誰もが目と耳を疑った、突然の木内みどりさんとのお別れ。私もしばらく事態がのみこめずにいましたが、それでも二十日の夜、お連れ合いの水野誠一さんがFBに投稿されていたのを読んで、ああ、本当に木内さんは一人で旅立たれてしまったのだと、今はただ喪失感の中にあります。
木内みどりさんとは、マガジン9のボスこと、マガ9代表の鈴木力からの紹介で、マガ9のインタビュー「この人に会いたい」に登場してくれたことがきっかけで出会いました。
私の世代としては、「木内みどり」といえばテレビドラマでもおなじみの演技派大女優として、また「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」のレギュラーとして、まさに「芸能界のどまん中にいる方」でした。3・11をきっかけに、脱原発に関する発言を公で始められてはいましたが……。
そんな木内さんが、インタビューのためにマガジン9の事務所に来てくださることに。どうやっていらっしゃるのか、マネージャーさんもいるのかな、と思っていたら、お一人でふらりと、いらっしゃいました。えっ、大女優なのにと思っていたら、「私はいつも一人で行動しているのよ」と。
最初はそーっと様子を伺っている感じでしたが、事務所の雰囲気をとても気に入ってくださったようで、新宿御苑が見下ろせるベランダに出ては写真を撮ったり、そこで急にツイキャスを始めたり。デザイナーやスタッフともフランクに会話をかわし、長い時間滞在してくださったのを、よく覚えています。
それからマガジン9に「木内みどりの『発熱中!』」という連載コラムを持っていただくことになり、担当編集者としてやりとりをさせてもらっていました。ウェブは、わりとフレキシブルに対応ができるメディアですが、それでも「マガ9」は週に一度の更新と決めているので、木内さんからしたら、少し窮屈だったかもしれないな、と今、反省をしています。
その後、木内さんの社会問題への関心は、脱原発や戦争のことだけでなく、「安倍政権ノー」や、れいわ新選組をはじめとする新しい政治スタイルなどへも広がっていきました。ご自身のFBやtwitter、また「木内みどりの小さなラジオ」という 「声のメディア」も作られて、積極的に発信をなさっていました。「小さなラジオ」は、入り口を今も、マガジン9のトップページに置いています。
でも、何といっても私にとって、木内みどりさんの底力、まさにプロフェッショナルとはこういうことだという有り様や人に対しての優しさ、時に見せる女優としての気迫などを間近に見ることができたのは、この4月に私が豊島区議会選挙に出馬をした際に応援にかけつけてくれたときのことでした。
マガジン9の編集・事務局長をやっていた私が、なぜ政治の世界へ、という経緯は、こちらになりますが、立候補を決めたご報告をメールで伝えると、「勇気ある決断でうれしい」と。そして、私でできることは何でもしますとの言葉を添えて、返事をいただきました。
木内さんの「私でできることは何でもします」は本当に嘘偽りのない言葉だということは、それまでのお付き合いの中でわかっていましたが、ここまでやってくださるとは、と驚くと同時に背筋の伸びることばかりでした。
選挙戦の中では、池袋駅西口広場でマイクを握り、巣鴨の地蔵通りでも、のぼり旗のもと一緒に練り歩いてくれました。選挙カーにも乗り込み、最終日にはマイク納めギリギリの時間まで、私のことを「よろしく」と、通りを行く人たちに呼びかけていました。
「私は、女優の木内みどりです。なぜこの私が、塚田ひさこさんを応援しているかと言えば、彼女にはしがらみがないからです。まったくしがらみのない人を政治の世界におくりたい。彼女は自分の仕事や人生をいったん横において、大変な世界に飛び込む決意をした。みなさん、どうか自分の頭で政治や選挙のことを、考えてくださいね。そして投票に行ってくださいね。落選させるわけにはいかないんですよ」。ひとときも時間を無駄にしないで、誰かのもとへ走っていっては、一人ひとりの目を見て真剣に語りかけていく。
なぜ、こんなにも彼女は人のために、がんばる人なのか。
選挙戦最終日の20時にマイク納めをして、選挙事務所にもどり一息ついてから、私は木内さんと駅まで二人だけで一緒に歩いて帰りました。私はその時、「やりきった」というより、もろもろの状況から「何もできなかった。結果も悪いものだろう」という不安が強くなっていて、誰に対してというわけではなく、たぶん自分に対して腹を立てていました。彼女はそんな私の様子を見て、さまざまな現場を見て歩いてきた人生の先輩として、アドバイスをしてくれました。
「どんなひどい状況におかれても、その状態を俯瞰して楽しむことよ」と。
結果として、思いのほか上位当選を果たし、この春から区議会議員としての活動を始めました。
豊島区の有権者から貴重な1票を託されいただいた機会ですから、精一杯、全力でやっています。しかし、またしても右を見ても左を見ても、茨の道は続いています。生活や仕事といった個人的なことだけでなく、今の日本社会のこの体たらくはどうなのか。世界規模でみても、絶望したくなることばかり。でも…。
「おもねるな、自分らしくやれ、負けるな、でも楽しんで!」
愚痴っていたら、そんな木内さんの言葉が飛んできそうです。
たくさんの木内さんからもらった言葉を今、噛み締めながら、ああ、木内さんに会ってまた相談したい。なのに、いない、ということに気がつき、大きな悲しみがまた襲ってくるのです。
(塚田ひさこ)
道行く人を笑顔にしながら、「今度の選挙は絶対に行ってくださいね。」と声をかけて回っていた。普通の人が政治に関心を持つことの大切さも訴えてくれていた