日本に必要なのはリーダーではなく、自立した国民である(芳地隆之)

 元サッカー日本代表監督の岡田武史さんへのインタビュー記事「『自立』なき国の五輪」が11月22日付の朝日新聞に掲載されました。

 岡田さんは代表監督を2度務めましたが、いずれも緊急登板でした。第1回目は1997年。日本が初めてのワールドカップ出場をかけたアジア予選の最中。チームの不調によって加茂監督が解任され、急遽、指揮を執ることになったのです。第2回目は2007年。急性脳梗塞で倒れたオシム監督の後任として指名されました。前者では、日本初のW杯出場を勝ち取ったものの、大会会場のフランスに行く前に三浦知良選手ら3人を代表から外したことでバッシングを受け、本大会で3連敗を喫し、こき下ろされました。後者では、南アフリカ大会直前までのテストマッチの勝敗が芳しくなく、批判の嵐を浴びました。前任のオシム監督のフィールドをフルに使うようなダイナミックなサッカーと違い、常に数的有利で相手のボールを奪い、コンパクトに運ぶプレースタイルは魅力的に映らなかったのかもしれません。この弱者の戦略が本大会ギリギリで間に合ったのか、予選リーグは2勝1敗で日本は初めて決勝トーナメント進出を決めました。

 私は当時の、とくにディフェンス陣の身体を張った、ひたむきなプレーを今も鮮明に覚えているのですが、上記のインタビューで岡田さんはさらりと振り返ります。

 「2010年の南アフリカ大会は、外からたたかれて、その後に開き直る外圧のおかげという面があった。反発心で出る主体的な力は短期的では効力があるけれど、長続きはしない。本来は、自らの勝ちたい、勝つことが楽しいという内発的欲求で力を出せるようなことが真の自立だと思う」

 岡田さんによれば、現在のスポーツ指導において、本来は16歳くらいまでに競技の原則みたいなものを教え、それ以降は自由に考えさせるべきところ、現状は逆で、高校生になるといきなり戦術を教え込まれる。「だから言われたことはできるけれど、思い切った発想ができない、自分で判断できないと言われるのではないだろうか」と疑問を呈します。そして、世界で勝つためには、「この国(日本)にはリーダーではなく、自分で決めて自ら行動するような国民が必要なんだ」というのです。

 自分で考えて行動する人間を同調圧力で押さえつけようとするような社会、そしてそれを増長させる、「自立」を妨げるようなリーダーなら、いない方がまし。リーダーがいなかったら、どうするんだ? との反論には、岡田さんもインタビューの冒頭で言及しているように、先のラグビーワールドカップの日本代表の躍進がひとつの答えになるかもしれません。試合が始まれば監督はフィールドを離れるこのスポーツでは、選手たちが自分たちで判断する力をもっていなければなりません。そのためにはお互いのコミュニケーションが必須。外国出身選手が多い日本代表チームにおいては、なおのこと。予選リーグでの最大の山場であったアイルランド戦で、主将のマイケル・リーチ選手が先発から外れましたが、選手に動揺する気配はいっさいなく、当たり前のようにプレーを続けました。僅差で前半を終えたことで逆転勝利の予感を私たちに抱かせ、それを実現したのです。

 2016年に53歳の若さで亡くなった元ラグビー日本代表選手・監督を務めた平尾誠二さんは、ラグビーで大事なことは? と問われて「根性です(笑)」と答えたことがあります。いわゆる精神論ではなく、試合中にどれだけボールの動きに集中できるか、その持続力というのです。集中している状態は楽しい、楽しいから集中できる、そんな趣旨のことも語っていました。

 その楽しさとは何か。再び岡田さんの言葉を引用します。

 「(日本人が自立できないのは)『お上に従っていたら間違いない』というのが染み付いている。自分たちで勝ち取った民主主義とか、自由とかという発想がないから、命令された仕事をこなすようになる。仕事なんて自ら探すべきだ。今の日本で、自分たちで何かをやっているという実感を持てる人って少ないんじゃないかなあ」

 ここでいう実感を楽しさと置き換えてもいいでしょう。ここ数年の日本を覆う停滞感の本質を衝いているように思いました。

 岡田さんは最初の日本代表監督の後にJリーグ2部のコンサドーレ札幌を率いてJ1昇格を果たし、その後は横浜F・マリノス監督としてリーグ3連覇を達成しました。2度目の日本代表監督の後には、中国サッカー・スーパーリーグの杭州緑城足球倶楽部を率いています。

 W杯での功績を考えれば、日本サッカー協会(JFA)理事、そして会長という出世双六に乗ることも可能だったかもしれません。しかし、そうしたポストに関心を示さなかった岡田さんはJ2や中国リーグなど日の当たらない現場に降りていきました。ちなみに中国に行ったのは尖閣諸島を巡って日中両国が激しく対立している真っ只中でした。

 そしていま、日本フットボールリーグに所属するFC今治の経営者として2020年シーズンからのJ3昇格を果たし、中国や韓国の小中学生を招待して大会を開くなど、国際的な草の根交流にも尽力しています。

 私はリーダーの理想形を岡田さんのなかに見ています。ただ、ご自身は自分がカリスマ扱いされたら、すッとリーダーを降りるのではないか。そんなリーダーだと思います。

(芳地隆之)