第164回:第二の“河井案里” を絶対つくらない。歳費等不支給の制度化を急げ(南部義典)

控訴期限の前日、やっと辞職してくれた

 「この度、一身上の都合により、議員を辞職致したいので、御許可くださるようお願い申し上げます」

 2月3日午後6時すぎ、参議院本会議の冒頭、河井案里議員(公職選挙法違反事件の刑事被告人)の辞職願が朗読されました。議員が辞職するには所属する議院の許可が必要であるところ(国会法107条)、議場内で野次が激しく飛び交う中、全会一致で辞職が許可されました。新型インフルエンザ等特措法改正案の審議が行われる関係で、当日の本会議中継は通常よりアクセスが多かったはずですが、冒頭の辞職の件で「何が一身上の都合だ」と憤慨した方も大勢いらっしゃったことでしょう。

 タイミングとしては、東京地裁が1月21日に「懲役1年4カ月、執行猶予5年」の有罪判決を言い渡し、その控訴期限が翌日(2月4日)に迫っていたところでした。公判で争うことなく、やっと辞める決断をしてくれたわけです。いずれにしても、買収に関わった元秘書の裁判で、連座制の適用が早晩確定するところだったので、議員の失職は時間の問題だったわけです。しかし、辞職許可を以て「一件落着」というわけではありません。

 今回、多数人に及ぶ買収行為で選挙の公正さを害し、政治への信頼を失わせたという問題はもちろんですが、逮捕されても、起訴されても、公判が始まって勾留が続く中でも、保釈された後に議員活動を一切行っていない状況でも、一般の議員と同額の歳費等が支払われ続けたことが、コロナ禍の生活苦に喘ぐ市民の感情を逆なでした事実を決して看過することはできません。

不支給の定めがない現行制度

 憲法49条は「両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける」と定めています(歳費受給権)。その「法律」とは、国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律(歳費法)です。歳費法に基づき、毎月の歳費のほか、年2回(6月、12月)の期末手当、文書通信交通滞在費が支給されます。さらに、国会における各会派に対する立法事務費の交付に関する法律(立法事務費交付法)に基づき、毎月、立法事務費が交付されます。立法事務費は「会派」に対して交付されるもので、本来、議員個人を対象とするものではないのですが、各派に属さない議員(無所属議員)であっても、この法律では「みなし会派」(政治資金規正法上の政治団体の届出があれば、「会派」とみなされる)という扱いになるのです。

議員に支給される歳費等の一覧

○歳費 月103万5200円(歳費法1条、2020年特例法による2割削減)
○期末手当 6月、12月(歳費法11条の2)
○文書通信交通滞在費 月100万円(国会法38条、歳費法9条)
○立法事務費 月65万円(立法事務費交付法3条)*対会派

 以上の法律を根拠に、議員はその地位にあることを当然の理由として、毎月約270万円の収入が確実に得られます(期末手当を除く)。一方、支給しない場合の具体的な定めはありません。河井氏がいみじくも立証したように、議員とは、何も仕事をしなくても、宿舎で寝ているだけでも、刑事被告人の立場で公判に臨むだけの日常を過ごしていても、これほど多額の手取りが確実な職業なのです。

 議員が死亡したり、辞職したり、議員でなくなれば歳費等の支給は無くなりますが、身柄が拘束されて明らかに議員活動を続けることができない状況でも、辞職せず、その地位に止まる(歳費等を受給する)ということは本来、憲法、法律の想定するところではないでしょう。ある意味、議員たる者は、犯罪等不正に与することはなく、その地位が疑われるような事態は生じえないという、性善説的発想に立っているともいえます。この点が、河井氏の「厚遇」に憤る素朴な市民感情とのズレの原因となっています。

 憲法に定められた議員の歳費受給権が絶対的なものであるかといえば、そうではありません。その額等はあくまで、立法裁量の範囲内にあります。身柄が拘束された場合など、客観的に議員活動が不可能となったときの歳費等のあり方について、党派を超えて一定の成案を得るべき時期に来ているのではないでしょうか。本題は「第二の”河井案里”をつくらない」としましたが、同氏が議員に当選する以前から、辞職すべき議員が不当な歳費受給を続ける同様の問題は何度も起きており、いい加減ピリオドを打つべき時です。今後も、同様の問題は起こり得るだけでなく、現行制度を放置したまま(立法不作為)にして、その都度、市民感情が逆なでされるというのは、この社会にとっての不幸以外何物でもありません。

参考になる、久留米市条例(福岡県)の規定

 憲法上、国会議員と地方公共団体の議員とは、その身分等に関して違いがあり、単純に並べて比較することはできませんが、歳費受給の制限に関して参考となる条例があります。「久留米市議会議員の議員報酬、費用弁償及び期末手当に関する条例」です(文末に条文を掲載)。同市でかつて、逮捕された議員の報酬のあり方が問題視され、規定の整備に結実しています(2013年6月条例改正)。

 条例5条1項は、議員の逮捕等の期間において、報酬の支給を停止する旨を定めています。すでに支給された場合でも、翌月末までに返納しなければなりません。また、逮捕等がなされた場合でも、公訴提起を受けなかったり、無罪判決が確定したりしたときには、支給が停止していた期間の分の報酬が支給されます(同条2項)。

 公訴提起された議員につき、判決が確定するまでの間、本会議、委員会を欠席した場合には、その欠席した月の報酬の支給は停止されます(6条1項1号)。無罪判決が確定したときには、支給が停止していた期間の分の報酬が支給されます(同条3項)。また、懲役、禁固等、議員が刑の執行として刑事施設に収容されたときは、その収容された期間は、報酬の支給が停止されます(8条)。

 期末手当に関しては、6月1日、12月1日の基準日直前の半年間で、報酬の支給が停止された期間があるときは、その期間の分、期末手当は支給されません(11条1項2項)。刑事施設に収容された期間についても、同様です(同条3項)。

 いかがでしょうか。制度設計の基本は、そのまま国会議員にも適用できると考えます。河井氏に当てはめれば(夫の克行氏も大差ありませんが)、逮捕された2020年6月以後の歳費(7カ月分)及び期末手当の計約1,353万円、文書通信交通滞在費(7カ月分)700万円、立法事務費(7カ月分)455万円、総計約2,500万円の支給を停止できたことになります。これを、税金の無駄と言わずに、何と形容できるでしょうか。

立法の第一義的責任は、参議院自民党にある

 歳費法、立法事務費交付法の改正は、議員立法になります。河井案里という政治的魔物を封じることができず、暴れ放題にし、「政治家の出処進退は、自らが決すべきもの」と惚けたことを言い続け、参議院政治倫理審査会の場で弁明させる機会さえ作らなかった参議院自民党にこそ、立法の第一義的責任を負わせるべきでしょう。

 参議院広島選挙区の再選挙は4月25日ですが、当日に合わせて、衆議院の解散・総選挙が行われるという観測もあります。そう考えると、残りの会期は長いようで短いといえます。先週あたりからワクチンのデリバリー、森元総理の女性蔑視発言が衆目を集めており、河井夫妻事件に対する注目が再び薄れてしまうことを恐れます。本事件を、広島県政界の黒歴史で終わらせるわけにはいきません。

・東京新聞「1300万円超が河井案里氏に 昨年逮捕以降の“給料&ボーナス”として 国会欠席していたのに…」(2021年2月3日16時24分配信)

久留米市議会議員の議員報酬、費用弁償及び期末手当に関する条例

昭和31年9月1日 久留米市条例第33号
平成29年3月29日最終改正(同年4月1日施行)

(趣旨)
第1条 久留米市議会議員(以下「議員」という。)の議員報酬、費用弁償及び期末手当の支給に関しては、この条例に定めるところによる。
(議員報酬)
第2条 議員の議員報酬は、次の区分により支給する。
 ①議 長 月額683,000円
 ②副議長 月額616,000円
 ③議 員 月額582,000円
(議員報酬の支給の始期及び終期)
第3条 前条の議員報酬は、当該職に就任した日から支給し、離職した場合はその日まで支給する。
(議員報酬の日割計算)
第4条 前条の規定により議員報酬を支給する場合であって、月の初日から支給するとき以外のとき又は月の末日まで支給するとき以外のときは、その議員報酬額は、その月の現日数を基礎として日割によって計算する。
(逮捕等の期間における議員報酬の支給の停止)
第5条 議員が刑事事件(有罪の判決が確定したときは議員としての職を失う可能性があるものに限る。以下同じ。)の被疑者又は被告人として逮捕され、勾留され、その他身体を拘束する処分を受けたときは、当該処分を受けた日から解かれた日までの期間(以下「逮捕等の期間」という。)の議員報酬の支給を停止する。この場合において、既に支給された議員報酬があるときは、当該支給を受けた議員は、翌月末日までにこれを返納しなければならない。
2 前項の規定により議員報酬の支給を停止された議員が、当該停止に係る刑事事件について、次の各号のいずれかに該当することとなったときは、当該停止していた期間の議員報酬を支給する。そのとき議員の職を退いている者についても、同様とする。
 ①公訴を提起されなかったとき。
 ②無罪の判決が確定したとき。
(公訴中の期間における議員報酬の支給の停止)
第6条 議員が刑事事件の被告人として起訴された場合において、当該起訴された日からその判決が確定する日までの期間(逮捕等の期間を除く。以下「公訴中の期間」という。)に招集された定例会又は臨時会の会議(以下、単に「会議」という。)及び委員会(常任委員会、議会運営委員会及び特別委員会で当該議員が所属するものをいう。以下同じ。)に欠席(公務上の災害、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第104号)第6条第1項の感染症及び裁判所への出廷を理由とする欠席を除く。以下同じ。)したときは、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める議員報酬の支給を停止する。この場合において、既に支給された議員報酬があるときは、当該支給を受けた議員は、翌月末日までにこれを返納しなければならない。
 ①次に掲げるいずれかの会議等を欠席した場合 欠席した日の属する月の議員報酬
  ア 定例会又は臨時会の会期の初日に開催される会議
  イ 定例会又は臨時会の会期の末日に開催される会議
  ウ 委員会
 ② 1月(その月に公訴中の期間以外の期間を含むときは公訴中の期間に限り、前号の規定により議員報酬の支給を停止された月を除く。)につき、会議及び委員会の総日数に対して、その2分の1を超える日数の会議又は委員会を欠席した場合 当該月の議員報酬
2 前項の規定により議員報酬の支給を停止する月が起訴された日又は判決が確定する日の属する月であって、当該起訴された日が月の初日でないとき、又は判決が確定する日が月の末日でないときは、それらの月に係る議員報酬の支給の停止は、公訴中の期間に限る。
3 第1項及び前項の規定により議員報酬の支給を停止された議員が、当該停止に係る刑事事件について、無罪の判決を言い渡され、その判決が確定したときは、当該停止していた期間の議員報酬を支給する。そのとき議員の職を退いている者についても、同様とする。
(議員報酬の不支給)
第7条 第5条第1項及び前条第1項の規定による議員報酬の支給の停止に係る刑事事件に関し起訴された議員が、有罪の判決を言い渡され、その判決が確定したときは、当該停止されていたそれぞれの議員報酬は、これを支給しない。
(刑の執行により拘留される場合の議員報酬)
第8条 議員が刑事事件に関する刑の執行として刑事施設に収容されたときは、当該刑事施設に収容された期間は、議員報酬を支給しない。
(費用弁償)
第9条 議員が公務のため旅行したときは、市長の旅費に相当する額を費用弁償として支給する。
(期末手当)
第10条 議員で6月1日及び12月1日(以下「基準日」という。)に在職する者には、それぞれの期間につき期末手当を支給する。
2 期末手当の額は、議員報酬月額及び当該議員報酬月額に100分の45を超えない範囲内で市長が別に定める割合を乗じて得た額の合計額に、久留米市市長及び副市長給与条例(昭和31年久留米市条例第32号)の規定により期末手当を受ける者の例により一定の割合を乗じて得た額とする。
(期末手当の支給の停止等)
第11条 基準日以前6か月以内の期間において、第5条第1項又は第6条第1項の規定により議員報酬の支給を停止された期間がある場合は、基準日以前6か月以内の期間に係る期末手当のうち、議員報酬の支給を停止された期間に係る期末手当(前条の規定により支給される期末手当の額のうち、第5条第1項又は第6条第1項の規定により支給を停止された期間の日数に応じて、基準日以前6か月以内の期間における当該者の在職期間の現日数を基礎として、日割によって計算した額をいう。)の支給を停止する。
2 第5条第2項、第6条第3項及び第7条の規定は、前項の場合に準用する。
3 基準日以前6か月以内の期間において、第8条の規定により議員報酬が支給されない期間がある場合は、基準日以前6か月以内の期間に係る期末手当のうち、議員報酬が支給されない期間に係る期末手当(前条の規定により支給される期末手当の額のうち、第8条の規定により議員報酬が支給されない期間の日数に応じて、基準日以前6か月以内の期間における当該者の在職期間の現日数を基礎として、日割によって計算した額をいう。)は、支給しない。
(支給方法)
第12条 この条例に定めるもののほか、議員報酬、費用弁償及び期末手当の支給方法については、市職員の例による。
(委任)
第13条 この条例の施行について必要な事項は、市長が別に定める。
附 則 (略)

       

南部義典
なんぶよしのり:1971年岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)等を歴任。現在、国民投票総研 代表。専門は国民投票法制、国会法制、立法過程。主な著書に『図解 超早わかり18歳成人と法律』『図解 超早わかり国民投票法入門』(以上、C&R研究所)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)、『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナー No.255)』(共著、日本評論社)、『広告が憲法を殺す日』(共著、集英社新書)、『18歳成人社会ハンドブック』(共著、明石書店)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会)などがある。(2020年6月現在)