スタッフ発・気になる本と映像作品〈夏休み編〉

読んで面白かった本はもちろん、編集部に恵投いただいた書籍や、ただいま絶賛「積ん読」中! な本、これから見たいあの映画、印象に残ったテレビ番組……などなど、スタッフが「気になる」本や映像作品を時々ご紹介していきます。今回は夏休み編。今年の夏休みも旅行はままならない状況ですが、読書や映画鑑賞の参考に、どうぞ。
※次週、8月11日(水)はマガジン9も夏休みをいただきます。次回更新は8月18日(水)です。

〈書籍〉『挑発する少女小説』(斎藤美奈子著/河出新書)
 出版されると、内容にかかわらず必ず購入する著者がいる。斎藤美奈子さんは、確実にそのひとり。今回はいわゆる「少女小説の名作」とされる本を、これでもかと差し出してくる。
「小公女」(バーネット)、「若草物語」(オルコット)、「ハイジ」(シュピーリ)、「赤毛のアン」(モンゴメリ)、「あしながおじさん」(ウェブスター)、「秘密の花園」(バーネット)、「大草原の小さな家シリーズ」(ワイルダー)、「ふたりのロッテ」(ケストナー)、「長くつ下のピッピ」(リンドグレーン)と、聞いたことはあるな、という本が目白押し。これら甘く優しい(と思われている)小説が、この著者の手にかかるとどうなるか。
 目からウロコは間違いなし。

〈書籍〉『マチズモを削り取れ』(武田砂鉄著/集英社)
 この人も、最近は「著者名買い」するひとり。なんだかモヤモヤする現象や言葉が、この人に手にかかると、はたと膝を打ち「ああ、そうだったんだ!」
 目の前の薄い雲が晴れていく気分になるんです。と言いながら、これはまだ読んでいません。えーと、斎藤さんの本が読み終わったら取り掛かりますから。ただね、目次を見ただけでも期待度大なンすよ。だって「『男/女』という区分」「密室に他人が入り込む」「なぜ結婚を披露するのか」「体育会という抑圧」「カウンターと本音」……。
 ね、ちょっとそそるでしょ?

〈書籍〉『この国を覆う憎悪と嘲笑の濁流の正体』(青木理、安田浩一共著/講談社+α新書)
 これはじっくり読みました。いやあ、面白い。面白いという言葉は、この本の重いテーマにはそぐわないかもしれないけれど、実際に面白いんだから仕方ない。
 いま、この日本という国に(感染症以上に)蔓延する憎悪と嘲笑の源流を、ずばり剔出するのだから、溜飲が下がる。だがそれだけでは終わらない。源流に到達し原因が分かったら、我らは何をすればいいのか、その方向を示唆してくれる本なのですよ。
 先日、デモクラシータイムスという市民ネットTVの「著者に訊く」という番組で、おふたりにインタビューさせてもらいました。それもぜひご視聴くださいね。あ、「デモクラシータイムスYouTube」で公開されていますから。
※「デモクラシータイムス」でのお話の様子は、今週の「こちら編集部」でもお伝えしています。

〈書籍〉『ぶらりユーラシア』(大木茂著/現代書館)
 スゴイ本をいただいちゃいました。私の大好きな友人の大木晴子さんのお連れ合いが、このほど出版なさった写真&エッセイ集です。これがスゴイ!
 サブタイトルが「列車を乗り継ぎ大陸横断、72歳ひとり旅」ですから、内容は分かります。分かるけれど圧倒されるんです。なにしろ、500ページを超える分厚い本に、カラー写真が数百枚。見ているだけで、私の心も異国の地へ旅します。ロシア・サハリンから始まり、中国西域、中央アジア、中東諸国、やがてヨーロッパに至りバルカン半島~地中海沿いのローカル列車、コルドバからリスボンへと、気が遠くなるような旅の一部始終が、優しく美しい写真と詳細に旅程をつづった文章で表現されています。
 大木さんは、吉永小百合さんの映画のスチールでも有名な写真家です。吉永さんが、ていねいな推薦文をお書きになっています。吉永さんの直筆の写真もあります。私は、ベッドサイドにおいて、眠る前のひと時、この本と一緒に旅するのです。
 蛇足ながら、大木茂さんのモノクロの素敵な写真集 『汽罐車』(新宿書房)は、鉄道写真の傑作ですよ。サブタイトルの「よみがえる鉄路の記憶」どおり、蒸気機関車の力強さとノスタルジーと美しさに溢れた本です! 
 実は、私の大好きだった叔父はかつて鉄道員で、山形県の米坂線で車掌さんをしていたんです。だから、米坂線の蒸気機関車には私も何度か乗ったことがあります。懐かしさにちょっと涙ぐみます。

〈書籍〉『仁義なき戦い 菅原文太伝』(松田美智子著/新潮社)
 これ、一気読みの本。なんたって、あの菅原文太の評伝ですから。しかし、読んでいくと、文太兄いはかなり屈折した人間だったことがしみじみと分かる。著者はともかく文太が出てくるあらゆる資料を読み込み、文太と接触した人間をできる限り探し当て、話を聞いていく。でも、なんとなく文太像がうまく結ばない。そこが、少しばかり隔靴掻痒。
 とくに、文太の故郷との関わりがしっかりと伝わらない。帯に「故郷に背を向け、名優たちと別れ、約束された成功を拒んだ。」とあるけれど、その部分がストンと胸に落ちないからかもしれない。
 だが、菅原文太の最後の演説(沖縄県知事選での翁長雄志応援演説)を、現場で聞いていたぼくとしては、これは大切な一冊になった。
「仲井眞さん、弾はまだ残っとるがよ。一発残っとるがよ」との『仁義なき戦い』に仮託したセリフも凄かったけれど「沖縄の風土も、本土の風土も、海も山も風も、すべて国家のものではありません。そこに住んでいる人たちのものです。辺野古もしかり! 勝手に他国へ売りとばさないでくれ」と結ばれた演説は鬼気迫るものがあった。
 なお、本書の著者・松田さんは、俳優の故・松田優作さんと結婚、現在はノンフィクション作家、小説家、脚本家としても活躍している方であることを付記しておく。

(以上 鈴木 耕)

〈書籍〉『Weの市民革命』(佐久間裕美子著/朝日出版社)
 時代は「ミー」から「ウィー」へ。誰かのために声を上げる革命がアメリカで広がっている、と20年以上ニューヨークに暮らしてきた著者はいう。
 そのひとつが「消費行動」を通じたアクションだ。「買い物は投票だ」という言葉は日本でもずいぶん前から言われてきたが、広く浸透しているとは言い難かった。いま、ミレニアル世代によって、それが本当に社会を動かす力になりつつあることを、本書を読んで感じた。気候変動、格差や不平等……大きな問題の前に無力感に襲われることばかりだが、「革命は起きるのではない。私たちが起こすものなのだ」という声に背中を押される。

〈絵本〉『みえるとかみえないとか』(ヨシタケシンスケさく・伊藤亜紗そうだん/アリス館)
 主人公は、自分とは「ちがう」宇宙人たちが暮らす星を訪れた宇宙飛行士。自分は普通にしているのに、変に気を使われると、なんだか変な感じ。みんな「ちがう」ところもあれば、「おなじ」ところもある。そもそも「ふつう」ってなんだろう? ユーモラスなお話のなかに、考えさせられるヒントがたくさん。子どもだけでなく、大人にもおすすめの絵本です。夏休みに親子でどうぞ!

(以上、中村)

〈映画〉『大地と白い雲』(2019年中国/ワン・ルイ(王瑞)監督)
 内モンゴルの大草原で牛や羊を飼いながら暮らす一組の若夫婦の物語。外の広い世界へ、都会へ飛び出したい思いがつのる夫のチョクトに対し、妻のサロールの願いは今のままの暮らしを守り続けること。愛し合いつつも、二人の思いは正反対の方向に引き裂かれていく。 
 しばしばふらりと家出する夫。だが妻はただ待つ女、耐える女ではない。夫の胸ぐらにくらいつき、悪態もつく。夫もまた、都会に憧れつつも、遊牧民としての誇りは人一倍強い。男と女、文明と自然、都会と草原、伝統と革新、相反するかにみえる二つの間を行きつ戻りつ、物語は進み、意外な結末を迎える。なにが幸せか、簡単に答えは出せないのだ。
 スクリーン一杯に広がるフルンボイル平原の風景がすばらしい。180度の蒼穹、刻々と姿を変える白い雲、雨上がりの虹、どこまでも続く草原、疾走する馬や羊の群れ。ああ、こんなところでマスクを外して、思い切り深呼吸したいなあ。
 実際に遊牧民の出身という主人公ふたりの、都会のひ弱な美男美女にはないむせかえるような若さと生命力にも圧倒される。8月21日(土)岩波ホールほか全国順次ロードショー。

(田端 薫)

〈映画〉『グンダーマン 優しき裏切り者の歌』(2018年ドイツ/アンドレアス・ドレーゼン監督)
 東ドイツ時代に民主化運動の仲間になりすまし、内部の情報を国家保安省(シュタージ)に流していた女性を描くNHK特集のドキュメンタリー(「モニカとヨーナス~旧東独・暴かれた密告社会~」)の制作をサポートしたことがある。作品はその女性(モニカ)と、彼女が密告をしていた女性活動家、ベーベル・ボーライの息子(ヨーナス)の対話が中心なのだが(ベーベルはモニカとの対面を拒否)、それを成立させるところから難航し、実現した後も2人の対話をどう解釈するかが悩ましく、灰色の東ベルリンの街並み同様、こちらの心もどんよりと落ち込む日々が続いた。
 そんな記憶を呼び覚ましたのがこの映画。主人公は、鉱山労働者として働きながら、シンガーソングライターとして人気を博したゲアハルト・グンダーマン。シュタージの協力者としてバンド仲間の動向を伝えていた。その報酬として西ドイツへの演奏旅行が許されるなどの便宜を受けていたのだが、密告は共産主義の理想を信じるがゆえの行為であり、グンダーマンは鉱山労働者として劣悪な職場環境を改善しようとしないドイツ社会主義統一党幹部を、本来の社会主義に反すると批判したかどで除名される。ドイツ統一後はステージの上でシュタージの協力者であったことを告白し、観客に「生卵を投げつけるなら、(メンバーではなく)ぼくだけにしてくれ」と呼びかける。「裏切り者」は単純ではない。
 グンダーマンはどんなに忙しくても労働者であることをやめなかった。鉱山が閉鎖されてからは家具職人の見習いをしながら、曲を書き続け、43歳で早逝した。労働者であることが彼の歌の原点だった。
 『グッバイ、レーニン!』『善き人のためのソナタ』『東ベルリンから来た女』など、東ドイツの特殊な状況をドラマ化した作品に比べると、『グンダーマン』の目線はより日常に近い。統一から約30年を経て生まれた、等身大の東ドイツ市民を描く映画でもある。

(芳地隆之)

〈書籍〉『ヘイトをとめるレッスン』(ホン・ソンス著・たなともこ 相沙希子訳/ころから)
 「ヘイトスピーチ」ってそもそも何なの? 差別は駄目だと思うけど、「○○人が嫌い」くらいの発言は表現の自由なんだから保障すべきでしょ? なんでもかんでも「女性差別」っていうのは男性差別じゃない? 「ヘイトスピーチだ!」って口汚く罵るのだって「ヘイト」だと思うんだけど……。
 そんな疑問が頭に浮かんだり、誰かに問われて口ごもったりした経験のある人に、ぜひ手に取ってほしい。韓国の法学者が、韓国で起こっている「ヘイト」の現状を取り上げながら、「ヘイト表現」とは何か、なぜ許されないのか、そしてどう対処していくべきなのかについて、体系立てて解説する一冊だ。こうしたテーマの、しかも翻訳書としては、びっくりするくらい論理が明快でわかりやすい(若い世代に読まれるよう、ぜひたくさんの学校図書館に置かれてほしいと思う)。日本と韓国との状況の違いや共通点も興味深かった。
 ちなみに本書は、版元の出版社が米国のブラック・ライブズ・マター(BLM)運動に呼応してスタートさせたという、差別やヘイトについて考えるシリーズ「いきする本だな」の第一弾。書店の棚に「嫌韓・嫌中本」が並ぶ現実がある中で、注目すべき試みだと思う。

〈書籍〉『増補新版 風よ鳳仙花の歌をはこべ』(ほうせんか編著/ころから)
 1923年、関東大震災直後の混乱の中で、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「暴動を起こそうとしている」などのデマが飛び交い、それを真に受けた人々によって多数の朝鮮人が虐殺された。本書は、その犠牲者の遺骨を探しながら、当時を体験した人たち約150人への丹念な聞き取りを行った市民グループの記録集(1992年刊)の新版である。
 聞き取りが行われたのは1980年代。大震災と虐殺をはっきりと記憶している人たちの証言は、今では決して聞くことの叶わない、貴重なものばかりだ。決して残酷でも冷酷でもないのだろう「普通」の人たちが、流されるようにして虐殺に加わっていく様子が、生々しく伝わってくる。10年にわたって聞き取りを行ったという「ほうせんか」の地道な活動にも、心から敬意を表したい。

(以上 西村リユ)