第12回:フランス地方選挙で起きた「躍進」――市民型選挙の戦い方を学ぶ(岸本聡子)

フランスで「ミュニシパリズム政治の躍進」

 フランス地方選挙の決選投票は、新型コロナウイルスの影響で3ヶ月ほど延期されたが、2020年6月末に実施された。3月中旬の第1回投票で議席が確定しなかった4820市町村の地方議会議員と市長が選出された(※)。

※フランスの自治体議会選挙は人口規模によって方式が異なるが2回投票制。人口1,000人以上の場合は、政党別候補者リストへの2回投票制。第1回の投票で過半数を獲得した政党がなかった場合には、2回目の投票を実施する

 各国のメディアは「フランス地方議会に『緑の波』」と大きく報道した。フランス第2の都市であるマルセイユをはじめ、リヨン、ナント、ストラスブール、ボルドーを含む8の主要都市でヨーロッパエコロジー・緑の党(EELV)が勝利し、7人の「緑の新市長」が誕生したからだ。パリやマルセイユをはじめ、10大都市の市長のうち6人が女性というのも嬉しい驚きだった。

 パリは社会党のアンヌ・イダルゴ氏が再選。社会党と緑の党の連合であるアンヌ・イダルゴ市政は、気候変動への取り組みと環境課題を考慮した「緑の政治」で世界的なリーダーシップもとってきたが、それが支持された。大きく言えば、緑の党と社会党などの左派(グリーン・レッド連合)の革新勢力の勝利であった。一方で、マクロン大統領率いる国政与党の共和党前進は、大都市すべてで敗北した。マリーヌ・ル・ペンの極右政党である国民連合は、ペルピニャンという中都市で第一党になったほかは、全体としては1438人いた地方議員数を今回の選挙で40%も減らしている。

 この辺までが一般的なニュースで読み取れる結果ではないだろうか? “希望のポリティック”として、もう一歩「緑の波」を深読みしてみよう。主要なメディアは、「緑の党の躍進」と表面的に伝えているが、「ミュニシパリズム政治の躍進」として見たほうがずっとおもしろい。

各都市での市民コレクティブの実践例

 今回の地方選挙に向けた選挙運動のなかで、フランス全国に410ものミュニシパリズムに基づく「市民コレクティブ」が誕生し、選挙戦を戦った。市民コレクティブとは何かというと、左派政党だけでなく、そこに市民団体や社会運動体、個人も加わって「市民参加型」の候補者リストを一緒に作りあげていく選挙運動の形のことだ。

 こうした市民コレクティブを生み出した「ミュニシパリズム・ミュニシパリスト運動」はスペインから広がった新しい政治運動で、議会制民主主義に限定せず、市民権や市民の政治への直接参加を重視する。経済については、利潤と市場の法則よりも、市民、公益、コモンズ(公共財)を優先する。それって具体的にはどういうこと? と思う方も多いと思う。マルセイユ、トゥールーズ、グルノーブルの選挙戦から、ミュニシパリズム政治の作り方(レシピ)のヒントを探ろう。

 私が主要メディアではあまり報じられないミュニシパリズム型選挙戦について知ることができたのは、「MINIM」というミュニシパリズムの情報や分析を集めて発信するサイトのおかげだ。フランスの活動家と「MINIM」が共同で「Municipalist France!」という英語記事を発信し、「緑の波」がどのように起きたのか伝えていた。

 「MINIM」は国境を越えてミュニシパリズムの戦略を共有するために、バルセロナの市民プラットフォームである「バルセロナ・コモンズ」出身の活動家たちが立ち上げたサイトだ。ほかにもフランスでは、各地のミュニシパリズム運動をつなぐNGO「コモンズポリス」が国内ネットワークと国外への発信において重要な役割を果たしている。身近な地域政治を主眼とするミュニシパリズムだが、こうした国際的なネットワークや発信力を持っている点が最大の強さである。

●レシピ1 マルセイユ
「チキン(鶏肉)」=生活こそが、政治である

 フランス第2の86万人都市マルセイユでは、ジャン=リュック・メランションが率いる左派政党「à la France insoumise (FI)」を含め5つの左派政党が連合し、5つの市民政治組織と合同して市民コレクティブを2018年に編成した。そこにフランス最大の労働組合CGT(フランス労働総同盟、マルセイユでは1万5千人の組合員)が積極的参加を表明。マルセイユの市民コレクティブは、環境汚染と経済的不平等は過去最悪であり、地域の治安や住環境の悪化はもはや生きるか死ぬかというレベルの課題だ、という共通認識から出発した。「Let’s be crazy, believe in politics( バカになって政治を信じてみようぜ!)」というスローガンはセンスが良いと思う。

 10の組織を中心とする市民コレクティブが、普通の市民もかかわる選対をつくるために始めたのは、「チキン」というコンセプトで鶏肉料理を作って住民に振る舞うことだった。チキンは「生活」を象徴する。チキン=生活こそが政治であるとして、労働者階級が多く住む地区の活動家や家族が参加できるよう呼びかけ、鶏肉料理を食べながら、この街に希望のある生活を作るための話し合いを行ってきたのだ。そして今回の選挙では、保守市政が1995年以来続いたマルセイユで、市民コレクティブが勝利し、新人リュビロラ候補が市長になった。

●レシピ2  トゥールーズ
「もしあなたが選ばれたらどうする?」

 フランスで4番目に大きい都市のトゥールーズ(人口47万5千人)の市民コレクティブの名前は「市民アーキペラゴ(島々)」。2017年夏に発足した「市民アーキペラゴ」はユニークな手法が注目を集めており、とくに候補者リストの作成方法は画期的だった。リストのうち3分の1(70人)は「市民アーキペラゴ」メンバー間のくじ引き、もう3分の1は他の人による推薦、そして残りの3分の1は立候補だ。

 2019年5月、39歳の看護師 で三児の母である女性(Agathe Voiron)の家に「市民アーキペラゴ」から届いたフライヤーには、「もしあなたが選ばれたらどうする?」と書かれていた。彼女はいつも投票には行っていたし、投票は大事だと思っていたが、自分が選挙戦にかかわるとは思ってもみなかったという。最初の市民アーキペラゴの会合に顔を出したときに、参加者の多様性や、誰もが人を遮ったりせずに対話をしている姿に驚き、すぐに好きになった。その後、彼女は7人のスポークスパーソンの一人として互選された。

 今回連合した、緑の党、3つの新興の左派政党(IF、Place publique、ニューディール党)、海賊党(※)、社会党の左派6党も、このユニークな手法を支持し、数人のスポークスパーソンを出している。残念ながら「市民アーキペラゴ」は敗れてしまったが、僅差での第二党だった。

※海賊党(Pirate Party)はヨーロッパを中心に70カ国を超える国々で国政レベルの議員や地方議員、首長を擁し活動を続ける政党、政治運動。市民権、直接民主主義、著作権と特許の改革、オープンソース、情報公開、ネットワーク中立性などを推進する

●レシピ3 グルノーブル
「組織的な論理で行う選挙を変えたい」

 人口16万人のグルノーブルでは、緑の党と左翼党(Parti de Gauche/PG)の連合が再度支持され、緑の党のエリック・ピオル市長が2期目の勝利を果たした。前回の選挙で勝利したエリック・ピオル市長のリーダーシップによる、過去6年間の革新的でグリーンな市政の成果が有権者に評価された。

 グルノーブルでは、2014年に行なわれた前選挙のときに、 先駆的に市民コレクティブ「グルノーブル・コモンズ」が作られていた。そして候補者の半数を市民組織から、残り半数を政党(緑の党と左翼党)から選出したリストを作成した。この6年間の市政を通じて、グルノーブル・コモンズ はさまざまな参加型民主主義の実験を行ってきた。市議会議員の給料を25%削減し、2000筆の署名から始められる住民投票提案条例を制定。ほかにも、歩行者中心の市街地づくり、大型広告の撤廃、電力の再公営化と地域暖房システムの開発などがある。

 そして、今回の選挙でグルノーブル・コモンズ はさらに勢力を伸ばした。候補者リストには、共産党や社会党といった伝統的な左派政党だけでなく、新興の左派政党である「Place publique」や「Génération.s」、海賊党も加わった。市長に再選されたエリック・ピオルは緑の党所属だが、常に緑の党の選挙運動戦略からは一定の距離を置いていた。「組織的な論理で行う選挙そのものを変えたい」というのが彼の信念で、それに誠実であり続ける人だという評判だ。

 「2014年に私たちは市の政治のあり方そのものの変革の挑戦を始めた。今までの政治は左派政党と保守政党が交代を繰り返し、権力のやり取りをすること意味していた。私は政治と政策の所有権を市民が持つことこそが政治だと信じている」(エリック・ピオル)

環境課題だけでなく、より広い社会正義を求める声

 ミュニシパリズムの政治と選挙の小さなフランスツアーはいかがだっただろうか? 今回の選挙でミュニシパリストを自認する候補者1324 人が地方議員に当選した。小さな町も含めて、410ものミュニシパリストの市民コレクティブが誕生し、その80%が代表者を送り出すことに成功し、410のうち66の市民コレクティブが第一党として勝利し市議会で勢力を握った。

 これだけの数の市民コレクティブは、もちろん自然発生したのではない。2015年と2019年のスペイン地方選挙でラディカルな民主主義や市民参画を掲げて市民プラットフォームを作って選挙に臨んだバルセロナ、マドリッド、カディス、バレンシアなどのスペインのミュニシパリズム地方政治運動に大いに触発され、その経験がフランスでも活かされたのだ。

 選挙を前にした2019年12月、フランスでのミュニシパリズムの芽生えを伝える下のマップを独立系メディアの「Basta!」が作成した。

(図:Bastamag.netより)

 それぞれのアイコンは市民コレクティブの構成グループを示している。黒白のアイコンは政党員ではない市民が候補者リストに加わっていることを示す。黄色いベスト運動(Gilets jaunes)やATTACフランス(※)の社会運動アイコンも見える。それ以外は緑の党、伝統的左派政党の社会党と共産党、上でも紹介した新しくラディカルな左派政党だ。

※ATTAC(Association for the Taxation of financial Transactions for the Aid of Citizen=市民を支援するために金融取引への課税を求めるアソシエーション)は1998年に設立された国際NGO

 「緑の波」と言われるように、緑の党が主要政党の中で一番得票したことは確かであるが、多くの緑の党の候補者は従来の政党中心の選挙から距離を置いて、さまざまな運動体や左派政党の橋渡しをする役割を果たした。そのような緑の党の候補者には、環境課題だけでなくより広い社会正義を等しく訴えたという共通点がある。

 市民コレクティブが共通して希求するのは社会正義、エコロジー、地域の民主主義の再生である。政策だけでなく、コレクティブ内部の運営そのものにフェミニズムや多様性を重視するのも特徴だ。「緑の波」はエコロジーな社会への移行を超えている。社会的正義、直接的民主主義、介護(ケア)や医療といった公共サービスと公共財の 民主的な管理、フェミニズムを政治の中心課題としている。

社会運動が圧力を作り、地方政治が国政を変える

 2018年、マクロン政権が気候変動対策として燃料税を引き上げることに地方のトラック運転手や労働者階級は怒り、黄色いベストを着て大規模な抗議行動を起こした 。富裕層や大企業を減税しながら、生活が苦しい層を直撃する環境政策は、「公正な低炭素化社会への移行(ジャスト・トランジション)」ではない。

 2019年後半はマクロン政権の年金改悪に反対する労働組合のゼネストが、何度もかつ長期に渡って組織され、都市機能を麻痺させた。こういった抗議運動を警察は国家的な力を持って暴力で弾圧した。その間、学生たちの気候のための学校ストライキ、#MeTooから火がついた女性への暴力の抗議と新しいフェミニズムの波が国際的に起きた。エリート主義の政治に怒る民衆の社会正義と環境を求める社会運動が集合的な社会圧力を作っていった。こういった民衆の怒りや、伝統的な政党政治に飽き飽きした層が、極右ポピュリズムに吸収されることを回避して、地方政治の場で「緑の波」を起こした意義は深い。

 国政与党は地方政治で支持と基盤を失った。選挙の結果が出た翌日、マクロン政権は、経済のグリーン化のために150億ユーロ(1.7 兆円)の新しい予算をつけるフランスグリーンディールを発表した。これからも地方政治が国政を包囲するように国政アジェンダを動かしていくだろう。


【参考】
Dix villes où des listes « citoyennes » affichent leurs ambitions pour les municipales(2019 年12月)
Action Commune – Cartographie des élu.e.s et assemblées locales participatives

       

岸本聡子
きしもと・さとこ:環境NGO A SEED JAPANを経て、2003年よりオランダ、アムステルダムを拠点とする「トランスナショナル研究所」(TNI)に所属。経済的公正プログラム、オルタナティブ公共政策プロジェクトの研究員。水(道)の商品化、私営化に対抗し、公営水道サービスの改革と民主化のための政策研究、キャンペーン、支援活動をする。近年は公共サービスの再公営化の調査、アドボカシー活動に力を入れる。著書に『水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと 』(集英社新書)