主人公はユダヤ系のモグリの医者バート、出自のわからぬ自由奔放なヴァレリー、そして黒人の弁護士ハロルド。3人の出会いは第一次世界大戦の前線だった。
ユダヤ系として疎外感を味わっていたバートと、戦場でも味方から黒人差別を受けるハロルドとの間で友情が育まれる。2人は重傷を負う。野戦病院で彼らを迎えたのはヴァレリーだ。従軍看護師として、次から次へと運ばれ、診察台で絶叫する、うめき声を上げる負傷兵たちに対して、鬼気迫るほどの献身さで看護に当たる。彼女は、バートが失った右目の傷跡を縫い付け、ハロルドの頬にくい込んだ銃弾を抜き取る。
彼女はアーティストでもあった。戦争が終わると3人はオランダのアムステルダムで愉快な日々を過ごす。ヴァレリーのコネでバートは義眼を入れることもできた。しかし、「いつまでもこのままでいられない。妻と再会したい」と帰国を決意したバートは、「よくないことが起こる予感がする」と警告するヴァレリーの反対を押し切ってニューヨークに戻り(ハロルドも続いた)、戦後の祖国アメリカで「国のために戦った」傷痍軍人に対して冷たい現実を見せつけられた。
軍人たちの怪我を無許可の新薬を使ってでも治そうと奮闘していたバートはハロルドから、戦地で世話になった元上官の死因を明らかにするための遺体解剖を求められる。しかし、それがきっかけでハロルドとともに得体の知れぬ男たちに命を狙われることに。その過程でヴァレリーとのまさかの再会も果たす。
物語のテンポは速く、展開も目まぐるしい。グロテスクなシーンは笑いで乗り切る荒業に加え、現実に起きることとバートの頭のなかで起こることのずれも見事に表出する。
予告編はこちらの好奇心をくすぐる映像だった。しかし、肝心の物語はどういうものなのか、さっぱり見当がつかなかった。このレビューも同じかもしれないが、これも先入観を排することで、バート、ヴァレリー、ハロルドと同じ息遣いで真相に近づくためだ。それでも「ほぼ真実」と銘打つ本作の予備知識を少しだけでも、という向きには、「上流階級の者たちは自分たちの立場を守るために、国境を越えてでも時の権力者にすり寄ろうとする」「時代は両大戦期の間」とだけいっておこう。
バットマン(『バットマン ビギンズ』から『ダークナイト ライジング』まで)、チェイニー元副大統領(『バイス』)、ル・マン24時間耐久レースのレーサー(『フォードvsフェラーリ』)など変幻自在に演じるクリスチャン・ベールには今回も舌を巻く。本作品ではプロデューサーも務めたそうだが、彼に劣らず目を引くのはヴァレリー役のマーゴット・ロビーだ。ひと癖もふた癖もある登場人物たちと堂々と渡り合う演技に目を瞠った。
(芳地隆之)
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