『なぜ君は総理大臣になれないのか』(2020年日本/大島新監督)

 2017年、無所属になってからは、どこか吹っ切れたような国会での答弁が印象的だった「統計王子」こと衆議院議員小川淳也氏(現在は立憲民主党・無所属フォーラム)。「こんな国会議員がいたんだ」と、まわりを驚かせ、注目を浴びるようになった小川氏だが、本作は彼が衆議院に初挑戦をした2003年から現在までの17年間を追ったドキュメンタリーである。

 小川氏は、地方都市・香川県高松市選出の議員で、この間5回の当選を果たしている。しかし選挙区で勝ったのは民主党が政権交代をなしとげたときの1回のみであり、そのため所属する党内では存在感を発揮できずにいた。さらに、2017年総選挙の直前、前原誠司氏の最側近にいたために、民主党解体および「希望の党」問題で振り回されることに。高い志と気概を持ちながら、順風満帆とは程遠い彼の永田町での苦悩や、支える家族の思いが描かれている。

 この作品、緊急事態宣言が解除されたとはいえ、コロナ禍真っ最中の6月13日よりロードショー上映となった。ソーシャルディスタンスで客席数は通常より少ないが、連日完売満席で公開後1ヶ月も経ないで1万人を動員したという。その後、全国各地58を超える映画館での上映が次々と決まり(7月末現在)、このジャンルのドキュメンタリー映画としては、異例のヒットである。

 なぜこの作品が、これほどまでに話題となったのか。SNSで評判が拡散され、様々な媒体で取り上げられ、観客をコロナ禍でもわざわざ映画館に足を運びたい、という気にさせているのはどうしてなのか。

 被写体となった小川淳也氏が、永田町にあって“稀有な存在”だ、というのが理由の一つだろう。“稀有”というのは、政治家一家でもない普通の庶民的な家庭に生まれ、当選5期目にもかかわらず、「世の中を良くしたい」という青臭い理想を掲げ、その実現のために一生懸命に身を粉にして動く、真剣に語る、そして泣く──そんな政治家だということだ。

 政治家といえば、権力欲が強く、秘書をどなり散らし、平気で嘘をつく、選挙の時だけ良いことを言う、議会中に居眠りする……などなど、かなり最悪なイメージをまとう部類に位置する職業だと思うが、小川氏の持つ雰囲気や発する言葉の、そうしたものとのギャップがまず新鮮だったのだろう。

 私のところにも友人から「見た!」というラインが入ったのだが、彼女はこう書いていた。

 「こんなに若い頃とお顔が変わらない政治家さんもいるんだね! ああいう人は、いわゆる政治家には向かないんだろうけど、自分の志を貫こうとしている姿に、真摯さを感じました。途中、あまりの孤高さに泣いてしまった」

 ええっ、泣いたんかい。と思わず、ツッコミを入れてしまったのは、彼女は、政治について話すのをほとんど聞いたことがない、たぶんデモにも一度も行ったことがない、そういうタイプの人だから。だからといって「政治に関心ない」と決めつけていたのも、私の偏見なのかもしれない。が、「いかにも」でない人からも、この映画が面白かった、いろいろ考えさせられたと、私みたいな「政治や社会問題に何かとブツブツ言っている」めんどくさい系に、ラインを送ってくる=「小川淳也について何か語りたいな」って思わせるところがミソなんだと思う。

 カメラをほとんど意識していないように見える小川氏やその家族のやりとりは、大島監督と彼らとの信頼関係がしっかりとあることの表れにほかならないのだが、それが見ている側としては、安心して画面に集中し、没頭できる要因にもなっていると感じた。

 私自身は、小川氏の言葉の一つひとつに、はっとしたり、頷いたりの連続だった。

 「政治家がバカだとか、政治家を笑ってるうちは、この国は絶対に変わらない。だって政治家って、自分たちが選んだ相手じゃないですか。自分たちが選んだ相手を笑ってるわけですから、絶対に変わるわけないんですよ」

 「政治っていうのは、勝った51がどれだけ残りの49を背負うかなんです。でも、勝った51が勝った51のために政治をしてるんですよ、いま」

 今の安倍政権に一番足りないものではないのか。いや、前の民主党政権の時もそうだったかもしれない。

 ところで私は、彼のことは民主党への政権交代前から名前は知っていた。そして気にもかけていた。なぜなら至極単純な理由だが、私の地元が香川1区であり、彼は高校の後輩でもあるからだ(玉木雄一郎氏も同じく後輩になるわけだが)。そんなことから、政権交代直前となった2009年の選挙の時、民主党の全候補者に対して、マガジン9で「憲法9条についてどう考えるか。改憲するべきか、しないべきか」というアンケートを行った時も、地元選出の彼の回答が気になっていた。私の中では長文の回答を寄せてくれた記憶だったのだが、今回アーカイブを見直してみると、とても端的な回答。「“護憲的改憲”を基本とし、論憲をつくすことは必要である」だった。ちょっと拍子抜け。でも小川氏らしい気もする。ちなみに玉木氏はこの時、無回答。なるほどね……。

 「40代でいい仕事して、すぱっと引退する」

 「政治家というのは、凄まじく自己顕示欲が強い人か、やむにやまれずに政治家になる人か、この二種類しかいない。自分は政治家になりたい、と思ったことは今も昔も一度もなく、(この国を変えるために)自分が(政治家に)ならなきゃいけないと思ってここまでやってきた。苦しいことばかりだった」

 そんなふうに語っていることから考えると、もうワンチャンスがなければ彼はこのまま政治家を引退し、第二の人生を歩みそうな気もする。野党も含め政党や永田町まわりの組織は、小川氏のような40代への世代交代をしていかなければ再生は難しいと思う。この国はとかく若い世代へのリスペクトがなさすぎる。

 また映画では政策についてはあまり語られていなかったが、彼の言う「やらなくてはならない大改革」が、日本を福祉国家に作り変えること、なのは明らかであろう。財源も含めそのロードマップについて知りたいし、憲法観についても掘り下げて聞いてみたい。

 そんなことを誰かと前向きに語り合いたくなる映画である。そこで、気になっているけれど映画館に行くのはちょっと……と思っている方にも朗報だ。今週土曜日の8月1日に、オンライン上映会とスペシャルトークイベントが決定している。この機会にぜひアクセスして、ポジティブに政治の未来を語る、本来あるべき清々しさを感じて欲しい。

(塚田ひさこ)

『なぜ君は総理大臣になれないのか』オンライン特別上映イベント詳細

■配信スケジュール:8月1日(土)
18:30開場/19:00本編上映開始/21:00本編上映終了、スペシャルトーク開始/22:00トーク終了予定
■スペシャルトーク登壇者:小川淳也議員、田﨑史郎さん(政治ジャーナリスト)、鮫島浩さん(朝日新聞記者)、大島新監督
※本編はバリアフリー版での上映(日本語字幕付き、音声ガイドは「UDCast」対応)
※8月2日(日)24時00分までアーカイブでの視聴可能
■チケット:料金:1,800円
↓購入サイト
PIALIVESTREAM https://w.pia.jp/t/nazekimi/
uP!!!https://up.auone.jp/articles/id/80593

『なぜ君は総理大臣になれないのか』

※公式サイト:http://www.nazekimi.com/
ポレポレ東中野、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国各地で上映中