「なぜ君は?」を問い続ける 大島新監督のトークライブ、スタート(田端 薫)

YouTube「ネツゲンチャンネル」より

 「世の中をよくしたい」その一心で魑魅魍魎の跋扈する永田町で苦闘する立憲民主党衆議院議員小川淳也氏の姿を追ったドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』。「(おもしろいけど)こんな映画、だれが見るの?」(政治評論家・田崎史郎氏)という懸念をよそに、1年間で観客動員数35000人超えというまさかの大ヒット、キネマ旬報ベスト・テン文化映画作品賞(第1位)など数々の映画賞にも輝いた。

 公開以降、監督・大島新さんのもとには、様々な分野の人物への取材を求める声が寄せられた。その声を受けるかたちで実現したのが「大島新の『なぜ君』トークライブ」だ。政治、メディア、表現、学問などの世界で、大島さん自身が「気になる人」「じっくり話を聞いてみたい人」を招き、忖度、タブーなしの真剣勝負をライブで公開する企画である。

 第一回目(6月1日)はジャーナリスト・鮫島浩さんをゲストに迎えての「なぜ君は朝日新聞を辞めたのか?」。長年朝日新聞の政治記者として活躍した鮫島さんが退社した翌日を狙ってのタイムリーな企画である。

 大企業のしがらみから解放された初日の解放感はいかに、という有り体な問いかけから、いきなり「ところで退職金はいくら?」と切り込む大島さん。あっけらかんと具体的金額を公表する鮫島さん。のっけから引き込まれる。

 朝日新聞社員の抜きがたいエリート意識、内向き思考、自民党経世会、宏池会と朝日新聞政治部の意外な関係、鮫島さん“失脚”の契機となった福島原発事故「吉田調査報道」について改めて思うことなど、昨日まで大朝日にいた名物記者の本音は、なるほど他では聞けない貴重なエピソード満載だ。

 圧巻はこの秋の政局の見立て。「菅さんの頭の中では政権交代は問題外、敵は党内にあり」「政局のキーパーソンはもう一度やりたいあの人、安倍さんですね」「では安倍さんの頭の中をのぞいてみましょう」などなど、まるで見てきたような臨場感あふれる語りに圧倒された。

 鮫島さんのトークが絶妙なのはもちろんだが、聞き手の大島さんの誠実なたたずまいが好もしかった。相手への敬意を基本にした、謙虚で抑制的、冷静で真摯な姿勢は、17年間もの長きにわたって、地道に根気強く、ほどよい距離感と節度と確かな愛情を持って小川淳也氏を追った映画の視線そのものだ。

 大島さんは「なぜ君トーク」が目指すものとして「SNS上に飛び交う短く強烈な、だが短慮な言葉や映像の逆を行く、熟成された思考、考え抜かれた言葉、本質を探る問い」をあげる。

 今の日本に必要なのはこれだ。『なぜ君』というフレーズ、『逃げ恥』みたいに流行らせたい。「世の中そんなものよ」「いちいちつっかかっても仕方ない」というあきらめ、冷笑ムードに抗して「なぜ?」を発し続けよう。

 菅総理には「なぜ君はそこまでしてオリンピックをやりたいのか?」、安倍前総理には「なぜ君は平気で嘘をつけるのか?」と。

 私たちは『なぜ君』を、あきらめない。

(田端 薫)

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 トークライブの第2回(7月3日18時30分~)は「週刊文春」編集局長・新谷学さん「なぜ君はスクープを連発できるのか」、第3回(7月末〜8月初旬予定)は日本共産党 参議院議員・田村智子さん「なぜ君は共産党なのか?」の予定。ライブ会場は、映画のメイン劇場であったポレポレ東中野に併設するカフェ「ポレポレ坐」。オンライン配信あり(それぞれ有料)。
詳しくは「大島新の『なぜ君』トークライブ&配信」を。

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