編集部に恵投いただいた書籍や、ただいま絶賛「積ん読」中! な本、これから見たいあの映画……などなど、スタッフが「気になる」本や映像作品を時々ご紹介していきます。読書や映画鑑賞の参考に、どうぞ。
〈書籍〉『ここまできた小選挙区制の弊害 アベ「独裁」政権誕生の元凶を廃止しよう!』(上脇博之著/あけび書房)
ぼく(鈴木耕)はずっと現在の日本の選挙制度に疑問を抱いてきた。ことに、小選挙区制という制度がこの国の政治を歪めてきたことに、怒りともいうべき感覚を持ち続けてきた。この本の帯にこんなことが書いてあった。
〈自公両党の得票率は50%未満なのに議席「3分の2」獲得のカラクリを徹底分析。そして、膨大な死票、投票率の低迷…。今こそ、憲法違反の小選挙区制を廃止して、民意を最大限に尊重する完全比例代表制に〉
ぼくの考えとほぼ一致する。「小選挙区制のカラクリ」を、資料を基にした論理で明快に暴いてくれた本は貴重だ。とても参考になる。もうじき衆院選がある。そこまでには間に合うわけもないけれど、日本の選挙制度を「民意を反映したもの」に変えていかなければ、日本という国の未来はない。必読本です。
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〈書籍〉『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(栗田路子、プラド夏樹、田口理穂ほか共著/光文社新書)
欧米在住の日本人ジャーナリストたちが見た、各国のリーダーたちのコロナ対策の手腕を分析した新書。これがなかなか面白い。
・イギリス:ボリス・ジョンソン「コロナ感染ではがれた『政界の道化師』の仮面」
・フランス:エマニュエル・マクロン大統領「戦争司令官が始めて見せた寄り添う姿」
・ドイツ:アンゲラ・メルケル首相「コロナ禍で光る賢母の貫禄」
・ベルギー:ソフィー・ウィルメス副首相「丁寧な説明を尽くした等身大の臨時首相」
・スウェーデン:ステファン・ロベーン首相「専門家ファーストで黒子に徹した政府トップ」
・アメリカ:ドナルド・トランプ大統領「アンチサイエンスが招いたパンデミック」
・ニュージーランド:ジャシンダ・アーダーン首相「終息への原動力はSNSによる国民との対話」
これだけの各国リーダーたちの対策を分析しているが、それぞれの個性と各国の事情が丁寧に描かれていて、とても面白い読み物になっている。まあ、トランプのひどさは際立っているが、安倍や菅が出てこなくて逆にホッとする。
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〈書籍〉『「恋と革命」の死 岸上大作』(福島泰樹著/晧星社)
60年安保を前線で闘い、自ら命を絶った学生・岸上大作の評伝である。ただし、普通の評伝とは一味違う。岸上は死後、評価の高まった歌人であった。まさに少年から青年への道程が、鮮烈な短歌となってほとばしる軌跡を、同じ歌人である福島泰樹が辿り直した評伝だからだ。福島の歌も挟み込まれ、その同化ぶりがうかがえる。
文中に引用される歌が、岸上の成長と苦悩と死を映し出す。中学時代から社会への目を見開き、父を奪った戦争を憎み、文学に耽溺し、輝かしい未来を夢見た青年が死を選び取るまで。
裏表紙には、こんな歌が黒地に白く浮かび上がる。
〈血と雨にワイシャツ濡れている無援ひとりへの愛うつくしくする〉
闘いと愛への渇望と切ない夢がないまぜの歌に、若い命の炎上をみた。
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〈書籍〉『日本再生のための「プランB」 医療経済学による所得倍増計画』(兪炳匡著/集英社新書)
ちょっとめんどくさそうなタイトルなので最初はなかなか読み始められなかったが、読みだすとなかなか興味深くて惹きつけられる。
著者はまず、日本の現状をきちんと調べていく。すると、残念ながらこの国の現状のひどさが浮かび上がる。そこで、その処方箋を提示し、低位に落ち込んだ国力を引き上げるための方策を「プランB」と名付けるのだ。
著者は「日本についての評価を、日本に住む日本人以外の視点から紹介した」と贈呈本に挟み込まれた紹介文で書いておられるが、その分析はかなり的を射ていて面白いものだった。
著者は、ハーバード大学やジョンズ・ホプキンス大学などに学んだ医療経済学者で医師。その後カリフォルニア大学デービス校准教授などを経て現在は神奈川県立保健福祉大学イノベーション政策研究センター教授。
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〈映画〉『出櫃(カミングアウト) 中国LGBTの叫び』(2019年/房満満監督)
かつて同性愛が犯罪と見なされていた中国には、現在7000万人の性的マイノリティの人々がいるという。その多くはカミングアウトすることがでず、社会の中で苦悩を抱えつつ生きている。そんな若者とその親の葛藤、愛と苦しみを追った密着ドキュメント。
意を決して父親にゲイであることをカミングアウトするグーチャオ、父はそれを聞いて表情をこわばらせ、「普通になって欲しい」「女性を愛せるよう努力して。お前ならできる」と説得にかかる。一方、レズビアンのアンアン(32歳)はすでに19歳の時にカミングアウトし、同性パートナーと暮らしているが、女手一つで娘を育ててきた母は未だに受け入れられない。話し合うも結局言い争いになり、互いに泣くしかない母と娘。「社会に認められなくても、親にだけはわかって欲しい。本当の私を愛して欲しい」と言うグーチャオ、アンアン。つらすぎる……。
LGBTについては頭では理解できるが、感情的に受け入れられないという人は少なくないだろう。それを克服するには、感情に訴えるこんな映画がおすすめ。当事者とその親の苦悩を少しでも知って。
※4月23日まで横浜シネマリンで上映中
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〈映画〉『ヒロシマへの誓い サーロー節子とともに』(2019年/スーザン・ストリックラー監督)
核兵器禁止条約発効に大きく貢献したサーロー節子さんの半生を紹介するドキュメンタリー。節子さんは、広島女学院在学中に被曝、奇跡的に助かったものの家族と多くの学友を失う。カナダ人のジム・サーロー氏と結婚、以来トロントを拠点にソーシャルワーカーとして働く傍ら、世界各地で被爆体験を語り、核廃絶に向けた運動の先頭に立つ。
ノーベル平和賞受賞スピーチは力強く、当事者ならではの訴求力にあふれ、論理的で反論の余地を与えない、感動的なものだった。核なき世界へ、世界はもう後戻りできないことを確信させてくれる作品。
※全国順次公開中