小川淳也さんに聞いた(その1):永田町に足りないものは何か

「永遠に」続くかと思えた第二次安倍政権が突如終わりを告げ、総選挙が間近に。それにより、まとまらなかった野党もようやく再編を行いましたが、これによって「永田町の地図」は少し塗り替えられたのでしょうか、それとも何も変わらないままなのでしょうか。この間の様々な政治の動きを、渦中にいる国会議員はどう見てきたのか――政治を扱ったドキュメンタリー映画としては異例のヒットを飛ばしている映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』(大島新監督)の主人公・衆議院議員の小川淳也さんに聞きました。

永田町の希少種珍品

――映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』は、日本の政治をテーマにした映画にもかかわらず異例の話題作として注目されています。映画では、2003年11月の衆院選に小川さんが32歳で初めて立候補したときからの姿を追っていますが、それから小川さんはすでに5期、15年も政治家をやっていることになりますね。映画からは、ずっと初心の情熱を保ち続けている様子が伝わってきましたし、そこに心を動かされたという観客も多かったように感じます。

小川 私は永田町では希少種珍品種と言われています。永田町で正気を保つのは、それ自体戦いです。議会で正気を保ち続けようとするのは格闘技みたいなものだとも思います。長くいると、段々おかしくなってきたり、ずれてきたりしますから。もしかしたら自分自身の野心や欲得に駆られて自家中毒みたいになっていくのかもしれません。
 一方で、当初の志とか専門分野とかに対する使命感、正義感をもって頑張っている方を見ると、すごいなあと思います。

――それは党に関係なくですか?

小川 高い熱意を持ち続けていらっしゃるのは、野党系の方が多いように感じます。与党というのは、背後に業界団体など利益団体を持つことで成り立っているわけで、つまりは現世利益の維持管理が生業なわけです。ですから、特定の分野への熱い思いや高い志、専門分野などをもっている方は少ないのではないでしょうか。
 私はもともと中央官庁にいて、国家の統治にかかわりたいと思ったほうですから、ことさら与党を批判するつもりはありません。たしかに彼らは「現状維持」という意味において一定の機能を果たしている。ただし、もう一方で改革勢力が弱いという意味でバランスがとれていない。そういう状況で長期政権が続いた結果、寄らば大樹、というか、上にこびへつらう、ものすごい忖度を下部構造に要求する風潮を作ってしまいました。

――安倍政権時代には「モリカケ問題」をはじめ、これまで何度も政権にとって致命的な危機がありましたが、いつのまにか収束してしまいました。

小川 長期安定政権、それ自体を否定するつもりはありません。政権が安定していること自体は、ひとつの国益ではある。それは一定評価します。ですが、その間失ったものが、あまりにも大きい。権力の私物化が焦点になりましたが、それに対して説明責任を果たさず言い逃れで済ませてきた。
 それにもかかわらず、国政選挙には圧勝し続けました。その結果、じんわりと社会全体のモラルが崩壊した。私的権力の維持のために、どれほど社会がむしばまれてきたか、代償は大きいと言わざるを得ません。
 この7年間で総理大臣に忖度しなかったのは、言い方に気をつけなければなりませんが、新型コロナウイルスだけだったのではないでしょうか。

小選挙区制の功罪

――かつては自民党の中にも政権を批判する人がいて、自浄能力があったと思うのですが、なぜそれができなくなったのでしょう。

小川 やはり小選挙区制の構造的影響が大きいのでしょうね。派閥政治が支配していたときは、権力闘争の意味も含めて常に牽制する人がいたし、取って代わろうとする人が自民党内にいたわけです。
 小選挙区制度のもとでは、派閥があっても党の下部構造に組み込まれていますよね。派閥が切磋琢磨して、その結果党があるというのと、まず党があって、その下にグループが出来ているのでは違う。小選挙区下における党首の権力は圧倒的です。

――今の選挙制度で当選した人が議員をやっているわけですから、選挙制度を変えるのは容易なことではありませんね。

小川 小選挙区になって、議員一人ひとりの存在感も軽くなったと、よく言われています。私も含めてですが、個人としての力で勝った人がどれだけいるか。
 小選挙区制のもとでは、多くの場合は「自民党である」というだけで勝つんです。相手候補がよほど魅力的であるとか、自民候補が大きなヘマをする以外は、当然のように勝ってしまう。そういう仕組みになっています。
 対して中選挙区では、人間的魅力で票を集めていかないと当選できなかったわけで、必然的に当時の政治家のスケールは大きかったんだと思います。
 ただ小選挙区制度は、中選挙区時代の金権選挙、派閥政治をやめようということで導入されたわけで、全部悪いわけではない。その小選挙区制度のもと、初めて政権交代を実現した民主党政権が、もっと賢明で持続していれば、がらっと風景は変わったと思います。
 残念ながら当時の民主党は、政権の重荷に耐えられるだけの見識と力量を持てなかった。下野して7年半、もう一度立て直して出直さなければならないのに、改善するどころか、状況が悪化してしまったというのが、私の実感です。ですから、長期安倍政権の最大の応援団は、選択肢を示さなかった野党だったとも言えるかもしれません。

合流新党への危機感

――政権交代という緊張感ある政治をするために小選挙区制が導入されたはずなのに、うまくいかなかったわけですね。いま、長年の懸案だった野党再編がようやく進んで新たな立憲民主党が誕生したわけですが、外から見ているとずっと内輪もめをしているようで危機感が薄いように見えるし、歯がゆい思いがします。立憲民主党に参加された小川さんはこの間の動きをどう見ていらっしゃいますか。

小川 相当の危機感を持っています。野党の合流自体は必要なことです。合流には大義が必要と言われますが、むしろ合流そのものが大義だったと思っています。自身の反省含めて言えることですが、3年前の分裂(※)こそ不義だった。つまり「義」がなかった。だから速やかに合流すべきだった。
 もっといえば3年前に、出合い頭に出来たあだ花のような希望の党を速やかに解党して、民進党に復党を促し、立憲との連携を考えるべきだった、というのが当時からの私の持論です。
 3年間もかかった挙げ句に、相当部分は合流するとはいえ、一部合流しなかった議員も出ています。この形にたどり着くのにすら3年もかかったこと自体、国民に対して申し訳ないと思っています。
 これでは民主党政権時代の反省も総括も十分ではないのではないか、本質は変わっていないのではないか、と思われてもしかたありません。今回の野党合流劇を見て、「まだこの人たちに政権を預ける気にはなれない」というのが有権者の正直な感覚かもしれません。
 その反射的効果として、安倍さんが辞意を表明しただけで政権の支持率が20%も上がったでしょう。国民に自民党以外の選択肢が用意されないのは、不幸なことです。

※3年前の分裂…2017年9月、最大野党であった民進党が、同月に小池百合子東京都知事を党首として結党された「希望の党」への合流を決定。これに反対する民進党所属議員らが翌月に「立憲民主党」を立ち上げた

――自民党は選挙がうまいので、支持率が高いうちに解散をうってくるかもしれませんね。それにしても、小川さんのような危機感を持っている同志は党内にいらっしゃるのでしょうか?

小川 中堅、若手であれば、有権者に近い感覚を持っている議員もいます。しかし、選挙基盤が強くなればなるほど、浮世離れしてくるのではないかと思うことがあります。次第に守勢と保身に入ってしまう。国民を見ないで自分たちの足下を見ていたり、野党内の権力にしがみついてたりしているように見られると、期待も信頼も得られないではないかと危機感を持っています。
 ただし、今回の代表選挙に枝野幸男さんだけでなく、若手の泉健太さんも出たことはよかったと思います。これからどういう人事体制で、安心感、刷新感を出していくのか、どのように政策の中身、党運営の実態を変えていくつもりなのか、真価が問われるときです。

――もっと若手にたくさん活躍して欲しいと思いますが、どうなんでしょうか。

小川 それは、これから枝野さんが中堅若手を育てる意味合いも含めて、今後の人事に表れてくるでしょうね。

選挙区と比例区の違いとは

――小川さんご自身は、代表選挙に出るお考えはなかったのでしょうか。

小川 「あなたは代表選に出ないのか」という声もいただいて、ありがたいことだと思ったのですが、なにぶんにも比例で当選している身なので、まずは選挙区当選が先決という思いでした。

――選挙区選出と比例区選出ではそんなに違うのですか。普通の人にはピンとこないのですが。

小川 国会で安倍さんと対峙するときに、自分が比例区選出だからと卑下したことは一度もありません。比例であろうと選挙区であろうと有権者から託された大事な1議席ですから、気後れせず徹底的に対峙します。
 一方、党内で主要な役割を果たすためには、やはり自ら選挙区で勝ち上がっているか否かは大きいと自覚しています。
 政治家の仕事は、いい政策を実行し国民生活をよくすることに尽きるのですが、党内的には、仲間を選挙で勝たせることも党首の大きな役割なんです。そうやって権力奪取して、それを国民のために健全に使うんです。
 わかりやすい例を挙げれば、チェーン店全体を統括する役割を持つ本店が赤字続きだったとしたら、やはり説得力に欠けるでしょう。まず自分の店を黒字にしてから、という話になる。選挙区で勝っていないのに全体を率いるというのは、それと同じようなことなのです。
 私の選挙区である香川一区の対抗馬は、自民党の平井卓也氏ですが、彼は地元メディアである四国新聞と西日本放送のオーナー一族で、強固な地盤を持っています。ですから、その選挙区で勝つのは容易なことではありません。でも、それは言い訳にはなりません。

映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』より(c)ネツゲン

勝った51は負けた49を背負って

――映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』の中で、小川さんが移動中の車で独り言のように話されていて印象的だったのは「勝った51は負けた49を背負って政治をしなくてはならないのに、勝った51はその51のためだけの政治をしている。それではだめなんだ」という言葉です。民主主義では多数をとったほうが「勝ち」なのだというイメージが強くありますが、決してそれだけではないわけで、そこに異を唱える意味で語っていたのかな、と思ったのですが……。

小川 実は、自分ではその言葉をいつ言ったのかよく憶えていないのですが、17年前、たしか小泉政権のときに直感的にそう思ったんでしょうね。勝ったら総取り、あとはぶった切るみたいな、よく言えば歯切れはいいけど、悪く言えば血も涙もないもの言いに、違和感を覚えたのだと思います。
 私のような若輩者が言うのもおこがましいのですが、政治の本質は統治行為なんですね。統治というと上から目線に聞こえますが、どんな社会でも構成員が納得して共感して、人心が治まっていれば、社会は安定する。
 民主主義では構成員全員の意見が一致することは難しいので、便宜的に多数決で決めることになりますが、大切なのはそこに至るプロセスです。手間も時間もかけて議論を尽くし、最終的に結論を出した後も、賛成を得られなかった49%の思いや主張を背負わなければいけない。49%の側の主張にも、それなりの背景と根拠があるはずですから。
 また、決めたことを実行する過程でも、軌道修正する柔軟さが必要です。民主主義は多数決で決めるまでのプロセスが大事、勝った51人は残りの49人を含めた100人の命運を背負っているという意識で統治に携わる、それでこそ人心は治まると思っています。

――安倍前政権も似たような状況でしたね。数で見れば自民党が圧勝しているわけではないのに、負けたほうの主張は切り捨てられているように見えました。

小川 たとえ政敵であっても、敬意が必要ですよね。安倍さんは街頭演説で抗議する人に対して「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と敵意をあらわにしたり、国会では野党議員を目の前にして、民主党政権時代を「悪夢のような」と呼んだりしました。
 私が逆の立場なら、「野党あってこその国会です」と言います。野党がいてこそ、批判的視座から足りない部分や行きすぎたところを指摘してくれるわけで、それが結果として国民の幸せにつながるのであれば、むしろ敬意を払い感謝すべきことですから。

映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』より(c)ネツゲン

問われているのは有権者

――映画を制作した大島新監督のところには、「こういう映画を待っていた」といった観客からの感想が多数寄せられていると聞いています。それだけ国民の間に政治へのフラストレーションがたまっているということで、この映画に希望を見出した人は少なくなかったのではないでしょうか。

小川 私、実はこの映画をまだ見ていないんですよ。編集、制作にはもちろんノータッチで、最終日にこっそり見ますと監督には申し上げているのですが、ありがたいことに最終日が延びているので、まだ見ていません。監督から映画のお話をいただいたときには、誰がそんな映画見るんだろうと思ったのですが、予想外にたくさんの方が見てくださったようで……。
 私のところに届く感想には2種類あって、一つは「初心を忘れないで闘っている政治家がいたことに救われた」という、ありがたい言葉です。そして、それ以上にうれしかったのは「最後に問われているのは、有権者である国民のほうだ」という感想でした。「有権者は、社会がこのままでいいのか」という問いが、実は監督の隠れた制作意図なのではないか、と。それが見た方に伝わっていることに感動しました。

(その2)につづきます
※2020年9月30日更新予定

(聞き手/塚田ひさこ 構成・写真/マガジン9編集部 映画写真/(C)ネツゲン)


9月26日(土)に、映画『なぜ君は総理大臣に慣れないのか』バリアフリー版オンライン上映&トークが開催されます。本編上映後には小川議員と大島監督、二人のゲストを迎えたスペシャルトークも配信予定です。詳しくは、映画公式サイトにてご覧ください。

●配信スケジュール
9月26日(土)
20:00 本編ライブ上映開始
22:00 本編上映終了後、トーク配信
23:00 トーク終了予定

●トーク登壇者
小川淳也さん(衆議院議員)、大島新さん(映画監督)、上西充子さん(法政大学教授)、濱潤さん(フジテレビ プロデューサー)
*バリアフリー版での映画上映(日本語字幕付き、音声ガイドは「UDCast」対応)
*10月2日(金)24:00までアーカイブ視聴可能

●購入サイト
uP!!!  https://bit.ly/3lSpcI6
PIA LIVE STREAM  https://w.pia.jp/t/nazekimi2/

●チケット料金
一般 1800円/29歳以下 1200円

おがわ・じゅんや 衆議院議員(比例代表四国)。1971年香川県高松市生まれ。高松高等学校・東京大学法学部を経て、1994年に自治省(現総務省)に入省。2005年の衆議院選挙で四国比例区より初当選。民主党、民進党、希望の党、無所属、立憲民主党・無所属フォーラムを経て、現在は立憲民主党所属。