第153回:特措法改正の後にすべきこと(南部義典)

 武漢市(中国湖北省)が発生源となった新型コロナウイルスCOVID-19の感染拡大が勢いを増しています。WHOは11日、パンデミック(世界的な感染の流行)と認定しました。現在は特に、ヨーロッパ各国が深刻です。

 フランスでは15日、統一地方選挙の前半戦が行われましたが、投票率は40%を切り、過去最低の記録となりました。22日には後半戦が予定されていましたが、6月21日に延期されることが決まりました。また、イタリアでは29日、国会議員の定数削減の賛否を問う国民投票(憲法改正)が行われる予定でしたが、こちらも早々に無期限延期が決定しています。
 日本では、3月に予定されていた地方選挙は、熊本県知事選挙(22日投開票)をはじめ、いずれも自粛ムードの中で淡々と進められてきたものの、衆議院議員静岡4区補欠選挙(4月14日公示・26日投開票)の頃には国内感染の状況がどうなっているか誰にも分かりません。楽観することなく冷静に、状況展開を見計らう必要があります。

 何十年かに一度、目に見えない病原体が世界規模で政治・社会の機能を麻痺させます。非常事態に陥るのは何も日本だけではありませんが、御家芸のように「後追いのルールづくり」に勤しむのではなく、対応上の問題を整理し、あらゆる反省、教訓を形あるルールに残していくことが今後必要と考えます。もちろん、そのルールづくりは当然、憲法が許す範囲内のものであり、露骨な国家主義、優生主義を採り上げる余地はありません。

3月はまず「休会」にすべきだった

 先週の国会は、新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部を改正する法律案(特措法改正案)の審議があり、与党と主要野党の賛成を以て成立しました。内容(緊急事態宣言とその効果)についてはすでに多方面で論じられているのでここでは繰り返しませんが、元はと言えば3月に入って、国会は1~2週間「休会」すべきだったと思います。衆参同時に休会することはもちろん、衆参で1週間ずらして休会にする余地もあったと思います。

 私も以前なら「緊急対応が必要な時にこそ、議会制民主主義を万全に機能させる必要があり、機能停止はよくない」と主張していたでしょう。しかし、さすがにここまで状況が深刻になり、各地での「クラスター潰し」が課題になっている中で国会が粛々と通常運営を続けるのは、社会に危機意識の低さを印象付けるばかりか、単なる無理強いであり、危険でさえあります。この意味で、2月26日にれいわ新選組が各党・会派に休会の要請をしたにもかかわらず、議院全体の問題とはみなされず、真摯な検討に至らなかったのは大変残念なことです。
 現状、これまで国会関係者に感染者が出ていないのでみな安心しきっていますが、衆議院と参議院は、議事堂から議員会館まで含めて一体の構造を成しているので(地下鉄の駅も含めてつながっています)、ひとたび、感染に至れば大変な事態になります。病院だけでなく、国会の「院内感染」も絶対に避けなければなりません。参議院では、2020年度総予算案の審議が行われていますが、年度内ギリギリまで続けることをせず、早めに採決をし、予算を成立させて、休会に入る選択肢も残されています。

政府対応を調査する特別委員会の設置を

 国会では特措法改正が一段落し、今後は経済・景気対策の提案とともに単発的な問題追及が続いていくと思いますが、それらに尽きることなく、2020年に入って新型コロナウイルス問題が発生して以降の一連の政府対応を調査し、問題点を整理し共有していくための特別委員会(新型コロナウイルス問題調査特別委員会)を衆参に設置するべきです。事態が日々刻々と変化していることは、安倍総理に教えられなくても誰でも分かっていますが、いずれ「終わりよければ全てよし」のような状況になってしまって、東京五輪の盛り上げムードとともに苦しかった経験、諸問題が忘れられてしまうのは実に不健全です。専門に継続調査ができる会議体が必要です。

 特別委員会では、時計の針をいったん戻して、様々な事実確認、原因の調査、問題の洗い出しを行うべきです。①中国政府の初期の情報提供、②武漢市チャーター便の手配、③帰国者の一時隔離、④ダイヤモンド・プリンセス号船内の状況と対応、⑤PCR検査の実態、⑥医療機関の対応、⑦陽性者の情報公開、⑧休校要請に至った経緯、⑨学校、学童保育等の現場に与えた影響、⑩中小・零細企業、就業者に与えた影響、⑪マスク不足の対応、⑫デマ情報などを広範に調査し、最終的に「報告書」を仕上げ、公表するのが理想です。
 とかく最近の国会は与野党ともに「言いっぱなし」「放ったらかし」が多いので、なおさら後の記録となるような「報告書」をまとめる必要性があるのです。さらに3月10日には、今回の新型コロナウイルス問題が公文書管理法(ガイドライン)上の「歴史的緊急事態」に指定され、関係する政府の対策本部の会議録は迅速に公表されることになり(ここで内容等が改ざんされれば身も蓋もありませんが)、その意思決定の当事者、プロセス、内容の妥当性を検証するのはまさしく国会の責務であると言えます。多数の関係者のヒアリングを行う必要があり、この作業は1年近くかかると思います。

 ちなみに③に関してですが、2月1日、帰国者の一時滞在の対応に当たっていた政府職員が自殺したとの報道がありました。その後、報道のフォローがないので、どういう事情だったのかは今まで不明ですが、およそ個人を死に至らしめるような強力なプレッシャーが短時間の内にかかったことは容易に想像できます。現場はどういう状況だったのか(どういう指示がなされていたのか、業務量はどうだったのか等)、客観的な検証が不可欠です。

 東京五輪の開催をめざし、新型コロナウイルス問題を早期に「収束フェーズ」へと落とし込めたい政府の思惑が見え隠れしています。しかし、それはまだまだ先の長い話です。

南部義典
なんぶよしのり:1971年岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)等を歴任。現在、国民投票総研 代表。専門は国民投票法制、国会法制、立法過程。主な著書に『図解 超早わかり18歳成人と法律』『図解 超早わかり国民投票法入門』(以上、C&R研究所)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)、『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナー No.255)』(共著、日本評論社)、『広告が憲法を殺す日』(共著、集英社新書)、『18歳成人社会ハンドブック』(共著、明石書店)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会)などがある。(2020年6月現在)