国民を脅す国〜インボイス制度とマイナンバーカード(西村リユ)

 確定申告の季節です。先日、仕事先から送られてきた会計関係の書類を開けていて、ドキリとしました。広げた紙に、「インボイス発行事業者登録についてのご意向をお聞かせください」という一文があるのが目に入ったからです。
 
 今年10月から導入が予定されている「インボイス制度」とは、ものすごく乱暴にいえば、私のようなフリーランスで仕事をしている人間にとっては「収入は前と変わらないのに消費税を納めるか、クライアントから仕事を回してもらえなくなるか、消費税分の大幅な値引きをやむなくされるか」を選ばなくてはならない制度──だといえます(2月28日に緩和措置を含む改正案が国会で可決されましたが、時限的なものでもあり、根本的な変更にはなっていません)。
 どういうことか。課税事業者が消費税を納める際には、仕入のときに支払った消費税分をそこから差し引ける「仕入税額控除」という制度があります。たとえばある会社で、売上にかかる消費税が50万円、仕入額に含まれていた消費税が20万円だったとすれば、この20万円を「控除」して、30万円を納めればいいわけです(正確な計算ではありませんが、ざっくり)。
 これまでは、この「仕入税額控除」を受けるためには、帳簿や仕入業者からの請求書を保存しておけば足りました。それが「インボイス制度」の導入後は、業者から受け取った請求書が、決められた形式に則った「インボイス(適格請求書)」でなければ、控除の対象外になってしまうのです。
 控除を受けられなければ、その分消費税を多く納めなくてはならなくなりますから、事業者としては当然、仕入業者にはインボイスを発行してほしいと考えるでしょう。ところが、インボイスを発行するためには、税務署で「インボイス発行事業者」として登録される必要があります。そして、その登録を受けられるのは、課税売上に応じて消費税を納める「課税業者」だけ。課税売上が年間1000万円以下の小規模な企業や個人事業主は「免税業者」として消費税の納付を免除されているのですが、その「免税業者」のままではインボイスの発行ができないわけです。
 仕入業者の側からすれば、課税業者になったら当然ながら、これまでと変わらない収入の中から消費税を納めなければならなくなり、実態としては大幅な支出増になります。かといって、インボイスが発行できないままでは、クライアントから発注してもらえなくなるかもしれない。あるいは、「だったら、控除を受けられない分は負担してね」ということで、消費税分の値引きを迫られるケースもあるでしょう。
 そして「仕入業者」というと、製品の原料・材料の調達がまず思い浮かびそうですが、ここでの「仕入」とは、製品を提供するのに必要なすべての取引のことを指します。イラストレーターやカメラマンなど「フリーランス」のイメージが強い業種はもちろんのこと、個人営業の小さな喫茶店、ネットショップ、大工さんや植木職人、農家さん、俳優やミュージシャン、宅配便やUber Eatsの配達員など、あらゆる業種が(課税売上が年間1000万円以下であれば)インボイス制度の対象になるわけです(ちなみにそれ以外の人にも、さまざまな場面での事務処理の煩雑化、全体的な物価の値上がりなど少なからぬ影響があるとの指摘もあります)。
 フリーでライターの仕事をしている私も、もちろん対象になる一人。冒頭で書いた「仕事先から送られてきた封書」は、そのインボイス制度についての対応を尋ねるものでした。「インボイス発行事業者にならないんだったら仕事は回しません」と書いてあるわけではない、書いてあるわけではないけれども……(明確に「インボイス発行事業者以外とは取引はしません」と書かれたお知らせを受け取った異業種の人の話を聞いたこともありますが)。
 このままいけば、どこかのタイミングで「仕事を失うリスクを抱えて免税業者のままでいるか、年間数十万円の消費税を払うのか」のどちらかを選ぶしかないのかもしれない。そんなことを考えていて、ふと頭に「脅し」という言葉が浮かびました。消費税を払わなければ仕事がなくなるよ。そんなふうに──仕事先からではなく、国から──「脅されている」気がしたのです。
 そういえば、マイナンバーカードについての政策もずっと、そんな感じです。取得は「任意」だったはずが、取得しなければ保険証が使えなくなる、医療費が高くなる、自治体によっては給食費無償から除外される、なんていうところも出てきていると聞きました。これが「脅し」ではなくてなんでしょうか。
 あくまで「任意」のフリをしながら、実際には「言うとおりにしなかったら不利益があるよ」と国民を脅して、言うことをきかせようとする。そんな国に、果たして未来はあるのでしょうか。そう考え込んでしまいます。
 インボイス制度については、各地の地方議会で導入中止や延期を求める意見書が採択されている他、インターネットでの反対署名呼びかけには19万筆以上が集まっています。こちらなどにも詳しい情報がありますので、ぜひ見てみてください。

(西村リユ)

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