第248回:暗い1年、「酒飲み音頭」で飲み倒せーっ!(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 ぼくの大好きな歌(笑)に『日本全国酒飲み音頭』ってのがある。とにかくバカバカしい歌、ノー天気の極み、もう、これさえ歌っていれば憂き世も楽し、ヨッパライだって天国から「うわっうわっうわっ」と浮かれながら帰ってきちゃう、てなもんです。

 で、その歌とは……

♬酒が飲める酒が飲める酒が飲めるぞ~っ
 一月は正月で酒が飲めるぞ~それっ 酒が飲める酒が飲める酒が飲めるぞ~
 二月は豆まきで酒が飲めるぞ~ (同)
 三月はひな祭りで酒が飲めるぞ~(同)

 こんな具合に、何が何でも酒が飲めちゃう、何にかこつけてでも酒を飲んじゃうという歌なのである。
 2022年ももうおしまい、というわけで『酒飲み音頭』に合わせて1年を振り返ってみようと思い、自分の資料ファイルを漁ったのだが、まあこれが、ろくな記事がない。嫌なニュース、暗い出来事ばかりがつまっていた。こうなりゃ仕方ない。『やけ酒音頭』で1年を締めくくるしかない。
 それじゃあ、いってみよーかあっ! はいっ、お手を拝借ーっ!

♬ 1月はNHKの字幕で酒が飲めるぞぉ~

 ほら、思い出したでしょ? 例の河瀨直美監督の「東京五輪映画」をめぐるNHKの特番「河瀨直美が見つめた東京五輪」の中で、出演男性が五輪反対デモに「お金をもらって動員されていたと打ち明けた」という字幕を付けた事件。これが真っ赤なウソだったとして、大きな問題になったよね。
 まあ、デタラメ東京五輪には、相応しい結末だった。
 NHKの姿勢が問われ、河瀨監督自身の責任にも波及、ツイッターなどSNSでも大炎上して、ついにはBPO(放送倫理・番組向上機構)でも取り上げられる事態となった。
 ほかにはコロナ感染感染が止まらず、ほとんど外飲み禁止状態。そこでついでに、
 ♪コロナ蔓延で、家飲みしかできないぞぉ~っと!

♬ 2月はロシアのウクライナ侵攻で酒が苦いぞぉ~

 24日、こんなことが起きるとは思わなかった。プーチン大統領、ほとんどとち狂ったとしか思えない戦争突入。世界中が、まさか他国の領土へ攻め込むことだけはしないだろうと思っていたのだが、強権(狂犬かな)大統領、自信満々の戦争開始。開戦から1、2週間もあれば簡単にウクライナは尻尾を巻いて降参するだろうと、プーチン氏は高を括っていた節がある。だが、そうは問屋が卸さなかった。
 ゼレンスキー大統領とウクライナ国民の、意外とも思える反撃によって戦線は膠着、戦争開始から10カ月たった現在も終結の兆しは見えない。
 酒がますます苦くなるぞぉ~。

♬ 3月は震度6強の地震で怖い酒になったぞぉ~

 16日、福島県沖を震源とする震度6強の大地震。新幹線は脱線するわ、死者負傷者も多数。むろん、あの2011年3月11日の東日本大地震と福島原発爆発の惨状を思い出した人は多かった。ぼくも、この日ばかりはひっそりと隠れ酒を飲むしかなかった。
 またしても、日本列島の脆弱さを痛感させられた大地震。それなのに、なお「原発推進」などというアホが多いこの国。
 絶望的だなあと、渋い顔して飲む酒のまずさよ~。

♬ 4月は「憲法審査会」でむかっ腹酒を飲んだぞぉ~

 28日、自民党・公明党・維新の会が共同提案した「憲法改正手続きに関する国民投票法改正案」が衆院憲法審査会で審議入り。国民投票に関して、この案ではテレビCM規制強化やインターネット広告の規制が示されておらず、資金量の豊富な側(つまり改定主張する側)が、どんどんテレビCMや雑誌新聞を利用できるから、圧倒的有利になることは間違いない。
 立憲民主などはとりあえず反対しているが、同じ俎板の上に乗っかってしまった。危なっかしいことこの上ない。ぼくらの知らないところで、じわじわと外堀が埋められていくようだ。てやんでぇ、ベラボーめ。悪酔いして二日酔いだぜ。

♬ 5月はバイデンさんからのおこぼれ酒が飲めたかな?

 22日、岸田文雄さんが待ちに待ったバイデンさんが日本へお出まし。相変わらず宗主国の首長ぶりを発揮して、成田や羽田ではなく米軍横田基地へ悠々とご到着。まさに「ここはオレんちの庭だかんな」と言わんばかり。岸田さん、むろん文句も言わずに揉み手するのみ。首脳会談では「敵基地攻撃含むあらゆる選択肢を」と言い出し、防衛費の「相当な増額」をお約束しました、とさ。これが、岸田氏の手足を縛り、年末の大騒動につながることとなったのだ。
 まさに、「おっとっと、おこぼれ頂戴いたします」という、部下の貰い酒ですなあ。

♬ 6月は杉並区長に野党共闘候補当選で祝い酒が飲めたぞぉ~

 東京都杉並区の区長選が20日投開票され、野党(立憲、共産、れいわ、社民)の推薦で立候補した岸本聡子さんが、大方の予想を覆し、現職を破って初当選。杉並区では、先の衆院選でも野党共闘の吉田はるみさんが、現職の大物石原伸晃氏を破って、市民運動の盛り上がりを見せつけていた。
 地域からのこんな流れが定着すれば、中央政治を変えることも可能だ。これは久々の快挙、そして久々の祝い酒だ~い。

♬ 7月は安倍元首相の銃撃死で衝撃酒となっちまったぞぉ~

 8日午前11時25分ごろ、参院選応援のため奈良市で応援演説中の安倍晋三氏が、背後から銃撃され死亡。やはりこれが、2022年最大の重要な出来事となった。なぜなら、山上徹也容疑者の襲撃動機が明らかになるにつれて、主に自民党議員たちと旧統一教会とのズブズブの関係が次第に表ざたになり始めたからだ。
 安倍氏自身が教団票のとりまとめ役だったことも判明。韓国をあしざまに批判していたネット右翼系の安倍信者たちが、韓国を批判すれば安倍批判につながるというジレンマを抱え、一時ではあれ、鳴りを潜めるという珍現象まで起きた。
 まさに、この月の酒は「衝撃酒」となったのであります。ちなみに、この月の参院選ではやはり自民党が勝利、これまたやけ酒、あ~あ。

♬ 8月は統一教会でヤバい酒をどんどん飲んだぞぉ~

 細田博之衆院議長、萩生田光一自民党政調会長、下村博文元文科相などなど、大物議員の教団癒着が次々に報じられ、自民党はパニックに陥った。
 鈴木エイトさんというジャーナリストや前参院議員の有田芳生さんなどが脚光を浴び、紀藤正樹弁護士らの全国統一教会被害対策弁護団の活躍もあいまって、テレビ(日テレ系の「ミヤネ屋」など)が、いつもの腰の引けた報道から一歩踏み込んだために、旧統一教会問題は全国民的関心事になった。TBS系「報道特集」も深いスクープを連発、関心を高めた。
 あまりテレビを見ないぼくでも、録画しておいて夕食時に晩酌とともによく見ていたのだ。ちょいと飲みすぎたかなあ…。
 しかし、まだすべてが解明されたわけではない。息の長い報道を期待する。とくに自民党との癒着の実態をもっと明らかにしてほしい。

♬ 9月は五輪汚職で酒が臭いぞぉ~

 高橋治之元東京オリンピック組織委員会理事の逮捕に始まった「汚輪ピック」は、とどまるところを知らない。紳士服のAOKI、出版大手のKADOKAWA、さらには、広告会社の大広や駐車場サービスのパーク24と、もはや底なしの泥沼状態。いったいいくらの金が、怪しい連中の懐に入ったのか見当もつかない。
 しかし、知人のジャーナリストが「本丸はバッジ(政治家)」と言う。それが誰のことを指すのかは、誰にでも分かりそうなもの…。
 それでもなお、札幌冬季五輪の招致を、などと言い続ける連中の腹はどうなっているんだろう? もうこれ以上は、臭い酒を味わいたくないもんだけどなあ。

♬ 10月はぼくの誕生日で酒が飲めるぞぉ~と思ったら…

 31日、なにしろ世界中でぼくの誕生日を祝ってくれる。えっ、そりゃあ勘違いだろうって? そうだね、世界中のバカ騒ぎ「ハロウィーン」だったんだ。いつの間にか、妙な流行りものが日本中を席巻。それがなんと、韓国で大惨事を巻き起こす原因となった。
 韓国の繁華街・梨泰院(イテウォン)で、押しかけた人たちによる群衆雪崩が発生、158人もの死者が出た。バカ騒ぎも度が過ぎればひどいことになる。
 なんだか、誕生祝のお酒が苦いものになってしまった。ぼくの喜寿の祝い日だったというのになあ…。

♬ 11月は閣僚の辞任ドミノでサヨナラ酒が続くぞぉ~

 統一教会の創始者・文鮮明氏の発言録で「安倍派中心に自民党と関係強化を図る」という文言が判明。もう、どうにも申し開きができない自民党。なにしろ最大派閥がずっぽりと教団側に浸透されていたんだから、自民党総体の問題だと言わざるを得ない。要するに自民党は、品のない言葉で言えば「キンタマを握られていた」わけだ。
 山際大志郎経済再生担当相、葉梨康弘法務相、寺田稔総務相らが続々辞任。教団癒着だけではなく、失言妄言政治資金問題と、どこからでも火の手が上がる。ほんとうに自民党は「汚い人材」の豊富な党だ。
 さらには、12月に入って秋葉賢也復興相もサヨナラメンバー入り。それに付録で杉田水脈(敬称肩書略)ヘイト屋も更迭とか。まだまだサヨナラ酒は続くかなあ?

♬ 12月は岸田狂乱で悪酔い酒が抜けねえぞぉ~

 ニッポン国の行方の大転換。岸田文雄“聞く力”首相が、安倍派の言い分を聞きすぎて、あれよあれよの極右首相に大変身。本人に極右化の意識はないのだろうが、とにかく防衛費倍増、敵基地攻撃能力、原発推進で新型革新炉や運転期間の大延長と、閣議決定でなんでも決めちゃう。恐ろしいほどの大へんし~ん!
 もはや、正気を失ったとしか思えず、狂乱状態か。
 このまんま、年を越えて右へ右へと軍事国家への道を邁進。折から、日本の少子化には歯止めがかからず、ついに今年は出生数77万人の予想。政府の予測よりも11年も早い80万人割れ。

♬ おまけ 来年は本気で美味しい酒が飲みたいぞぉ~!
 で、拍子木がちょ~~~ん!
 はい、おしまいです。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。