『人種差別をしない・させないための20のレッスン』(ティファニー・ジュエル著/オーレリア・デュラン イラスト/きくちゆみこ訳/DU BOOKS)

 「私は誰?」と自分のアイデンティティを見つめることから始まり、差別や偏見とは何かについて学びながら、レイシズムに立ち向かう方法を考えていく一冊(※発行元のDU BOOKSはなんとレコード会社のディスクユニオンの出版部門。サイトを見たら音楽関連はもちろん、フェミニズムの本、虫図鑑の本まであった)。

 アメリカでヤングアダルト(10代が中心の若い人たち)を対象に書かれた本だけあって、教科書的なわかりやすさがあるけれど、何よりいいのは一方的ではないところ。自分や身の回りのことを振り返りながら「ノートに書き出してみよう」というワークが随所にはさまれていて、自分ごととして一緒に考えていくことができる。イラストを生かした素敵なデザインも手に取りやすく、読みやすい。

 「こんな本が10代のときにあったらよかったのに!」と思ったけれど、いえいえ、十分に大人になったいまでも気づかされることがたくさん。レイシズムに限らず、さまざまな差別や偏見の問題を考えるときにも役に立つ内容だ。

 翻訳された本ということもあるけれど、初めて目にする用語もたくさんあった。たとえば、著者は「世界的マジョリティの人々」(Folx of the Global Majority)という言い方をしばしば使う。アメリカにおいて「マイノリティ」と呼ばれがちである黒人、ブラウン、先住民などの人たちが、実は世界では数において「多数派」なのだということを意識させられる言葉だ。ラテンアメリカ出身およびラテンアメリカの家系をもつ人々に対する一般的な名称として使われている「Latinx(ラティネクス)」と同様に、ジェンダーニュートラルな書き方がされていることにも注目したい。

 こうした言葉を日本語にするのはなかなか難しいだろうけれど、言葉を知ることではじめて認識でき、共有できることもある。どんな言葉を使うのかはとても大事だとあらためて感じる。

 個人的に本のなかでとくに印象に残ったのは、「コールイン」と「コールアウト」の話。誰かが抑圧的なコメントをしたときに、少し時間をおいてから個人的にその人に指摘するのか(コールイン)、公の場でその人に指摘するのか(コールアウト)という問題で、日常のなかで悩んだ経験がある人も多いのではないだろうか。本のなかで共有される著者の失敗談と自分の経験が重なって、判断の難しさを考えさせられる。それでも、失敗や気まずさを恐れて何もしなければ現状は変わらないままだ。

 「レイシスト的な社会においては、非レイシスト(NON RACIST)であるだけでは不十分である。私たちはアンチレイシスト(ANTI-RACIST)でなければならない」

 政治活動家で学者、作家のアンジェラ・デイヴィス氏の言葉から引用されたこの一文は、すべての社会問題につながる。この本を読み終わったときには、「できることから始めてみよう」という気持ちが湧いてくる。

(中村)

『人種差別をしない・させないための20のレッスン』
(ティファニー・ジュエル著/オーレリア・デュラン イラスト/きくちゆみこ訳/DU BOOKS)

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