第148回:2019年・・・国民投票法にとって難儀な一年でした(南部義典)

法案質疑ゼロで終わった一年

 2019年は、国民投票法にとってじつに難儀な年でした。ご存知のとおり、自民、公明、維新、希望の4党が提出している改正案(2018年6月27日提出)と、国民民主党が単独で提出している改正案(2019年5月21日提出)のいずれも、付託されている衆議院憲法審査会で一分たりとも質疑が行われることもなく、必要な法改正は2020年に持ち越しとなりました。年内に結論が出ないとは・・・正直なところ、私も見込み違いをしていました。
 とくに自公維希案は、2020年1月に召集される第201回国会(常会)で、提出以後6回目の会期を迎えます。与党議員を中心に提出された法律案で近年、これほど引き延ばしになっているものは類を見ません。さらに言えば、自公維希の4党によって、衆議院全体の9割に近い議員が国民投票法改正案の提出者、賛成者に名を連ねていることは、議院としても「欠陥法」であると自認していると言っていいでしょう。2019年は、与・野党間、さらに野・野党間での意見の対立で終わってしまいましたが、対立政党を陥れたり、自党を政治的に優位に立たせる手段として憲法や国民投票法を持ち出すのはもってのほか、です。
 「対立の年」が明け、「合意の年」を迎えることができるのでしょうか。「国民投票法講座」で度々取り上げてきましたが、改めて、両案の内容をチェックしていきます。

十分歩み寄れる、自公維希案と国民民主案

 下の【表】は、自公維希案と国民民主案の項目内容を整理したものです。
 まず自公維希案は、「投票環境向上等の公職選挙法並びの改正」と称されます。①から⑨までの項目は、2015~16年にかけて整備された改正公職選挙法で実現しているもので、期日前投票所の弾力運用などは、有権者にとってすでにメリットが生じています。どの項目も国民投票制度との間で較差があってはならないので、スペックを最新にするための「並びの改正」が不可欠となるのです。
 もう一方の国民民主案は、公正な国民投票運動の実施のための規制、国民投票の広報の充実強化及び投票環境の整備等、選挙運動期間と国民投票運動期間との重複回避、の3つの柱から成ります。①では、主体を政党に限定していますが、資金力の多寡(多い少ない)によって放送されるCMの量に差が生じ、有権者が一方の主張のCMを過剰にインプットされることで賛否の判断を誤ることがないよう、規制を及ぼすものです。②は、一定の団体を対象に、国民投票運動費用の支出に上限額を設けつつ、国民投票運動資金の収入(寄附)・支出を選挙並みに厳格に管理し、透明化するものです。
 国民投票に関する事務を管理・執行する場面に絞れば、自公維希案は必須の改正項目であるのに対し、国民民主案は任意の改正項目にすぎません。CM規制など、現行法のままで国民投票の管理・執行が法的に異常をきたすわけではないからです。しかし、国民民主案は、国民投票制度の隙間を上手く埋め合わせ、大きく向上させる内容に仕上がっていることもまた事実です。

 自公維希案と国民民主案との比較において、対立論点は一つもありません。また、遅れて提出された国民民主案が「対案」と呼ばれることがありますが(玉木代表も時々こう呼びます)、主・副の関係に立つものではなく、あくまで「対等」の関係です。自公維希の各党が、国民民主案の項目に関して一つも呑めないことはなく、国民民主党が自公維希案に反対している事実もありません(言わずもがな、内容的には反対を主張しようがありません)。100%全部とは言わないまでも、相互の歩み寄りは十分可能です。なので、デッドロック状態を乗り越える策を打たなければなりません。

法案審査小委員会の設置を

 私は、両案が提出されている衆議院に、合意(妥協)の場を意識して設けることが必要と考えます。
 そこで、憲法審査会の運営などについて定めている「憲法審査会規程」を読むと、その第7条に「憲法審査会は、小委員会を設けることができる」とあります。これを根拠に、衆議院憲法審査会の下に、専ら両案を審査するための小委員会を設けるべきです。唐突な提案と思われるかもしれませんが、実は成功体験に基づいています。
 現行の国民投票法は、2006年5月、自民、公明両党と民主党(当時)が別々に法案を提出したものの、その後、自公案と民主案を併合して修正する(一本化する)議決が行われ、成立に至っています(2007年5月)。自公案と民主案との間には、投票権年齢(18歳以上か20歳以上か)、憲法改正以外の国民投票制度を容認するかといった論点で違いがあったものの、2006年の秋、第165回国会(臨時会)で、衆議院憲法調査特別委員会(中山太郎会長)の下に法案審査小委員会が設けられ(近藤基彦小委員長)、両案の歩み寄りをもたらした実績があります。
 近藤小委員会の構成は、自民7、民主3、公明1、共産1、社民1、国新1の計14名でした。2006年11~12月にかけて、5回開催されています。昨今の国民投票CMの規制等をめぐる議論の中でも、法律の制定過程で与野党間の真摯な合意形成があったと体験調に述べられることがありますが、具体的には近藤小委員会のことを指します。民放連等の参考人招致も、近藤小委員会で行われました。これと同じ事を、現在提出されている自公維希案、国民民主案で行えばいいのです。法案には直接関係しないテーマ(例えば、一部会派が主張している、あいちトリエンナーレの問題など)は、小委員会と並行して通常の憲法審査会の方で議論すれば何の差支えもありません。
 ちなみに、5年前の国民投票法改正(投票権年齢の確定など)はどうだったかというと、今から思えば信じられないほど、政党間協議がスムーズに進み、驚くばかりです。2014年改正法(案)は、自民ほか7党が共同して提出したものでしたが、提出前に各党の実務者による協議が二度開かれ、合意事項を確認した上で提出に至っています。提出には加わりませんでしたが、実務者協議には共産、社民の代表者も参加していました。対立を排して、当初から法案を一本化して提出する方向性が固まっていた点で、現在の状況とまったく異なります。実務者協議によって、各党間の論点対立が解消されていたので、複数の改正案が提出される危惧もなく、憲法審査会小委員会を設けて合意形成を図る必要が無かったのです。今回、自公維希案を提出する前に、立憲民主、国民民主など主要な野党会派との協議、合意確認を行っていれば、国民投票法改正問題はここまで混乱することはなかったでしょう。
 私がより適切な処方箋と考えるのは、自公維希案、国民民主案をいったん撤回(棚上げ)し、合意形成をより丁寧に進める意味で実務者協議をゼロから始めることです(2019年7月1日毎日新聞、同26日東京新聞のインタビューにおいてこの趣旨を述べましたが、単なる遅延工作ではありません)。各党とも呼吸をいったん整え、円卓協議にまず腰を下ろしてもらいたいのです。改正法案は全会一致で、一本化することが理想です。ここまで法改正が遅れている以上、時間的余裕を考えられないはずはないでしょう。まして、衆議院の解散によって両案が白紙になる可能性さえあります。
 いずれにせよ、各党自ら適切な処方箋を選択し、国民投票法改正問題を確実に決着させられるか、次の国会(2020年1月召集)でも注目点となります。国民投票法は2020年5月18日に「施行10年」という節目を迎えます。この日が立法期限の目安となる気がします。

南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。現在、シンクタンク「国民投票広報機構」代表。主な著書に『図解 超早わかり18歳成人と法律』、『図解 超早わかり国民投票法入門』(以上、C&R研究所)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)、『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナー No.255)』(共著、日本評論社)、『広告が憲法を殺す日』(共著、集英社新書)、『18歳成人社会ハンドブック』(共著、明石書店)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会)、などがある。(2019年1月現在)