第152回:なんでボクだけ叱られる?(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

1. コロナ勝負に完敗

 「なんでボクだけこんなに怒られるんだろう、一生懸命にやってんのになあ……」というのが菅義偉首相の本音なのではないだろうか。1月27日の参院予算委員会で、蓮舫議員に「そんな答弁だから言葉が国民に伝わらないんですよ」と突っ込まれて、思わず「それは少々失礼じゃないでしょうか」と気色ばんでしまった。
 「ボクちゃん、こんなに懸命にやってんのに、なんでそんなことを言うんだ」という本音が漏れたのだろう。なんだか『千と千尋の神隠し』の中の「遊んでくんなきゃ、坊、泣いちゃうぞー!」という巨大赤ん坊を思い出した(失礼!)。
 でもねえ、そう思っているとしたらやはり首相失格です。批判されるまでもなく、“コロナ勝負”には完全に負けている。第一、きちんと正面から向き合って闘おうという気構えがないのだから、勝負になんかなりっこない。議論して煮詰めた政策がないのだから、言葉で訴えようがない。ここは蓮舫氏の言うとおりである。

 菅内閣の支持率がガタ落ちである。
 日本の感染者数も死者数も、欧米各国やインド、ブラジル、南アフリカなどと比べれば、そんなにすごい数ではない。とくに、アメリカ、イギリス、フランスなど先進国と呼ばれる国々の惨状は、とても日本の比ではない。それなのに、なぜ菅首相の人気がこうも劇的に下落しているのか。

2. アベノイサン

 下落の最大の理由は、アベノイサン(安倍の遺産)だと思う。
 安倍晋三氏が「ウソつき」であることは、すでに定着した。日本憲政史上、これほどストレートに「ウソつき」と言われた宰相も珍しい。いや、珍しいどころではなく空前絶後だ。日本に限らず、世界を見渡したって、独裁者や腐敗したリーダーは数限りないけれど、「ウソつき」が別名になってしまった首相なんて聞いたことがない。
 その安倍氏が残した“汚物”が、ここにきて発酵し始めたのだ。辞任したとはいえ、さすがに汚れ切った“アベノイサン”には、支持者たちも辟易し始めていた。そこへ“叩き上げの実務者”であり“鉄壁のガースー”と囃された人物が登場したのだから、桜疑惑やお友だち優遇を脱して、少しはまともな政治が期待されたのに、これほど不様な人だったとは……とがっかりした。これが菅人気急落の最大の理由だろう。

3. 語らぬ拒否理由

 むろん、菅氏本人の冷酷な本性が、首相就任後すぐに現れたことも支持率凋落の大きな原因だ。その最初が「日本学術会議の6名の任命拒否」だった。「任命権は首相にある」と言うのであれば、なぜ拒否したかの理由を明らかにするのは為政者の義務だろう。それなくして「任命拒否」を続ければ首相の好き勝手人事ということになる。
 ところが菅氏は6人の拒否理由どころか、拒否した学者たちの名前も知らなかったと言って逃げた。名前も知らずに拒否した? そんなバカなことが通用するなら首相失格だ。当然ながら、それは“ウソ”だ。6人は政府に批判的な意見を言ったから拒否したのだ。なんのことはない、菅氏もアベノウソと同じウソつきであることがバレてしまったのだ。
 なんだ、この人も安倍氏と同じか……という失望感。

4. 「鉄壁」は「ブリキの塀」だった

 菅氏は官房長官時代「鉄壁のガースー」と呼ばれていた。実際、会見では記者たちの質問を鼻であしらうように退け続けた。その用語集。
 「まったく問題はありません」
 「その指摘は当たりません」
 「それは担当部局に訊いてください」
 「仮定のことには答えられません」
 「あなたに答える必要はありません」
 「ここはあなたと討論する場ではありません」
 天敵と呼ばれた東京新聞の望月衣塑子記者に投げつけたのが、有名になった「あなたに答える必要はありません」であった。そして、望月記者が質問を始めると、内閣広報官と称する官僚が「質問は簡潔にお願いしま~す」を執拗に繰り返して望月記者の質問を妨害し始めたのだ。
 さらにコロナが蔓延し始めると、各社記者を1名に限定、ついには望月記者を会見の場から締め出してしまった。実は、これが菅氏の“鉄壁”の中身だったのである。
 中身のあることは何も答えない。つまり菅答弁は“鉄の壁”などではなくペラペラの“ブリキの塀”でしかなかった。それが、国会答弁の場では隠しようもなかった、というわけだ。“叩き上げ”どころか、実は“叩かれ弱い”人間だったのだ。

5. ゴテゴテ首相

 この叩かれ弱い部分が、後から後から露わになってくる。
 「国民のみなさまに自粛をお願いする」として「GoToトラベルの停止」を発表した12月14日の夜、菅氏は二階俊博自民党幹事長らとともに、8人でステーキ会食をしていたことが発覚した。これには国民の猛反発。そりゃそうだ。自粛をお願いし、4人以上での会食は慎むようにと訴えながら、自分たちはマスクもせずにステーキかよ!
 西村康稔コロナ対策担当相は、「4人以上が絶対ダメと言ったことはございません。とりあえずの目安として申し上げたのであって……」と汗だくで首相擁護に回ったが、言えば言うほど反発を招くだけ。アホらしくて聞いちゃいられない。
 ついに菅首相は謝罪に追い込まれた。そして、ホテルオークラやザ・キャピトルホテル東急などのレストランでの連日連夜の会食を、ついに封印せざるを得なくなった。首相就任以来約3カ月間で149回もの会食をしていたことを、TBS系テレビ「ひるおび!」(12月17日)が報じていたのだから、常軌を逸している。これで人気が上がるわけがない。この辺りから、支持率はガラガラと音を立てて崩れ出した。「メシを食わなきゃ政策が立てられないのか」と大炎上したのだ。
 それでも、コロナにきちんと対応した政策を立てていけば、支持率も上向こうというものだが、これがもう訳が分からない。対策は後手後手で中途半端、しかも小出しときている。とても「一生懸命にやってんだけどなあ」などと言えた代物じゃない。
 「GoToトラベル」を巡るゴタゴタは周知のとおりだし、感染症法改正案や特別措置法での罰則規定を結局は取りやめるなど、何がやりたいのかさっぱり分からない。「専門家の意見を聞いて」と繰り返すのだが、分科会や医師会の意見は政府案に批判的。多分、自分でもどうしていいのか分からなくなっているのだろう。
 一部では「ゴテゴテ首相」などと呼ばれ出した。情けない。

6. ブロック太郎、参戦

 さらにその混乱に拍車をかけているのが、やたらと船頭を多くする行き当たりばったり。感染症対策は普通に考えれば厚労省の管轄。つまり田村憲久厚労相がリーダーシップをとるべきなのに、なぜか西村康稔経済再生相をコロナ対策担当相にしてしまった。コロナ対策を厳しくすれば経済活動への影響が出てくる。したがって「命よりも経済」の意図が西村コロナ担当相の任命となったのだ。うまく行くはずがない。
 その裏には、観光業界とベッタリの二階俊博幹事長の意向も反映していた。「GoToトラベル」に最後までこだわった理由だ。しかも、ここまで追いつめられても、補正予算にはいまだに1兆円超のGoTo予算が組み込まれたままだ。
 そこへ今度は、河野太郎ワクチン担当という珍妙な大臣の登場である。ブロック太郎の異名を持つ河野氏が目立ちたがり屋だというのは周知の事実。
 つまり、西村コロナ担当相、田村厚労相、加藤勝信官房長官、さらにそこへ河野ワクチン担当相が加わったのだから指揮系統はグチャグチャ。誰が対策のリーダーなのか分からない。船はどんどん山へ登っていく。
 自分に確たる信念もなければ言葉もない菅首相だから、こんな不様な内閣になる。まるで、政策の柱が見えてこない。あっちへフラフラこっちへフラフラ、下手なダンスは見ちゃいられない。

7. アベ118、スガ113

 首相の言葉の貧弱さが完璧に露呈、支持率の足を自分で引っ張っている。
 典型的失敗は「こんにちは、ガースーです」だ。これは12月11日に行われたニコニコ生放送での冒頭の菅首相の挨拶。安倍氏が自らのホームグラウンドとして多用した場だが、その真似をして若者たちの人気取りに走っての大コケ。
 コロナ禍で萎んでいる気分に、さらに水をぶっかけるような薄笑いの「ガースーです」がどんな反応を得るのか、本人も側近らも分からなかったとすれば、馬鹿者集団である。
 その上、それに輪をかけたのが、ペーパー読みの記者会見。
 もっともアレは記者会見などと呼べた代物じゃない。なにしろ、これまでたった3回。各国のリーダーたちが連日会見を開いて記者の質問に何時間でも答えている様子を見ると、日本の「記者会見」なるものの異常さがよく分かる。
 菅首相は会見を開いても、時間はいつも1時間足らず。しかも質問はひとり1問で、再質問は許さない。さらに、質問内容はほとんどが事前通告済み。だから首相は、官僚作成のペーパーを顔も上げずに読み上げるだけ。質問なんかまともに聞いていないから、答えがずれることもしばしば。それを記者側が質そうと思っても、山田真貴子とかいう広報官が「質問はおひとり1問にしてくださ~い」と邪魔するのだから、結局、首相の言い放しで終わってしまうことになる。
 しかも1時間も経たずに「この後の予定がございますので、これで終了いたします。もし他に質問がございましたら、文書で提出していただければ、後で官邸から文書回答いたします」と山田サンがのたまわって、おしまい。
 翌日の新聞の「首相動静欄」で調べても、緊急のスケジュールなど入っていない。それこそ不要不急のものばかり。端っからやる気がないんだな、この人。
 しかし、さすがに国会の予算委員会ではそうはいかない。広報官の「ひとり1問で」なんて通用するはずもない。そこで多用したのが「お答えは差し控えさせていただきます」とのはぐらかし戦術。さらに「仮定の質問にはお答えしかねます」の逃げ口上。当たり前だが、これが極めて評判が悪い。
 1月25日の予算委で立憲民主党の江田憲司議員が頭に来たのか「“差し控える”を昨年だけで113回も使っていますよ」と指摘。「これじゃまともな審議ができないじゃないですか」と詰め寄った。
 アベの118回のウソに匹敵する菅の113回のはぐらかし。さすがにテレビのワイドショーも取り上げた。これでガースー氏も「差し控える」を封印。その後は「真摯に答えさせていただく」に変更したらしい。
 だが真摯な答弁は、ペーパーの文言の読み違えは勘定に入れないらしい。

8. 足を引っ張る自民党

 その上、菅首相を追いつめるのは身内の自民党。
 安倍政権時から腐臭が漂う自民党だが、カジノ汚職で現職の秋元司議員逮捕、選挙違反での河井克行・案里夫妻のダブル逮捕、更には卵疑惑で吉川貴盛元農水相の在宅起訴、さらに農水族のボス西川公也内閣官房参与にも飛び火。もやもやと汚いカネの臭いが菅政権をも包み込んだままだ。
 これじゃ支持率が上がるわけがない。
 ニュースを見ているとこの国の政治がほとほとイヤになる。それなのに、またも小汚いニュースが飛び込んできた。
 自民党の松本純、大塚高司、田野瀬太道の3議員がそろって、このコロナ禍にもかかわらず銀座でクラブ遊びをしていたというのだ。しかも、松本氏は「ひとりで行った」とウソまでついていたのだから、もはやバカにつける薬はない。その処分はどうするのかと思ったら、自民党離党で手打ちらしい。
 同じようなことをした公明党の遠山清彦議員は議員辞職だという。まあ、今年中にはあるはずの総選挙で復活、という目論見かもしれないが、せめて自民党も議員辞職を迫るくらいの自浄能力が欲しいものだ。

9. 東京五輪開催にすがる愚

 こんな落ち目の菅内閣が最終兵器として期待するのが、言わずと知れた「東京オリンピック」だ。しかし、どんな世論調査を見ても、中止+再延期が80%ほどだ。もはや日本国民の大多数が、オリンピックなんかやってる場合じゃないと感じているのだ。
 しかし、菅首相は相変わらず「コロナに打ち勝った証としてのオリンピック」などと世迷い言を吐き出すばかり。それを二階のお化けが後押しして「中止する理由を言ってみろ」などと恫喝まがいだし、森喜朗元首相や小池百合子都知事もそれに賛同。そんな戯言は「コロナに打ち勝ってから言えよ」である。
 先週のこのコラムでぼくは「東京五輪ができない7つの理由」を挙げておいたから、読んでみたまえ、ガースーさんよ。
 最近、実は8つ目の理由が取り沙汰され始めた。「アメリカの不参加」である。スポーツの世界最強国が不参加となれば、オリンピックなど成立するわけもない。しかも、米テレビ局が放映権を握る中で、不参加となればその契約金も吹っ飛ぶことになる。バッハIOC会長が必死になる理由がそこだ。
 かわいそうだが、自民党・菅政権の命運は尽きたと言っていいだろう。
 その証拠に、最近の地方選挙での自民党の退潮が著しい。沖縄宮古島市長選、山形県知事選、東京千代田区区長選、鹿児島西之表市長選、福岡北九州市議選……。どれをとっても、自民系候補が苦杯を喫しているのだ。

 地方から「自民党よ、いい加減にしろ!」の声が高まり始めた。
 そして、この秋までには「衆議院総選挙」が、確実にある。

       

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。