第133回:高円寺「マヌケ宿泊所」ついに潰れる!!!(松本哉)

 クソの役にも立たない東京オリンピックが目前に迫ってきている。こんな金と利権の権化と化している醜いオリンピックなんか開催なんかしたらとんだ恥晒しもいいところだし、どうせなら未来永劫消え失せてほしいところだ。で、スポーツの試合に関しては、普通に健全な大会を全く別に立ち上げたらいい。もはやオリンピックは迷惑な存在以外の何者でもなくなってしまった。
 というわけで、前々回の連載で、不死鳥の如く見事に復活を遂げたアジア地下文化圏の拠点=我らがマヌケ宿泊所では、以前から東京オリンピック期間中(開会式から閉会式まで)は休業することを宣言していた。そして、去年に延期が決まり日程が今年に移ると、当然ボイコットの休業期間もずらし、今年のオリンピック期間中の怒りの意思表示の休業を宣言していた。

 ……と、ここまでは威勢がよかったが、なんと!!!! コロナ禍で国境が閉じた状態が続き、世界地下文化圏の窓口として海外からのお客さんがメインだったうちのゲストハウスとしては、お客さん皆無の状態になり、もはや万事休す。そして見事に倒産!!! 潰れました〜。弱い! 弱すぎる!!! ということで、宿敵オリンピックとの熾烈な戦いはおろか、オリンピック勢に気づかれる前に自ら勝手に滅亡! やられた〜。
 やいやい、命拾いしたなオリンピックの諸君。勝負はお預けだ、おまえら覚えてやがれ、いつか必ずぶちのめしてやる!! よし、野郎ども、ずらかるぞ!!! 逃げろ逃げろ!
 ということで、マヌケ宿泊所は惜しまれながら消滅。いや〜、せっかく改装工事して超快適になったのに、惜しかったな〜!! 振り返ってみると、開業準備期間も合わせると7年間の営業で、世界各地から延べ5000人以上が泊まりに来てくれた。いや〜、みんなよくこんな離れ小島(日本のこと)まで来てくれたな〜。いやはや、ありがたい話だ!

開業以来の宿泊者名簿。なんと5000人以上に上る

必殺! 店の潰し方

 さて! 潰れたものは潰れたので、いまさらあれこれ言ったところでしょうがない。それより興味深いのは潰れ方。そう、実は店を潰すのも店をやる醍醐味のひとつ。そして、どう潰すかによって次の展開も変わってくるので、ここはうまく潰していきたい。それに店の潰し方ってのもなかなか経験できるもんでもないので、これはいいチャンスだ。
 これから店を始めようっていう人が一番気になるのは「失敗したらどうしよう……」っていうことだろう。店とか自分の事業とかやったことなくて、躊躇してる人の中には、「事業に失敗したら人生棒に振るぐらいの借金を抱えて、首を吊って生命保険で返済するしかない!」ぐらいに勝手に勘違いしてる人も多いと思う。でも、実はそんなことはない。無謀な大勝負に出過ぎないかぎりは、そこまでヒドいことにはならない。失敗して潰れた時のイメージもできといた方が、新しいことを始める時のハードルも低くなるはずなので、店を潰すイメージトレーニングもしておいて損はない。

 で、潰れるとなると、後はスピード勝負になってくる。月々の家賃やら経費やらがいろいろとかかってくるので、一刻も早く片付けないといけない。ほっといても赤字が出るのに、長引いたらとんでもないことになる。……ということで、急遽片付け開始! ゲストハウスの場合は、ベッドの解体だけでも、ドミトリー部分だけで14人分もあるので(しかも二段ベッド)、すでに大仕事。巨大なロッカーや棚も搬出しないといけないし、甘く見てたけど、これは一大事だ〜!!! と、なった瞬間に、近所の人たちや友達なんかが「手伝おうか?」と、呼んでもないのに続々と助けに来てくれる。すごい! ありがたい! よくよく考えたら、緊急事態宣言が出てるから、みんな夜の8時以降(廃業した2月当時)はヒマなのだ。しかも高円寺には謎のヒマ人たちが大量にいるので、どんどん集まってきてくれる。ということで、あっという間に作業がすごい進む。月末までに片付けないと、と頭を抱えていたのが、予定より大幅に早く進む。しかも、ヒマ人たちのすごいのは、本業以外にもやたらといろんな能力を持ってる人が多いこと。みんなそれぞれ自前の工具やら道具やら、普通は素人が持ってないようなものを勝手に持ってきて、しかも異常に手際がいい。で、何かが足りないとなったら「あ、うちにあるから持ってくる」と、すぐに取りに行く。おまけに、近所に住んでいる人の数が異常に多いから、すぐに解決する。う〜ん、これは本当に助かった〜! 

どこからともなく現れて手伝ってくれる人々。こういう人々たちの存在によって、高円寺に膨大にある謎のスペースは守られている

 世の中、状況が悪くなるとすぐ他人のフリをしたり、遠ざかったりする人が多いので、店を畳むときは最悪一人でやらないと、と覚悟を決めていたが、まさか潰れる店の手伝いをみんなでしてくれるとは! 本当に嬉しい。ともかく、いざ困ったときに助けてくれる人たちがいるからこそ、普段から頑張っていろんなことができる。いくら面白いことやすごいことをやっていても、単独でやってたらいざというときに結構キツいことになる。やはり、助けたり助けられたりという関係性のある街をちゃんと作るというのは大事だね〜。
 それを聞いて「それ、高円寺だからできるんでしょ、そんなこと」と思う人も多いと思うけど、そんなことはない。江戸時代やら海外やら田舎やら、そんなコミュニティの事例はいくらでもある。ただ、現代の日本社会では、それをひたすら敬遠して関係性を希薄にしてきた。対して高円寺では、そんな世の中にもかかわらず、普段から飲み歩いたり、遊びに行ったり、公園で昼寝して知らない人と知り合ったり、仕事をサボって無意味に散歩したりという、血の滲むような努力を重ねてコミュニティを作ってきているのだ。諸君も、いざという時にみんなが死なないためにも、十分に遊び歩いてもらいたい。毎日仕事をして、あとは家にいるなどは自殺行為だ(コロナがヤバい時期は除く)。それは、いざというときに全て自分で抱えることになってしまう。
 
 あと、店を潰すときに重要になってくるのが、リサイクルショップだ。スペースを運営したり、地域コミュニティを作る時に、実はリサイクルショップがあるかどうかはとても重要なこと。物資を安く調達できるので、店やスペースを始める時にも便利だ。逆にやめる時も便利で、これは売れる、売れない、倉庫に保管しといて後でまた使うと損するか得するか、どうやって売って、どうやって捨てれば一番効率がいいかなどが瞬時にわかるので、すぐに片がつく。それに、リサイクルショップというのは、モノの再生全般を司るので、道具類も一通りあるし、保管する倉庫や移動させるトラックもある。それに何より、仕入れるルートや売り払う場所を自前で持ってるのが大きい。なので、皆さんも、もし地域コミュニティを作るのであれば、その中に必ずリサイクルショップを一軒持つことをお勧めする。そうすれば、新しい店を始めたり、リニューアルしたり、廃業したりするのが格段に楽になる。うちはたまたまリサイクル屋をやってるけど、もし自分でやってないとしたら、ぜひ近所のリサイクル屋さんなんかと仲良くしておこう。いざというときに強い味方になってくれるはずだ。さらにいうと、各種の修理屋さんや工事業者などなど。要するに街の人たち。これは意外と地味に重要なこと。

人里離れた山奥で焚き火の会というNPOを立ち上げる善良な市民に助けられて、燃料となるマヌケ宿泊所のベッド。それにしても凶悪な炎だ!

 ま、要するに、店を潰すときに重要なのがやはり人の力や助け合いだ。コロナで人間関係が希薄になりがちないま、その流れに身を任せていては店に限らず大変な苦労をすることになるってことだけは肝に銘じておこう。

世界各地からのマヌケ復興作戦

 と、まあ、なんとかゲストハウスも片付けることができて、こちらとしてはひと安心なわけだが、なかなかすんなりやめさせてもらえないのも店の恐ろしいところ。そう、特に海外のやつらにとっては安心どころではなく、すぐに世界各地から廃業を惜しむ声が大量に寄せられる! 確かに、これまで延べ5000人以上が来たうえ、年に数回日本に来て、滞在中はずっとマヌケ宿泊所に泊まっていた人たちもたくさんいた。そんな人たちからしたら、日本の家がなくなる感じだろうから、確かにそれは寂しいはずだ。
 それに、以前は日本には大して興味がなかったのに、高円寺での滞在が楽しすぎて一挙に日本好き(というより高円寺好き)になって何度も通うようになった人も大量にいるし、旅行中の高円寺での生活が楽しすぎて日本への就職や留学、ワーキングホリデーを決めた人もたくさんいるし、高円寺に通ったり長期滞在するうちに彼氏や彼女などパートナーができる人も多かった(結婚する人も!)。そうして、親日派ならぬ親高円寺派を大量輩出! そんなやつらが共通していうのは、「日本のサラリーマン文化とか面白くもなんともないし、観光地や商業地やら消費文化とかは一度楽しんだらすぐ飽きるけど、頭のおかしい高円寺は一番ヤバい!」ということ。で、そこから派生して、「実は下北沢とか吉祥寺にも面白い場所があるらしい」とか「京都や大阪にも高円寺みたいな変な場所があるらしい」などと、徐々に日本アンダーグラウンド通になっていくやつらが続出。そう考えると、海外から来ていた人たちからしたら、その窓口が消えるのは寂しい。もちろん他のゲストハウスなどもたくさんあるけど、やはり自分が経験したところがなくなるのは寂しいに違いない。
 そういえば以前、ドイツに行ったときに、おじいさんがやっている小さいかばんの修理屋さんがあったんだけど、あるときおじいちゃん病気になって店を休み、これを機にもう店は畳もうとしたところ、近所の人たちや常連さんたちが「あの店がなくなったら寂しいし困る!」と、寄ってたかって応援してくれて、結局再開することになったという。なるほど、やめさせてもらえないって、そういうことだったのか!!

数々の伝説を生んできて、そして何もなくなったマヌケ宿泊所

 さ、まあそんなことで! 廃業が決まった直後から、世界各地の人たちが、募金を集めるとかして、なんとか存続の手助けができないかと、みんな言ってくれる! 確かに、今は営業は難しいけど、コロナが去り国境が開いて、また世界中からマヌケなやつらが遊びに来るようになるのなら再開したい。とは言っても、一度やめてしまったら再開はいろいろ大変だ。そもそも物件があるかどうかも怪しいし、またベッドや寝具を揃えたり、物件の再契約だって結構お金がかかる。それに、世界中からお金を募金してくれるのも嬉しいけど、いま世界中のスペースや店などが運営に困ってる時に、一方的にお金をもらうのもちょっと申しわけがない。なにかこちらからも提供することができないか。いや〜、どうしよう。

 そこで登場したのが、「マヌケ宿泊所・未来宿泊予約券」。その名の通り、将来再開することができた時に使える前売り券。1セット10000円で、一泊券の6枚綴り。で、チケット売るだけ売って、結局再開できなかったら申し訳ないので、いつまで経っても再開できない時は、希望者には返金に応じるということにしておいた。

未来宿泊予約券。購入してくれた人には、もれなく世界万能旅券がついてくる。素人の乱5号店の店頭でも購入できます!

 すると……! ギャー、日本各地、世界各地の人たちが未来券を注文してくれる。いやー、ありがたい〜!! いや、「ありがたい」と言ったら買ってくれた人たちに対して失礼だ。というのも、元々マヌケ宿泊所は利益なんてほとんど生んでなかったし、そもそも利益を得るための商売というつもりもない。運営側の場所ってよりも、むしろ遊びにきてくれる人たちと一緒につくってきた場所だ。いま、世界中で貧富の差は広がり、国境でも分断されていき、世界各地の謎の支配者たちによる自分勝手主義(自国中心主義)がはびこりまくっている。こんな世界じゃ、貧困も差別もいつまで続くかわかったもんじゃない。もちろん、政治活動や社会運動で世の中を良くしていくのも必要なことだが、それだけじゃない。より手っ取り早くて必須なことが「直接勝手にやること」だ。マヌケ宿泊所のようなふざけた場所に、世界各地からいろんな人種やいろんな文化の連中が続々と遊びに来て、しかもそんな崇高な交流とかじゃなく、大バカな奴らが飲みまくったり遊びまくったりして、続々と友達になりまくっていく。そしてさらに、マヌケ宿泊所は単なる観光客の受け入れ場所じゃなく、直接関係性のある世界各地の地下文化圏、独立文化、腐った世の中に歯向かってる連中などなどを軸にしつつ人の繋がりを作ってきた。世界中にある、そういう謎のつながりがめちゃくちゃ広がっていけば、くだらない権力者や金にまみれた連中は、その分弱体化していくはずだし、行く行くは、必ず奴らを滅ぼすことができる。ってことで、やはりいつでも復帰できるような準備だけは万端に整えていきたい。
 まさに金の権力の亡者たちによる一世一代の大イベントと化しているオリンピックが、壮絶な空振りに終わろうとしている今、次はコロナで日々のんびりとゴロゴロして体力を温存している我々大バカなマヌケ勢力の出番である。そう、条件の悪い今は、大人しくしておいて、条件が整い次第、一挙にふざけた大バカ騒ぎを始めるしかない。よし、諸君、準備をしまくっておこう!

 やーい、オリンピックのバーカ、バーカ。ザマーミロ〜。

国籍不明の人々が集い、世界の地下文化圏の重要な交流拠点のひとつだったマヌケ宿泊所。いつの日かまた復活する時は来るのだろうか

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松本哉
まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)編著に『素人の乱』(河出書房新社)。