『図解 超早わかり国民投票法入門』(以上、C&R研究所)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)、『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナー No.255)』(共著、日本評論社)、『広告が憲法を殺す日』(共著、集英社新書)、『18歳成人社会ハンドブック』(共著、明石書店)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会)、などがある。(2019年1月現在)