子育て、教育、福祉──地方から政治を変えていく。Local Initiative Networkの試み

昨年12月、首都圏を中心に地方自治体の首長や議員らをつなぐネットワーク「Local Initiative Network(LIN-Net)」が立ち上がりました。世話人を務める東京・世田谷区の保坂展人区長、多摩市の阿部裕行市長をはじめ、各地で先進的な取り組みを進める首長・議員らが、公開ミーティングなどを通じてその政策や政治姿勢を共有、自治体間の連携を進めていこうとするものです。すでに開催された2回の公開ミーティングは、これまでにない新しい試みとして、大きな反響を呼びました。ネットワークが目指すものは何なのか、何を実現しようとしているのか。保坂さんと、同じくネットワーク世話人を務める政治学者の中島岳志さんにお話を伺いました。

ほさか・のぶと 1955年仙台市生まれ。世田谷区長、ジャーナリスト。96年に衆議院議員初当選、3期11年を務める。2011年、世田谷区長に初当選。19年、3選。著書に『闘う区長』(集英社新書)『88万人のコミュニティデザイン』(ほんの木)など。中島岳志との共著に『こんな政権なら乗れる』(朝日新書)。

なかじま・たけし 政治学者。1975年大阪府生まれ。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授、未来の人類研究センター教授を兼任。専門は南アジア地域研究、近代日本政治思想。著書に『「リベラル保守」宣言』(新潮文庫)『思いがけず利他』(ミシマ社)『テロルの原点』(新潮文庫)、共著に『いのちの政治学 リーダーは「コトバ」をもっている』(集英社クリエイティブ)など多数。

■自治体同士の連携を深め、政策を共有する

中島 昨年ごろから、地方首長選挙において、与党系の候補が敗退し、いわゆるリベラル、市民派といわれる候補が当選するということが、いくつもの自治体で続いてきました。たとえば、新人候補が現職候補を破って初の女性区長となった昨年6月の東京・杉並区長選がそうです。また、10月の品川区長選でも、混戦の末の再選挙で──一般に、混戦になると与党候補が有利とされているにもかかわらず──元都議の新人女性候補が自民党推薦の候補らを破って当選しました。
 結果を見ていて、東京西部を中心に、ある種の地殻変動のような動きが起こっているのではないかと思いました。それも、単なる与党離れ、野党支持ではない。むしろ、与党も野党もともに支持を得られず、どこにも「勝ち組」がいないというのが、今の政治状況ではないか。そして、どこにも希望が見えない中で、既存の与党とも野党とも違うオルタナティブなものを求める人たちが「地殻変動」の原動力になっているのではないか──。そう感じたこと、そしてその「オルタナティブを求める力」を生かして、新しい政治のあり方を作っていきたいと考えたことが、LIN-Net立ち上げに至った理由の一つです。
 また、ここ数年保坂さんの世田谷区長としての仕事をずっと拝見していたのですが、その中には他の自治体でも生かせるのではないかと思える政策がたくさんありました。特にコロナ禍においては、「世田谷でやっていたようにやればいいのに」と思うことが何度もあったんですね。そうした政策の共有をスムーズに進めていくためには、これまであまりなかった自治体同士の横の連携を日常的に強めておくことが重要なのではないかと感じました。

保坂 政権支持率がじりじりと下がっていく一方で、野党の支持率は上がらず、何を目指しているのかもよく分からない。そうした今の状況を変えていくために、野党再編のようないわゆる「永田町的」な動きを期待するのではなく、むしろローカルな場面に注目していこうということですね。
 事実、国政では動きがなくても、地方自治体レベルでは実績を上げているような政策はいくつもあります。たとえば同性カップルなどを対象にしたパートナーシップ認証制度は、すでに国内人口の6割をカバーするまでに広がってきました。
 同時に、中島さんがおっしゃったとおり、従来の「首長像」に当てはまらない、新しい感覚を持った首長が着実に増えてきてもいる。なぜなのかという答えは私自身も持っていませんが、時代の変化への先駆けだということはいえるのではないでしょうか。LIN-Netは、こうしたローカルの動きをもっと有機的に組み合わせて新しい力を生み出すためのネットワークだと考えています。
 具体的にはまず、公開ミーティングやシンポジウムの積み重ねを通じて、今中島さんに言っていただいた「政策の共有」を進めたい。私自身も世田谷区だけでやっているのに限界を感じる場面がこれまでにもありましたし、環境や教育など、自治体の枠組みを超えても通用する政策はたくさんあると思うのです。

中島 特に重要だと思うのは、「広域性」という問題です。たとえば、世田谷区の区立保育園で使われている電気は、実は長野県の水力発電所でつくられていたりします。あるいは、区内にも花粉症で苦しんでいる人はたくさんいると思いますが、この背景には関東のほとんどの里山が荒れているという問題があって、これは群馬や栃木などとも連帯しないと絶対に解決できない問題です。
 また世田谷区では、道路を浸透性舗装にするなどの「グリーンインフラ」によって、大地の保水力を高めて浸水被害を防ぐという取り組みが続けられています。これなども、区内だけで解決できる問題ではありませんよね。こうした「広域性」も視野に入れながら、政策の共有を進めていければと思います。

これまでに開催されたLocal Initiative Meeting

●第1回 2022年12月9日
「統一自治体選挙に向けて、地域・自治体からボトムアップ」
対談:保坂展人(世田谷区長)、中島岳志(政治学者) 
発言:阿部裕行(多摩市長)、岸本聡子(杉並区長)
※ダイジェスト版動画がLIN-Netのホームページから見られます

●第2回 2022年12月29日
「自治体だからこうして変えられる」
・問題提起
  保坂展人(世田谷区長)
  中島岳志(政治学者)
  阿部裕行(多摩市長)
・自治体の可能性について語る 福祉/子ども・教育/環境
  ~自治体議員、市民から
・フリーディスカッション

■「いのちを最優先」する政治

保坂 また最近、米軍基地の消火剤に由来するのではないかといわれている有害物質(PFOSなど)が大量に多摩川の地下水系に入り込んでいるという問題が報道されています。これもまた、市や区の境を簡単に越えて人の暮らしに影響を与えていく問題です。LIN-Netでも当然考えなくてはならないでしょうし、ネットワークに加わっていないところも含めて、関係自治体が集まり、原因究明や再発防止、水質の浄化などに取り組んでいくべきだと思います。

中島 地下水の問題ですから、広域性を考えないと絶対に対策は取れませんね。

保坂 そして、このPFOSの問題もそうですが、LIN-Netで政策を共有していく上で一つの大きな基軸になると思うのが「いのちの最優先」という考え方です。
 コロナ禍の中では、感染が広がっている状況にもかかわらず「Go to キャンペーン」が行われるなど、度重なる政策の失敗によって多くの命が失われてきました。今、政府は5月にはコロナを感染症法上の「5類」、季節性インフルエンザなどと同じ分類にしようとしていますが、その議論が出てきたのは、第8波で死者数が過去最多を更新していた時期でした。ウイルスの変異についてもまだ警戒が必要だといわれていますし、大勢の人が亡くなっていっているのに、それを横目で見ながら規制緩和を進めていくというのは、政治の質としておかしいのではないかと思います。
 そうして国が「いのちを守る」ために有効な施策をとれずにいるときに、最前線で対処を迫られるのはやはり地方自治体です。その自治体が現場からの視点をもってさまざまな政策を共有し、さらに国に提言していくことも考えるべきではないでしょうか。。

中島 私も、コロナの問題というのは決して軽んじるべきではないと思っています。大半の健康な人たちにとっては、規制の緩和は歓迎すべきことかもしれませんが、一方で基礎疾患のある人、高齢者などにとってはリスクが高まることにほかなりません。「どんどんマスクを外していこう」という空気の中で、見捨てられたと感じ、恐怖を覚える人は必ずいるはずだと思います。
 そのように、ある意味で「いのちの選別」が行われているような状況を、「いのちが最優先されている政治」といえるのか。私は、やはり政治というのは一番弱いところから考えていくべきだと思います。かつて首相を務めた故・大平正芳が「政治とは、明日枯れる花にも水をやることだ」という言葉を遺していますが、「枯れる花」にも政治は水をやってくれるんだという安心感が、国民全体の安心感にもつながっていく。そのことをふまえた「いのちを最優先」する政治を、LIN-Netでは考えていかないといけないと思っています。

■子育てにおける「安心感の醸成」

中島 また、政策共有を進めていきたいと考えているテーマの一つが子育て、そして少子化対策です。
 私は少子化対策においては、「子育てにおける安心感を醸成すること」が非常に重要だと思っています。夫婦や家族だけで子育てを抱え込むのではなく、いろいろ相談に乗ってくれたり、支えてくれたりする人が地域にいる。また希望すれば待機児童になることなく保育園に入れる。小学校に上がって不登校などの問題が出てきても、フリースクールなど受け皿になる場所がしっかりとある……。そうした、総合的なパッケージとしての安心感を生み出すことが、子どもを持とうと考える人を増やすことにつながると思うのです。
 世田谷区にも、妊娠期から就学前までの子育て家庭を支える「世田谷版ネウボラ」などの制度がありますね。

保坂 かつての民主党政権における「子ども手当」に、自民党は強く反対しました。そのように、今の政権与党には「子育ては親の責任でやるべきだ」というスタンスが強くあって、それが少子化の進行につながっているのは確かだと思います。
 今触れていだいた「世田谷版ネウボラ」は、フィンランドの取り組みを参考に始めたものです。妊娠の段階から、保健師などの専門家を含む「ネウボラ・チーム」が妊婦さん一人ひとりについて、出産や子育てに関する相談に乗ってくれます。赤ちゃんが生まれた後もチームが家を訪ねたり、検診のときに面談をしたりして、継続したサポートをしていく仕組みです。
 また、特に孤立しがちな乳幼児期の子育てを支えるため、区内68カ所に「おでかけひろば」という、子育てについての情報交換や悩み相談ができる場所を設けています。それだけの数があれば、どこに住んでいる方でも、徒歩圏内に一つはひろばがあることになる。うち5カ所にはワークスペースが設けられていて、子どもを見てもらいながら仕事をすることもできるようになっています。

中島 そうした世田谷の取り組みも含め、各自治体の状況や取り組みを共有していくことで、新たな政策も生まれてくるかもしれません。

保坂 また、私は国政における少子化対策の議論にも、強い違和感を持っています。出産一時金の増額や給食費無償化などの支援策はもちろん重要ですし、世田谷区でも同様の取り組みは進めています。ただ、それだけが少子化対策のすべてであっていいのかと思うのです。
 というのは、特に団塊ジュニア世代以降には、そもそも子どもを産むこと自体を断念せざるを得なかった人たちが大勢いるからです。非正規の低賃金労働などで生活が安定せず、とても子どもを持つような余裕を持てなかった人たちですね。しかし、そうした存在を生み出してしまった賃金構造や雇用形態などの問題に取り組み、生活の底上げを図っていくということが、少子化対策においてはほとんど語られていません。

中島 そもそも岸田首相は首相就任前、新自由主義の抜本的な見直しを掲げていました。その延長上にある少子化対策として労働雇用形態の問題にメスを入れるというのであれば理解できるのですが、まったくそうはなっていませんね。
 そうした、国政に欠けた視点も含めた議論を進めるためのプラットフォームに、LIN-Netがなっていけばいいなと期待しています。

■市場を健全に機能させるために、行政が介入する

保坂 それから、ぜひ広く共有していきたいと考えているのが「公契約条例」です。公契約とは、自治体が公共工事・事業の入札をしたり、企業や団体に委託したりする際に結ぶ契約のこと。世田谷区ではその公契約において、事業に携わる労働者の報酬が労働報酬下限額を下回ってはならないと条例で定めています。現在は時給1170円が最低額ですが、4月1日からはさらに引き上げて1230円とする予定です。
 ここには、ただ公共事業における最低賃金を保障するという以上の意味があります。いろんな現場に労働者を派遣している企業や団体だと、世田谷区の現場に行く人は時給1230円、でもすぐ隣の区の現場に行く人は、同じ作業をするのにそれより低いというわけにはなかなかいきません。結果、隣の区の現場に行く人たちも同じ賃金を得るということになって、世田谷区だけではなく近隣地域全体の賃金底上げにつながるんですね。
 またもう一つ、公共事業における入札の際に、金額だけではなくさまざまな要素を総合的に評価して落札者を決める公契約条例も定めています。地域防災への取り組み、ワークライフバランス、ジェンダーバランスなど8項目があり、それぞれの項目において優れていると判断されれば相当加点がもらえる仕組みです。その加点によって、提示した金額は他の事業者よりも高くても落札できるということが実際に起きているんですね。企業の公共的な役割を理解している企業が評価されるわけです。
 こうした仕組みは、事業者側、労働者側双方に歓迎されていると感じています。

中島 かつて公共工事などにおいて行われていた「談合」はもちろん批判されるべきものではあるけれど、実はよかった点もあると思うんですね。つまり、談合によって地域の事業者に優先的に仕事が回ってくることで、地域の事業者と行政との間に信頼関係が生まれていた。それによって、たとえば災害が起きたときなどには事業者が地域のために奔走してくれたりもしたわけです。
 ただ、問題はその談合が、裏で見えない形で行われていたこと。そうではなく、公契約条例によってきちんと金額以外の基準をオープンにした上で、行政が「地域に貢献してくれている事業者を支えていきます」というのは、むしろいいことなのではないでしょうか。かつての日本のよかった点をオープンな形で制度化していくという意味でも、公契約条例はもっと広がるべきだと思います。

保坂 とにかく金額が優先、1円でも安い額を提示した事業者が勝利するんだという新自由主義的な価値観は、各地で手抜き工事などを引き起こしてきた原因の一つでもあると思います。また、特に建設業界などでは、入札時に安い金額を提示しようとするあまり、工事を受けるたびに赤字、なんていうこともあったようです。十数年前には、労働者に日給8000円払うのが精一杯、経営者でも子どもに「この仕事を継げ」とはとても言えない……そんな悲鳴のような声が聞こえてきていました。そうした声から生まれてきたのが公契約条例だったのです。
 そこで公契約条例を制定するということは、行きすぎた新自由主義を是正するということでもあると思います。すでに取り入れている自治体もたくさん出てきていますが、条例の内容や運用についても、情報を交換してお互いに参考にしていきたいですね。

中島 資本主義的な社会が健全に機能するためには、非市場的主体の介入が絶対に必要だと思います。公契約条例はその典型で、行政というのはやはり非常に力があって、市場の中の問題点を是正していく力を持っているんですね。賃金が上がって収入が増え、みんなが欲しいものを買えるという循環をつくらなければ、市場は健全に機能しません。そのための手入れを行政がしていくということです。
 すべてを市場に委ねれば市場が健全に機能するというのは大きな誤解で、健全に機能するためにこそ公的な介入が必要。この考え方をしっかりと共有していくことが大事だと思います。

■多様な意見を積み上げていく「熟議デモクラシー」

保坂 また、ここまで挙げてきたような政策の共有に加えて、政治手法の共有を進めていくことも、LIN-Netの重要な役割だと考えています。
 自分で政策を決めて、優先順位を決めてどんどん実行に移していく、そういうタイプの首長もいますし、リーダーにはそういう面もたしかに必要なのですが、それだけではなく、まずは住民が区政や市政に何を望んでいるのかに耳を傾ける。トップダウンではなくボトムアップの形で、さまざまな人の意見を積み上げながら政策を形成していく、そうした「熟議型デモクラシー」のあり方を共有していきたいと思うのです。

中島 世田谷区でも、住民の声を聞き、ニーズを汲み取る場として、少人数での「車座集会」を区内各地で開かれていますね。

保坂 区長就任直後からずっと続けています。ただ、それだけでは自分から集会に出てくれる人、地域で何かの委員をやっているような人の声ばかりを聞くことになりがちです。そこで、10年ほど前からは、無作為抽出方式で区民に案内状を送ってのワークショップも開催してきました。
 初めにこのワークショップをやったとき、そのレベルの高さにまず驚きました。討論は5時間に及びましたが、非常に豊富なアイデアが出て。皆さん、コミュニティや区政に関心はあるけれど、参加するきっかけがなかった、また機会があればぜひ参加したいと口々におっしゃっていました。
 そのとき痛感したのは、日本社会というのはずっと、知識や情報を持っている行政や政治の側が、何も知らない住民にいろんなことを教えるんだという感覚で動いてきたけれど、実情はまったく逆転しているんじゃないかということです。行政や政治の場にいる人たちは、むしろ世の中の変化に疎い。一方で、無作為に集まった人たちは仕事や子育ての第一線にいる人も多く、激しく変化する社会状況を一番よく知っているわけです。そこから出てくる意見は、政策を作る上ですごく参考になると確信しました。
 この無作為抽出──いわばくじ引きで意見を聞くという手法は、他の自治体にもかなり広がってきていますね。

中島 くじ引きデモクラシーは、政治学の世界でもこの10年ほど非常に注目されています。希望者を募る形だと、どうしても集まる人の年齢などに偏りが出てきてしまう。そこを解消する一つの手法がくじ引きなんだと思います。
 そして、このくじ引きというのは、デジタル技術とも非常に相性がいい。多くの人が民主主義に参加していくためには、労働環境などを改善して時間的な余裕を作っていくことが大前提になります。しかし、一気にそれを実現するのが難しいのであれば、オンラインミーティングやSNS など、デジタルを利用して意見を寄せてもらう。そうした「参加」のいろんなバリエーションを作っていくことは、これからとても重要になってくるのではないでしょうか。

保坂 少し前に、長野市で「子どもの声がうるさい」というクレームを理由に公園の廃止が決定されて批判が集まりましたが、実は世田谷区でも10年ほど前、似たようなことがありました。ある保育園に子どもを通わせている親御さんから、「近隣からうるさいというクレームがあって、子どもたちが午後は園庭で遊べなくなっている」という相談が寄せられたんですね。
 この問題についてTwitter上で取り上げ、「子どもの声は騒音なのか」と問いかけたところ、非常に多くの人が意見を寄せてくださったんです。多くは「騒音ではない」という意見でしたが、中には「聴覚過敏症なのでつらい」「クレームを言ったら村八分ということにならないようにしてほしい」などの貴重な意見もありました。
 そこで、せっかくなのでリアルで話し合いの場を設けたところ、70〜80人が集まってくれたんです。すでにTwitterで意見を交換し、問題点を共有できていたこともあって、非常に実りある議論になりました。まずはデジタル上で多くの人が意見をぶつけ合って、それを集約したり、ときにはリアルの集会を開いたりしながら合意形成をしていくというのは、とても有効な手法だと思います。
 日本では現状、デジタルは統治のための効率化を進めるツールとして語られることが多いですが、多様な意見を行政や政治に反映させるデジタルデモクラシーのツールとしても、もっと活用できると思います。

中島 デジタルは、住んでいる場所が遠かったり、時間的な制約があったりしてなかなか意見交換の場に出られなかった人たちにその機会を与えるという点でも、非常に大きな意味がありますよね。重要なのは使い方ですから、デジタルをデモクラシーにどう生かしていくのかも、もっと考えていきたいと思います。

■地方から、国政のあり方を変えていく

保坂 今、国政の場においては、「選挙で勝てば全権委任」だという論理がまかり通っていると思います。その中で、原発や安全保障についてなど、さまざまなことが国民不在のまま決められてきました。LIN-Netでこうした熟議デモクラシーの手法を共有し、発信していければ、どうして国レベルではこれができないのかという話にもなっていくのではないでしょうか。
 たとえばスペインでは、社会労働党などの伝統的な政党が力を失った一方で、政治を「特別な世界」にしない新しい感覚を持った若い世代のグループが生まれ、バルセロナ市長を当選させるにまで至りました。そして、そうした自治体からの動きが横に連鎖し、より大きな変化を生み出していっています。
 日本ではまだそこまで行っていないけれど、まずは地方自治体で教育や保育、福祉といった現場のあり方を転換させていく。そしてそれを、LIN-Netを通じて発信していくことで、国政の場に影響を与えていくことはできるのではないかと思います。

中島 基礎自治体という、もっとも根っこの部分からいろんな問題を考えていく。同時に、そこに広域性を持たせることで、国全体をも変えていく。これもまた、一つのボトムアップの手法だといえるでしょう。これまでに何度も繰り返されてきた、新党をつくって既存政党に対抗するのとは違う民主主義モデルを考えてみたいという思いがあります。
 だからこれは、春の統一地方選に向けてのパフォーマンスではないんですよね。むしろ、地方選が終わった後が重要なんだと考えています。ここから、より多くの方たちに注目していただきたいですね。

(取材・構成/仲藤里美)

Local Initiative Meeting Ⅲ
地域からの新しい選択
気候危機と自治・民主主義

3/13(月)開場18:00 開会18:30~21:10
@北沢タウンホール(定員250名)&オンライン
参加費 999円

★参加申込はこちら
https://lin-net3.peatix.com

*記事を読んで「いいな」と思ったら、ぜひカンパをお願いします!