第13回:平均年齢44歳の新内閣。分断を越え、政治をアップデートできるのか(岸本聡子)

史上最高のジェンダー平等を達成した新政府

 少し乱暴な比較になるが、日本の自民党とベルギーのN-VA(新フラームス同盟)は私にとって存在が似ている。
 どちらも同じくらい大っ嫌いなのだが、そのことを自分と社会観の近しい人とは激しく共感し合える一方で、自分のサークルを一歩出ると気軽には「嫌いだ」と話題にできないところも同じ。日本での自民党と同様に、ベルギーでは積極的であれ、消極的であれ、N-VAの支持者が多いからだ。とくにフランダース地方では顕著だ。

 N-VAも複雑な顔を持つ政党であるが、フランダース・ナショナリズムや分離主義(※)をアイデンティティとしており、特に2014年以降の勢いはすごい。ベルギー連邦政府、フランダース地方政府、ベルギー選出の欧州議会議員内のすべてで第一党である。経済面では自由市場主義で自由党と近く、文化面ではコンサバでキリスト教民主党と近く、地域ナショナリズムではより過激な極右政党「フラームスの利益党(VB)」と協調している。環境主義を装いながら原発は擁護。大企業減税を支持。移民政策は強硬的。
 ベルギーに引っ越す際、候補地からフランダース地方の都市アントワープを最初に除いたのは、N-VAの牙城だからだ。

※ベルギーはオランダ語圏である北方のフランダース地方、フランス語圏である南方のワロン地方、その真ん中に位置する特別区のブリュッセルから構成される。これらの地方は対立の歴史をもち、現在は経済的優位にあるフランダース地方が独立を目指す動きがある

 2018年12月、国連で152カ国が賛成して採決された移民保護の国際協定「安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパクト」にベルギー政府も賛成したことに反発して、N-VAは連立与党を離脱。首相は責任を取って辞任した。それ以来、ベルギーでは政治的な混乱が続く。昨年5月の選挙後は連立の交渉が実に約16カ月も続き、その間、正式な組閣ができずにいた。しかし、そんななかでも、コロナ危機に際して臨時政府が樹立され、ベルギー初の女性首相となったソフィー・ウィルメス氏が代理首相として舵取りをして踏ん張った。

 連立交渉が長引いた理由の一つは、N-VAが「ベルギーが一つの国としてまとまるのは無理」というイメージを国民に与えようとして、あの手この手の非協調的行動や威嚇するような発言を行い、政治の混乱を強調したからだ。しかし、結果的に、横暴なジャイアンであるN-VAは外されて、社会党、自由党、緑の党、キリスト教民主党など7党で連立の合意を果たしたのは痛快であった。やっと新しい政治の空気になった。

 ベルギーの内閣は、首相も入れて大臣クラスが20人。10月1日に発足した新内閣では、そのうち半分の10人が女性である。首相のアレキサンダー・デクロー(自由党)の44歳をはじめ、一番多いのは40代(12人)、次は30代(5人)、50代(2人)、60代(1人)という編成で、平均年齢44.05歳。右派マッチョのN-VAがいたらありえなかった編成で、また痛快。一番の若手は、イラク難民の父とベルギー人の母のもと、ブリュッセルで生まれ育った32歳のサミー・マハディ氏だ。国務長官で難民・移民担当である。

 ベテランのペトラ・デゥスッテル氏(緑の党)は欧州議会議員として活躍していたが、副首相兼大臣に任命され国政に戻ってきた。彼女は新設された公共サービスを統合的に扱う省の大臣となった。日本語に訳すなら「公務・公営企業省」となるだろうか。「社会保障・保健省」(日本でいう、かつての厚生省のようなもの)とは別にこのような省ができたのは、コロナ危機で公共サービスの重要性が認識されたからだろう。
 彼女は、これまでも科学者・医師として、医療倫理の専門性を持って難題に取り組んできた。政治的な手腕が名高いだけでなく、トランスジェンダーの政治家としても有名だ。私が働いているトランスナショナル研究所の集会にもスピーカーとして来てくれたことのある進歩派で、プログレッシブな人たちの間にファンは多い。

新内閣発足の様子(動画) Belgium.beより

多様性、ジェンダー平等、刑事司法制度、環境……

 さて、マガジン9の読者は、ここまで読んで「それで、そんな連立はどんな政策プログラムに合意したの?」といらだちを隠しきれないに違いない。

 この連立は、33億ユーロ(約4100億円)の新しい予算を重点政策分野へ充てることに合意している。最大の支出は年金改革で、自営業者も含めて最低年金を月額1580ユーロ(約19万5000円)に引き上げ、最低生活保障費も増額する(予算23億ユーロ)。また、コロナ危機下で重要性が見直された医療保健セクターの改善も目玉だ。医療保健セクターでの賃金上昇と、4500人の新しい雇用を目指す。

 ほかにも、公衆衛生予算をインフレ率にプラスして年2.5%増加させ、個人の医療費負担の低減も図ること(予算12億ユーロ)、気候変動政策(予算10億ユーロ)、行政(サービス)のデジタル化、鉄道への投資、さらに刑事司法制度の改善のための投資(予算90万ユーロ)もあり、裁判所、刑務所の施設改善のほか、刑事手続きの透明化、犯罪予防を重視した地域の治安維持のための1600人の新しい警官の採用などに充てられる。

 環境分野では「ペットボトルと缶のデポジット制の検討に入る」のが目玉だろうか。デポジット制とは、ペットボトルや缶の商品購入時に預り金を払い、使用後に返却すれば返金される仕組みだ。壮大な気候変動の危機を目の前に「へなちょこ」な政策に聞こえるが、これだけ使い捨て文化が浸透している社会で、デポジット制の導入は比較的「ラディカル」と言わなくてはいけない。2019年にEUは「一部のプラスチック製品を禁止する」EU指令を通過させた。これは、EU加盟国に2025年までにペットボトルの原料に25%のリサイクルペットを使うことを義務付けるものだ。デポジットとなれば、比較的きれいなままで90%のペットボトルを回収できるというノルウェーやリトアニアでの経験があり、ベルギーもそれに続こうというわけだ。

 さらに、賃金格差の是正によるジェンダー平等の実現、男性と女性の育児休暇の平等化、公的セクターの上級職に女性や多様な人々を採用すること、専門家による刑法の再評価をし「フェミサイド」(女性または少女を標的するなど、性別を理由にした男性による殺人)に対する処罰の法制化などを検討する。これ以外にも、16歳からの欧州議会投票権の付与、内部告発者の保護の法制化なども政策プログラムに含まれている。ただし、これらがどのくらい具体的に進められるのかは、報道記事だけでは判断できない。

 そして税。これがとりわけ重要なのは、ベルギーはヨーロッパで2番目の税金回避国(タックスヘイブン)であり続けており、税金回避をしたい多国籍企業を引き付けているからだ。ベルギーを本拠地とする企業群は、2016年だけで合計2210億ユーロ(約27.6兆円)の利益をケイマン諸島などのタックスヘイブンに移動させている。ベルギー政府としては年間304億ユーロ(約3.8兆円)の税収を取り損ねていることになる。つまり、今回新規計上した予算の10倍もの税収を自ら進んで失っているのだ。そのタックスヘイブン国であるベルギーが「多国籍企業は最低限の法人税を払わなくてはいけない」と政策プログラムの中で示した意味はそれなりにある。

 そしてグーグル、アマゾン、アリババ、フェイスブックといった税金逃れのデジタルジャイアントに課税するデジタル税も政策に盛り込んだ。いまベルギーでは、才能あふれるベルギー人サッカー選手(億万長者が多数)は、なんとプロスポーツ選手の免税措置があるために900ユーロ(約10万円)しか社会保障費を負担してないのだが、これも改革の対象になっている。

政治はアップデートされるのか

 こうした政策プログラムに対して、ベルギー人は「年金保障も税制改革も『絵にかいた餅』だ」と、保守も革新もシニカル(皮肉屋)である。ベルギーは連邦政府、地方政府(フランダース、ワロン、ブリュッセル)にそれぞれの行政機構があるような複雑な国柄で、既得権益化も激しい。ベルギー人は「政治で何か実現できることなんてない」と自嘲的に笑う。でも私は言う。平均年齢60歳以上の「OJICHAN内閣」で、気候危機対策もジェンダーも多様性もアップデートできないような国から見れば、ベルギーにはずっと希望がある。シニカルにならずに新しい変化の一部になろうよと。

 もちろん私だって、政策を実現させることは難しいことはわかっているし、政治が妥協や取引の産物で、有権者への約束を簡単にないがしろにすることも知っている。しかし、「多国籍企業の脱税を取り締まる」とか「デジタル課税をやる」とそもそも言わなければ、始まる確率はゼロなのだ。政治家や政党にまずは「言わせること」が大切だと思う。言わせたら、少なくとも追及、追跡できるから。

 今回の連立の政策プログラムで一番もめたのは、1990年に施行されたベルギー中絶法のアップデートについてだった。女性のリプロダクティブ・ヘルスの自己決定権の強化を求める人々は、長年、女性が中絶を選択できるルールを緩めることや中絶の非処罰化を求めてきた。具体的には、現行法では12週以降認められていない中絶を6週間延ばして18週間とすることなどがある。
 この法改正は昨年も議会で議論され、気運は高まっていたのだが、このことがキリスト教民主党との連立を危うくした。結果的には連立政党間で合意に至らず、議会公正委員会と多学問領域にわたる科学者パネルの検討が済むまで議会での投票はしないと折り合いをつけた。

分断を越え、議会制民主主義を底上げする「対話の場」

 国ごとにさまざまな事情はあるが、議会制民主主義が機能不全を起こしているのは世界中で共通していることだ。ベルギーで注目されている革新シンクタンクのミネルバは「有権者の80%は富裕税を支持し、85%の人が気候変動を止めるために緊急措置が必要だと信じている。年金支給年齢を67歳に引き上げることには10%以下の有権者しか賛成していない。でも、このような大衆の意思は政治に届かない」と指摘している。
 ミネルバは「左派は自分たちの『いつものグループ』の中だけにいて、孤立していたり政治的な支持先を失ってしまったりした人たちと対話をしようともしていないし、そのための場所もつくっていない」と手厳しい。その通りだ。

 選挙やデモだけでなく日常的に社会や政治について対話する場がかつてはあった、と60代のベルギー人の友人は言う。かつて彼は親に連れられて日曜日礼拝に行っていたそうだ。教会の傍らにはどこでもカフェがあり、礼拝の後にはコーヒーやビールを飲みながら、地域の人たちが地域のことを話し合う場所があった。居場所があった。
 その後、伝統的なキリスト教的価値への対抗勢力として社会党(ソーシャリスト)が勢力を伸ばしたが、ソーシャリストもキリスト教的なコミュニティ構築に倣って、ソーシャリストバーやカフェを各地に作ったそうだ。レッド・スターとかレッド・ライオンといったバーは、利益を含まない民主的価格でビールを1ユーロ(通常2ユーロ)で提供した。人々は夜な夜なソーシャリズムを語った。
 今日、日曜日に教会に行く人も極端に少なくなり、ソーシャリストバーもほとんどなくなってしまったという。

 個人主義、分断、孤独が当たり前となった社会で、ミネルバの社会的・政治的インフラとして地域の拠点を作ろうという提案は新鮮だ。進歩的左派の政党(ベルギー・フランダースでは緑の党Groen、社会党SP.A、ベルギー労働者党 PVDA)と労働組合や社会団体がいっしょになって、各地域にポリティカル・コミュニティセンターを作ってはどうかと提案する。政党は公的資金を受けているからお金はある。一つの政党にこだわらない住民に開かれた「対話の場」を作ることができる。
 そうした場は、討論会、レクチャー、トレーニング、映画上映会、文化的活動などの拠点もしくは居場所になる。場合によっては、地域の保健所や非営利のデイケア、協同組合の有機栽培マーケットと共同してもいい。私たちにはツイッターで不満をぶつける代わりに、対話する地域の場が必要ではないか。

 縦横の繊維がつながって織物となるような社会的なインフラを全国津々浦々に作り、議会制民主主義を底上げする大衆のカウンターパワーを作り出す、というミネルバのビジョンに私は興奮した。これは、ベルギーでだけではなく、国境を超えた戦略になる。地域のポリティカルな拠点は、政党、人種、国籍、教育レベルで私たちを分断するのではなく、私たち「99%の普通の労働者」をつなぐ。そして議会制民主主義を包囲する大衆のカウンタパワーが政治をアップデートしていくビジョンを、日本でも野党共闘の文脈で考えられないだろうか。

       

岸本聡子
きしもと・さとこ:環境NGO A SEED JAPANを経て、2003年よりオランダ、アムステルダムを拠点とする「トランスナショナル研究所」(TNI)に所属。経済的公正プログラム、オルタナティブ公共政策プロジェクトの研究員。水(道)の商品化、私営化に対抗し、公営水道サービスの改革と民主化のための政策研究、キャンペーン、支援活動をする。近年は公共サービスの再公営化の調査、アドボカシー活動に力を入れる。著書に『水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと 』(集英社新書)