第514回:「UR住宅餓死問題調査団」の結成、そして新型コロナウイルスによる今後の生活困窮に備えるための情報。の巻(雨宮処凛)

 新型コロナウイルス感染拡大を理由に、全国の小中高校が休校となる前日の3月1日、東京都江東区のあるUR住宅を訪れた。

 昨年のクリスマスイブ、男性二人が餓死した状態で発見された場所だ。亡くなったのは72歳と66歳の兄弟。部屋の電気、ガスは止められ、冷蔵庫に入っていたのは里芋だけだったという。いずれも痩せ細り、兄の体重は30キロ台、弟は20キロ台しかなかった。水道は5ヶ月前から料金を滞納し、止められる直前だったという。弟は以前運送会社に勤めていたものの、無職となっていた。兄は警備会社で働いていたが、昨年9月頃から体調を崩し働けなくなっていたという(「見過ごされた”困窮死” 痩せ細った72歳と66歳の兄弟死亡」NHK NEWS WEB2月6日)。

 兄弟が住んでいたUR住宅は、「巨大団地」という言葉がふさわしい場所だった。敷地内には保育園や介護事業所、飲食店なども併設されていて、まるでひとつの「町」のようである。日曜日だったため、敷地内の公園では大勢の子どもたちが歓声を上げてボール遊びをしていた。「餓死事件が起きた」UR住宅ということで、老朽化し、住民の高齢化が進んだ団地を勝手に想像していた。しかし、ファミリー層が多く住むことを伺わせる集合住宅は建物も綺麗で、その光景は予想を裏切るものだった。

 それを見て思い出したのは、2012年、北海道札幌市白石区で二人が餓死・凍死した状態で発見された現場のマンションだ。亡くなったのは42歳の姉と40歳の妹。両親はすでに亡く、妹には障害があり、姉は非正規の仕事を転々としながら食いつないでいた。が、姉が体調を崩したことをきっかけに、姉妹の生活は坂道を転げ落ちるように逼迫する。生前に3度も役所に生活保護の相談に訪れていたが、いずれも「若いから働ける」などと追い返されていた。3度目に相談に訪れた半年後、姉妹は遺体で発見された。

 その二人が困窮死したマンションもまた、綺麗な物件だった。女性が好みそうなおしゃれな外観。しかし、その単身者向けだろうマンションでは、近隣住民との繋がりなんて生まれないだろうな、と思ったことを覚えている。翻って、江東区のUR団地は近所付き合いが生まれそうだった。しかも兄弟はここに20年も住んでいたのだ。が、兄弟には近所付き合いがほとんどなかったという。

 札幌の姉妹餓死事件が起きた12年には、全国各地で餓死、孤立死が多発した。以下、思い出せる限り書いてみよう。

1月12日:北海道釧路市で84歳の夫と72歳の妻の遺体が発見される。夫は介護が必要な状態で、介護してくれる妻が病死したあと、ストーブの燃料切れによって凍死したとみられている。

2月13日:東京都立川市で45歳の母親と4歳の障害を持つ息子の遺体が発見される。母親がくも膜下出血で突然亡くなり、介護を受けられなくなった男の子が餓死したと見られている。男の子の体重は4歳児平均体重の約半分の9キロだった。

2月20日:埼玉県さいたま市で60代夫婦と30代の息子の遺体が発見される。所持金は数円で冷蔵庫機は空。「親子三人餓死」と大きく報道された。

3月7日:東京都立川市で95歳の母と63歳の娘の遺体が発見される。

3月11日:東京都足立区で73歳男性と84歳女性の遺体が発見される。

3月14日:埼玉県川口市で92歳の母と64歳の息子の遺体が発見される。

3月23日:埼玉県入間市で75歳の母の遺体が発見される。45歳の精神疾患を持つ息子は母の死後約10日後に助け出される。

3月23日:東京都世田谷区で93歳の父と62歳の息子の遺体が発見される。父の遺体は白骨化、息子は自殺とみられている。

3月27日:福島県南相馬市で、69歳の母親と47歳の息子の遺体が発見される。母は認知症で、息子が病死したことにより、介護を受けられなくなって凍死したと見られている。また、当時、南相馬市からは原発事故によって避難している人も多く、周囲の人は親子を見かけなくなったことについて「避難したのかと思っていた」と語っている。

3月30日:秋田県鹿角市で90代の母と60代の息子の遺体が発見される。

4月11日:茨城県守谷市で、63歳男性の遺体が3ヶ月以上経って発見される。

 ざっと12年の前半を振り返っただけでも、4ヶ月の間に20人以上もの人がひっそりと亡くなっている。

 このような餓死、孤立死の頻発を受けて12年、厚労省は通知を出している。行政がライフラインの滞納情報を把握できるよう、業者との連携を進めることに関する通知だ。

 江東区の兄弟の場合、電気、ガスはすでに止まり、水道料金も5ヶ月前から滞納していた。札幌市白石区の場合も、真冬の北海道でガス、電気が止まり、ガスストーブが使えない状態だった。それ以外の餓死、孤立死の現場でも、必ずと言っていいほど滞納によるライフラインの停止が起きている。それらの滞納情報を行政が把握できれば、早い段階で困窮者を発見し、福祉につなげることができる。が、そのような通知が出された12年以降も、「困窮のサイン」の多くは見過ごされ続けてきた。

 東京都水道局はすべての区市町と情報提供の協定を結んでいるものの、この5年間、23区で通報した困窮者情報はわずか8件だという。

 そうして2月、またしても悲しいニュースが飛び込んできた。2月22日、大阪府八尾市の集合住宅で57歳の母親と24歳の長男が遺体で発見されたのだ。部屋の水道とガスは止められ、部屋には食べかけのマーガリンや小銭しかなかったという。長男は高校卒業後、介護の事務職やコンビニ、鉄工所などで働いたが長続きせず、母と二人で野宿生活をしていたこともあったという。その際、警察に保護されたこともあったそうだ。しかも母親は生活保護を受けていたというのだ。行政と警察に困窮が把握されていたにもかかわらず、失われてしまった親子の命(毎日新聞2月28日)。

 これまで、餓死や孤立死などが起きるたび、支援団体や法律家たちと行政に申し入れをしたり調査団を作ったりしてきた。

 12年の札幌姉妹餓死事件の際には調査団を結成して札幌に飛び、区と話し合い、市に再発防止の申し入れをした。さいたまの親子3人餓死事件の際もさいたま市に申し入れをした。さいたまではその2年前、電気代滞納で電気を止められ真夏に熱中症で男性が死亡するという事件も起きていた。だからこそ、ライフライン滞納は困窮のサインということは共有され始めていた。

 16年、利根川で親子心中事件が起き、高齢の両親が死亡、生き残った娘が自殺幇助と殺人で逮捕された際には深谷市に申し入れをした。また、17年には、東京都立川市で生活保護廃止の通知を受けた翌日に自殺した男性について、「立川市生活保護廃止自殺事件調査団」を結成し、調査や市との話し合いを続けてきた。

 そうして3月1日、江東区のUR団地を訪れた日、「住まいの貧困」に取り組む人たちとともに「UR住宅餓死問題調査団」を結成した。背景を調べ、再発防止のためにできることを提言していくつもりだ。

 「なんでそんなことするのか」と聞かれることがある。そのたびに思い出すのは、06年、07年に相次いだ北九州での餓死事件だ。生活保護を受けられず、あるいは辞退させられた果てに起きた餓死事件。亡くなった男性が残した「おにぎり食べたい」というメモの言葉には多くの人が涙した。あれから、10年以上。ずっと貧困の現場を取材し、運動を続けている私には、この国の人々が少しずつ「餓死」という究極の事態にさえ慣れてきているのを感じる。

 北九州の事件の時は、世間もメディアも、もっと驚き、同情を寄せ、怒っていた。もちろん、その背景には当時の北九州の生活保護行政のひどさもあった。が、毎年のように餓死事件が報じられる中、世間の空気に「またか」という諦めが混じっているのをこの数年、感じる。だからこそ、「餓死なんてあってはならない」ということを、声を大にして言いたい。言わなければならない。

 さて、餓死、孤立死が相次いだ12年は、東日本大震災の翌年である。リーマン・ショックからは4年後だ。リーマン・ショックから一年ほど経った頃から、単身者ではなく「家族ごとの困窮」「家族のホームレス」が増えたという話を耳にするようになった。リーマンショックによってじわじわと追い詰められた人々の生活が、震災という「最後の一撃」によって破綻し、餓死や孤立死が頻発したという側面もあったのかもしれない。

 そして今、状況は3・11後と符合することが多くある。新型コロナウイルスによって停滞する経済。特に飲食業や観光業、ライヴハウスやカラオケなどが大打撃を受けている。ちなみに私の実家は感染者が多い北海道。観光業をはじめとしてあらゆる業種の人たちから「もう廃業するしかない」という悲鳴が上がっていると聞く。一方、名古屋ではデイサービス事業所に2週間の休業要請が出た。親が介護事業所を利用できなくなったことにより、仕事を休まざるを得ない人が大勢生まれる。休業要請された事業所を利用する高齢者は約5800人というのだから大変な事態だ。

 このように、あらゆる業種の人々が影響を受けている。

 これから生活困窮に陥る人が大勢出るだろう。生活困窮者支援団体「もやい」の大西連さんも勧めるように、ぜひ制度を使ってほしいと思う。

 そしてこの記事とも重複するが、使える制度はさまざまある。新型コロナウイルスの流行を受けて作られた制度も様々あるが、まだ実績がないのでここでは紹介しない。

 まず「今月の家賃も払えない」という人に勧めるのが、生活保護だ。

 ものすごくざっくり言うと、貯金がなくて収入のあても資産もなくて今の全財産が6万円以下くらいだったら受けられると思ってもらえばいい。ちなみに、働いていても受けられる。例えば月の収入が8万円など生活保護基準以下であれば、足りない分の給付を受けられる。生活保護はそういう使い方もできるのだ。そうして収入が生活保護基準を上回れば、生活保護を卒業すればいい。もちろん、自営業者だろうがアーティストだろうが受けられる。

 また、今住んでいる賃貸物件を追い出されそう、追い出されたという際には、住居確保給付金が使えるかもしれない。仕事を探すなどを条件に、一定期間の家賃が給付される。

 他にも求職者支援制度というのがある。職業訓練を受けながら月に10万円が支給される制度だ。使った人を結構知っているが、遅刻や欠席に厳しいので要注意。

 また、社会福祉協議会の貸付金もある。

 以上、紹介したものは、いろいろと条件があったりして自分がその対象になるかわからない場合も多いので役所の窓口で聞くといいだろう。が、親切に教えてくれる役所もあるが、中にはそうでない場合もある。湯浅誠氏は以前、そのような役所の対応を「メニューを見せてくれないレストラン」というような言葉で表現していたが、役所の中には、たくさんの素晴らしいメニューがあるのに決してそれを客には見せてくれない意地悪なレストランのようなところもある。「客」が一字一句メニューを間違えずに注文した場合のみ、「フッフッフ、お主、なかなかわかっておるな…」という感じでその料理を出してくれる(制度に繋げてくれる)という「道場か?」的な対応をするところもあるのだ。

 原稿の冒頭に札幌で餓死した姉妹のことを書いたが、そこの区役所がまさにそのような対応で、「若いから働ける」などと姉を3度に渡り追い返していた。このような対応を「水際作戦」という。極端だが、最悪、そういうところもあるということは覚えておいていいかもしれない。

 なぜ、公的な窓口であり、そこで助けてもらわないと「死ぬ」確率が一番くらいに高い窓口なのに、このような対応がまかり通っているのか。もちろん、親切に対応してくれる自治体も多くある。が、こういう「自治体格差」みたいなものがおかしいと思っていろいろやっているのが私のような反貧困運動の活動家である。ちなみに「一人じゃ不安」という人のために、窓口に同行してくれる支援団体もある(後述)。

 さて、いろいろ制度について書いてきたが、私が「生活が苦しい」「アパート追い出されそう」「所持金十数円で家も失った」など相談を受けた場合、だいたい前述のような制度を紹介し、しかし、最終的には多くが生活保護制度を利用する。制度によって雇用保険の対象外かどうか、求職できる状態かなど、さまざまな「条件」があるため、結局使えるのが生活保護しかないということが多いのだ。

 貧困問題に十数年かかわってきた身として今、強調したいのは、どうか貯金が尽きる前、住まいを失う前に相談してほしいということだ。一人でギリギリまでなんとかしようとして誰にも助けを求めず、住む場所を失い、所持金が30円くらいになって相談してくる人と少なくない数、会ってきた。そうなると電車賃もなければその日の食費、ネットカフェ代もないので、本人も支援する方も大変だ。それより、まだ数万円ほど手元にあって家賃は滞納しているけれど部屋を追い出されていないという方がもろもろ非常に楽である。本人のダメージが少なくて済む。そして生活を早く立て直せる。

 また、とりあえず食料だけが必要という場合にはフードバンクもある。

 と、ここまで書いてきたようなもろもろの制度を網羅しているのがビッグイシューの「路上脱出・生活SOSガイド」だ。全ページ無料で見られるので、今のうちに見ておいてほしい。無料低額診療や、「追い出し屋」対策の窓口も紹介されているし、窓口に同行支援してくれる支援団体の情報もある。この数ヶ月で、あなたの周りで「本当に困った」という人が必ず、出てくるはずだ。その時に、教えてあげてほしい。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。