『フィンランド 幸せのメソッド』(堀内都喜子著/集英社新書)

 のっけから、2019年12月に第46代フィンランド首相に世界最年少で選出された女性のサンナ・マリンのプロフィールに唸ってしまう。
 首都ヘルシンキ生まれ。幼いころに両親が離婚後、サンナをひきとった母親はやがて同性パートナーと一緒になり、地方都市タンペレ近郊の公営賃貸住宅に移る。サンナは高校卒業後、すぐには大学に進学せず、店のレジ係などしながら生活していくなかで行政学を専攻することを決意し、地元タンペレ大学に通いつつ、社会民主党青少年部での活動にも取り組んだ。結果、大学を卒業するまでに10年の歳月を要し、国会議員になった後の2017年に修士号を取得。翌2018年1月には長年のパートナーとの間に娘が生まれ、半年間の産休と育休をとり、その後はパートナーが入れ替わる形で半年間の育休を。首相になって、新型コロナウイルスの第一波が落ち着いた2020年8月1日に2人は正式に結婚した――。
 この時点で読者はいろいろな問いを投げかけたくなるだろう。フィンランドの大学の学費はどうなっているのか、学生と政治活動の両立は可能なのか、自身が育休中、職場はどのように回っていたのかなどなど。フィンランドにおけるジェンダー平等、子育て支援、教育システムについて丁寧に解説する本書を読み終えると、マリン首相のキャリア形成が特殊なものではないことがわかる。
 国民すべてに機会平等を保証するという国の姿勢は、この国の起業ブームを後押しする。起業にはリスクが伴うが、各起業家は競争よりも協調を重視し、「同じ志を持つ仲間同士、情報交換して、成功も失敗も経験を共有し、一緒に切磋琢磨して生き残ろうと助け合う」からだ。世界最大の携帯電話端末メーカーであったノキアがスマートフォンの失敗から携帯事業をマイクロソフトに売却し、リストラ人員が数千人単位に及んだ際、国は「ブリッジ」というリストラ支援プログラムを開始。ノキアを退職した社員によって立ち上げられたスタートアップが多く誕生している。
 2022年における国連の「世界幸福度リポートとランキング」(主な指標は、1人当たり国内総生産、社会的支援の充実〔社会保障制度など〕、健康寿命、人生の選択における自由度、他者への寛容さ〔寄付活動など〕、国への信頼度)によると、146国中、フィンランドは5年連続で1位となった。日本は前年から2ランク上がったものの54位。
 世の中のことを自分ごととして考えられる人々の多いところでは幸福度が高いのだろう。
 ちなみにユニセフ(国連児童基金)・イノチェンティ研究所が毎年発表する、先進国の子どもの状況を比較分析する報告書シリーズ「レポートカード」の最新版(主な指標は、①精神的幸福度=生活満足度が高い子どもの割合、自殺の割合、②身体的幸福度=子どもの死亡率、過体重・肥満の子どもの割合、③スキル=読解力、数学分野の学力、社会的スキル)で、39カ国中、フィンランドは5位、日本は13位だった。
 日本も学ぶところ大だが、人口550万人強の規模だから可能な面もある。ならば、都道府県単位で実践していったらどうか。国から「勝手なことをやるな」と圧力がかかったら、住民の幸福度の高さを盾に胸を張ればいい。

(芳地隆之)

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