3月4日、渋谷LOFT9でシンポジウム「軍隊は命をうばう―沖縄戦を知らずして日本の未来は語れない」が開催されました。
映画『沖縄スパイ戦史』の共同監督である三上智恵さんの『証言 沖縄スパイ戦史』(集英社新書)、そして大矢英代さんの『沖縄「戦争マラリア」―強制疎開死3600人の真相に迫る』(あけび書房)のダブル出版記念イベントです。
第二次世界大戦末期、アメリカ軍が上陸し地上戦が繰り広げられた沖縄。しかし、その陰では、沖縄へ渡った陸軍中野学校出身の42名のエリート将兵たちによる秘密戦が実行されていました。10代の少年たちが山にこもってゲリラ戦を戦う「護郷隊」として組織され、八重山諸島では軍命による強制移住の結果、マラリアによって多くの島民の命が失われました。映画『沖縄スパイ戦史』は、住民虐殺やスパイリストの作成など、これまで語られてこなかった「裏の戦争」の姿を示したものでした。
700ページ以上に及ぶ三上さんの『証言 沖縄スパイ戦史』は、この映画には収まらなかった貴重な証言と追跡取材によって、当時何が起こっていたのか、その本質に迫っています。また、学生時代から八重山諸島での取材を続けてきた大矢さんは『沖縄「戦争マラリア」』で、3600人もの住民が亡くなった背景をさらに深く掘り下げています。
このイベントの司会を務める、マガジン9でもおなじみの鈴木耕さんは、「軍隊は味方も殺すことがあることを示した本」とお二人の新刊を紹介します。
「誰も加害者になりたいわけじゃない。身内や国の人を守りたいと思っているのに、どこでタガが外れて武器が味方に向けられていくのか。戦後75年の間、私たちは戦争の被害から悲惨さを学んでも、加害者になる恐怖は学んでこなかった。いま私たちに迫る危機を、あの戦争を苦い処方箋にして学びたい」と三上さん。
トークの詳しい内容は、末尾にある「デモクラシータイムス」の動画でじっくり見ていただきたいのですが、おりしも新型コロナウイルスによる影響が広がるなか、かつての沖縄戦で人々を悲惨な状況に追い込んだ心理や同調圧力といったものが、いまの私たちの状況とも重なるように思えました。
たとえば、波照間島からの強制疎開にあたっては「集団を守るためには個が犠牲になっても仕方ない」という日本のムラ社会的な考え方が説得に利用されました。そして、いまSNS上では「いまは国難だから我慢しなくてはいけない」「文句を言っている場合じゃない」と、政府の対応への不満をけん制するようなコメントを見かけます。
沖縄戦の最中には、恐怖によるパニックが住民間でのスパイ疑惑を引き起こしました。同様に、コロナウイルスによる不安や恐怖は、人々の差別意識をむき出しにしたり、トイレットペーパー買い占めのような行動に駆り立てたりしています。SNSが発達してさまざまな情報を得ることが出来るようになった現在でさえ、あっという間に人々はパニックを起こし、集団行動に流れてしまい得るのです。だからこそ、「いかに民衆が非常に弱い存在であるのかを一人ひとりが自覚しなければいけない」と大矢さんは話します。
秘密戦を実行した陸軍中野学校の若いエリート将校たちが「特別に悪い人間」だったと考えるのではなく、「国のため」「家族を守るため」という戦争や軍隊の論理に染まってしまえば、私たちも同じことを「正義」の名のもとにしたかもしれないという想像力が必要だと感じます。
このシンポジウムのあと、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の改正法が成立し、首相が緊急事態宣言を出すことで、国民の私権制限をすることも可能になりました。ゲストで登壇した弁護士の武井由起子さんは、私たちが緊急事態宣言に慣れていった先には、自民党が改憲草案に盛り込んだ緊急事態条項があるのではないかと危惧していました。「強い人に守ってもらいたい、何も考えずに強い人にすがりたい、という思いが広がる中で分断されていく」と話していたことが、強く印象に残っています。
「過去の戦争」ではなく、いまと未来の私たちにつながる問題として、ぜひ今回のシンポジウムをご覧いただき、お二人の本を手にとって沖縄戦で何が起きていたのかを知ってほしいと思います。
(中村)
デモクラシータイムス
「特別番組・シンポジウム録画中継『軍隊は命をうばう』」(2020年3月4日収録)
出演:
三上智恵さん(映画監督)
大矢英代さん(ジャーナリスト)
武井由起子さん(弁護士)
司会:鈴木耕さん(編集者、ライター)