『はじめてのおもてなし』(2016年ドイツ/ サイモン・バーホーベン監督)

 ナイジェリアの内戦を逃れて、ドイツの難民収容施設に入った青年ディアロを、ミュンヘンに邸宅を構えるハートマン家が受け入れる。それを決めたのは元教師で、生きがいをなくしつつあったアンゲリカだ。ある日の夕食の場で、彼女は困っている人を助けたい、難民を自宅に住まわせると宣言。夫のリヒャルトと息子フィリップは反対、娘のゾフィは賛成。アンゲリカは男たちを説き伏せた。
 医者であるリヒャルトは自らの老いによる衰えを認めようとせず、病院では周囲に権威を振りかざしていた。企業法務弁護士のフィリップはかなりのワーカホリックで、妻とは別居中。自分が一人息子バスティを引き取っているものの、彼への関心は低い。ゾフィは大学でいろいろな分野の勉強に取り組むものの、どれも長続きせず、万年学生状態である。訳ありだらけの家族のなかにディアロが入っていくことで、バラバラだったお互いが思わぬところで近づいていくのである。
 一方で問題も絶えない。難民の存在がまちの治安を悪くすると、ネオナチらが松明をもってハルトマン家の前に並び、情報機関はディアロをイスラム原理主義者として密かにマーク。はずみで大騒動が起きる。
 そのため難民申請中のディアロは認定が難しくなり、強制帰国を余儀なくされそうになるのだが、そこでハルトマン家の勇気が彼を救うのだ。
 ちょっとできすぎのストーリーだとは思う。現実はもっと複雑である。にもかかわらず、ドイツでこの作品が大ヒットしたのは、難民の受け入れはドイツ国民のためでもあるという映画の発するメッセージを観客が支持したからだろう。
 冒頭で夫のリヒャルトが「メルケルが難民を受け入れるからだ」と苦々しく語るくだりがある。字幕では「メルケル」が「連邦政府」に直されていた。日本の観客にはわかりづらいからだが、この作品が完成する前年、メルケル首相はシリア内戦による難民ら100万人を受け入れると決断していた。国内では賛否両論が巻き起こったが、メルケルは欧州の良心の象徴となった。
 その彼女も16年間におよぶ首相のポストを降りる。政界を引退するという。米国の調査会社「ユーラシア・グループ」が発表した「2021年 世界にとってのリスク」では、1位に「アメリカの次期大統領」、9位に「メルケルのいない欧州」が挙げられた。

(芳地隆之)


『はじめてのおもてなし』
(2016年ドイツ/サイモン・バーホーベン監督)

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