『模倣の罠 自由主義の没落』(イワン・クラステフ、スティーヴン・ ホームズ著/中央公論新社)

 アメリカは長きにわたって世界のアメリカ化――自由主義的な秩序の構築――を進めようとしてきた。その遂行のためには武力の行使も辞さなかった。ところが、自由と民主主義の伝道師としての役割は割に合わない、むしろマイナスだ、という大統領が登場した。ドナルド・トランプである。彼はアメリカ主導の自由貿易が結果として自国産業を圧迫しているとして特定の産業分野の関税を引き上げるといった施策を導入し、はては地球温暖化対策の国際的な枠組みであるパリ協定からも離脱した。
 このアメリカ・ファーストの姿勢は対外的には好戦性を露わにする。当然ながらロシアや中国はアメリカと同様に自国ファーストへと舵を切って対抗するわけだが、本書の著者はその原因をベルリンの壁崩壊後の30年間の流れのなかに見出す。
 それはソ連東欧諸国が西側の資本主義を模倣する、きわめて一方通行な関係であった。東側が西側に合わせるばかりで西側自身は変わることがない。それどころか、社会主義という対抗馬がいなくなったことで、企業の利潤追求を優先し、労働者の権利をないがしろにすることに躊躇いがなくなった。フリーハンドを得た資本主義は、たとえばハンガリーのオルバン政権やポーランドのカチンスキ政権に見られるような非自由主義的な政策、アメリカの鉄鋼や石炭、自動車などの主要産業が衰退した工業地帯(ラストベルト)の中間層の反発へとつながっていったのである。
 ロシアにおいてはソ連解体後、アメリカ流マネタリズムに従った改革によって豊富な天然資源の多くがオリガルヒ(新興財閥)の手に落ちた。それを取り戻し、オリガルヒを一掃して、国民から喝さいを浴びたのがウラジーミル・プーチンである。その後の彼はアメリカの選挙コンサルタントの手法を駆使して自らの再選を重ねていくというように、模倣される側が模倣する側から揺さぶりをかけられるようになった。そして、その関係から自由であった中国が大国として台頭してきたのである。
 さて、日本は平成の時代とほぼ一致するこの年月、国際社会のなかでいかなる役割を演じてきたのだろうか。隣国との間に立ちはだかる数々の課題の多くを解決できず、その原因にもなっている対米追従外交を推し進めるだけであった。その点では日本も自由主義と同様に没落していったのかもしれない。

(芳地隆之)

これまでの30年間で強権体制を確立したリーダーとこれからに期待したいリーダー(シンパシーを感じない人の方がなぜか描きやすい)


『模倣の罠 自由主義の没落』
(イワン・クラステフ、スティーヴン・  ホームズ著/中央公論新社)

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