第156回:ついに亀井静香氏の名前も出た。自民党は第三者委員会を設置すべき(南部義典)

引退した亀井氏の秘書が300万円を受領

 前回に続いて、河井克行・案里夫妻の大規模買収事件を取り上げます。
 先週8日、逮捕・勾留中であった両名は、買収の疑いで起訴されました。両名による被買収者(買収の金銭を受け取った側)が100人に上ることは以前から報じられてきたところですが、10日夜になって、そのうちの一人が亀井静香・元自民党政調会長の秘書であるというニュースが流れてきました。ニュースによれば、当該秘書は昨年6月に100万円、7月に200万円を受け取っているとのことで、総額300万円は被買収者の中で最も大きい額とされています。

 亀井氏は3年前に政界を引退しましたが、その後も報道番組等にたびたび出演し、安倍内閣・自民党の政治姿勢を憚りなく批判する「御意見番」として依然、その名を轟かせています。ところが河井氏の買収事件に関しては、地元の広島県政界を動揺させる大問題でありながら、辛口を挟んでいる様子がまったく窺えなかったので、私も怪訝に思っていたところでした。そんな中に飛び込んできたのが、今回のニュースです。河井マネーの「毒」が亀井氏にも回ってしまったのかと、日本国中に驚きの声が上がったことは言うまでもありません。

 

亀井氏は記者会見を開いて、説明を尽くすべき

 もっとも今回の河井案里氏のように、新人が選挙に立候補しようとする場合、「ご支援のほど、よろしくお願いします」と先輩政治家のもとに挨拶に伺うのは珍しいことではありません。先輩政治家が挨拶を受けた場合、「当選に向けてがんばれ」と、新人に対して「陣中見舞」の名目で幾らかの金銭を渡すこともあります。ここで強調したいのは、あくまで“軍資金”の類として、金銭は選挙に立候補する側に対して渡されるものだという点です。渡す側・渡される側が逆になれば当然、買収の目的が強く疑われることになります。

 河井克行氏が亀井氏秘書に面会し、300万円もの巨額の金銭を渡したのは、単なる社交上の挨拶にとどまらないことは明らかです。亀井氏の政治力を以てすれば、参議院自民党の現職である溝手顕正氏の支援組織を切り崩せる(地元広島における、亀井氏との間の対立関係を利用できる)という相当な確信があったはずです。また当該秘書は、亀井氏の引退後も、氏の政治活動を継続的にサポートする立場にあり(中国新聞社が報じたところでは、「亀井静香事務所 秘書」の肩書で、同社社員と昨年、名刺交換を行ったとのこと)、亀井氏からかなりの信頼が置かれていたことは想像に難くなく、河井氏側との接触の事実や、金銭の授受とその名目上、会計上の処理などに関して、亀井氏に何の相談、報告もなく自身の裁量で始終対応したとは到底考えられません。
 亀井氏本人が事実、経緯をどの程度認識、了解し、言わば300万円の対価として、案里氏の当選に向けてどのような指示を行った(行わなかった)のか、早期に記者会見を開いて、説明するべきです。説明を怠たる分、晩節を穢すことになると思います。

自民党の責任で「第三者委」の調査を始めるべき

 現状、被買収者100人は起訴猶予処分(不起訴)になるとみられています。断ったにもかかわらず、克行氏が無理やりに現金を手渡したとか(「安倍さんからです」と言われて手渡されたと証言し、その後辞職した自治体議員もいます)、買収と気付いたので後日返金したなどの事実を東京地検が斟酌し、刑事責任を問わないこととしたなどと、メディアは解説しています。

 しかし、被買収者を起訴猶予としてしまっては、各々の買収事実が明らかにならないばかりか、再発防止等に繋げることができません。現金を使ってしまった者の責任はどうなるのでしょうか。まして、河井夫妻の刑事裁判を進めても、党本部からの1億5千万円を含む買収の「原資」を突き止めることまではできないので、全容解明は不完全燃焼に終わってしまいます。

 また、次のようなアンバランスを生んでしまいます。一連の買収事件の発端となったのは、複数の車上運動員(ウグイス嬢)に対して法定上限を超える報酬が支払われたとの内部告発があり、それを週刊誌が報じたことですが、その車上運動員の氏名などは案里氏の選挙運動収支報告書で報告、公表の対象とされているのに対し、94人の自治体議員・首長のうち、自ら公表した人を除いては、今なお政治責任の「逃げ得」を許しています。一般の市民にすぎない車上運動員が一定の社会的制裁を受け(てい)るにもかかわらず、地元で公職にある議員らが責任追及から逃げまくるというのは、誰も理解しないでしょう。単に起訴猶予で終わらせては、「逃げ得」にお墨付きを与えかねないのです。

 そこで、自民党(本部、広島県連)が主体となって第三者委員会を設置し、関係者に対する調査を進め、報告書をまとめて公表することを提案します。最近では、関西電力で金品受領問題が発覚した後に、弁護士などから成る調査委員会が設置され、調査の上、報告書がまとめられた例があります(ことし3月14日公表)。関電の調査委員会は4名の委員のほか、23名の弁護士がその補佐役を務め、①関係者ヒアリング(214人に対して計248回実施)、②デジタル・フォレンジック調査(消去されたメールの復元など)、③書面調査、④ホットライン調査、⑤資料提供窓口の設置、を半年間かけて行ってきました。これに匹敵する調査を、自民党の責任(費用負担)で行うべきです。

 目的は、刑事責任の追及ではありません。「党勢拡大」の名目で行われる資金移動、使途に限界を設けるなど、党内のコンプライアンスを確立することです。あらゆる不正要因を封じ込めた上で、諸々の選挙に対する信頼を回復させることにあります。もちろん、亀井氏も調査対象に含まれます。

 自民党が主体的な動きをとらなければ、党員は到底、納得しないでしょう。「自ら納めた党費が買収の原資になっているかもしれない」と、広島に限らず、全国各地の党員が不満に思っていることは容易に想像ができます。自民党は党則で、党大会を年1回開くことを定めていますが、ことしは結党後初めて、開催しないことを決めています。党本部は、コロナ禍のために大規模な集会が開けないという、公衆衛生上のもっともらしい理由を挙げていますが、河井夫妻買収事件に対する党本部(とくに二階幹事長)の責任追及を避けるという政治的な理由こそ本意ではないかと思います。党員ないし地方組織の意見を広く聴く場としての党大会が開催されないことを以て、その不満はさらに積もっていくことでしょう。二階幹事長は「2人は大物政治家ではないので、(事件、裁判の結果がどう転ぼうとも)大きな影響は及ばない」と言い切っていますが、まったくフォローになっていないどころか、かえって火を油に注いでいる印象を受けます。

 第三者委員会の設置は、次の自民党総裁を狙う石破茂氏あたりが主張するとリアリティを得られます。総裁選の争点ともなるはずですし、同じことは森友学園に絡む財務省の公文書改ざん問題に関してもいえます。トカゲのしっぽ切りを続けながら、世間が事件を忘れるのを待つ態度は、自民党にとってはもちろん、国・地方の政治全体にとっても良くありません。より根本的な対応は何か、あえて提言する次第です。

       

南部義典
なんぶよしのり:1971年岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)等を歴任。現在、国民投票総研 代表。専門は国民投票法制、国会法制、立法過程。主な著書に『図解 超早わかり18歳成人と法律』『図解 超早わかり国民投票法入門』(以上、C&R研究所)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)、『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナー No.255)』(共著、日本評論社)、『広告が憲法を殺す日』(共著、集英社新書)、『18歳成人社会ハンドブック』(共著、明石書店)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会)などがある。(2020年6月現在)