『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり』(2013年日本/中村真夕監督)

 2011年の福島第一原発事故の後、全域が避難指示区域に指定された福島県・富岡町。誰もいなくなった町の一角で一人、取り残された動物たちの世話をしながら暮らす男性──「ナオト」の姿を、13年からの8年間にわたって追い続けたドキュメンタリーである。
 監督の中村真夕さんがトークイベントで語っているところによれば、当初はテレビ番組にするつもりだったけれど、「原発から至近距離の場所でひとり暮らすナオトさんの存在は国内メディアではタブー視され」、テレビ局に企画が通らなかったことから、映画化を決意したという。15年にその第一作『ナオトひとりっきり』が公開、本作はそれに続く続編だ。
 ナオトさんはもともと建設業界で働いていて、特に動物に関係する仕事をしていたわけではない。ただ「人の人生を金で解決しようとする不条理、命を簡単に“処分”しようとする理不尽に納得できず」ひとり残った町で動物たちの世話を始めた。犬や猫はもちろん、ダチョウ、ポニー、牛の「殺処分」を拒否した元畜産家の老夫婦から預かった「愛牛」たちもいる。
 カメラは、そのナオトさんと動物たちの8年を、静かに映し出す。生まれたばかりの子猫の世話をし、死んだ動物のお墓を作るナオトさん。人がいなくなっても季節は移り、去る命とやってくる命があり、春になれば花が咲き誇る。かつてよりも豊かに生い茂る緑の中、動物たちが自由に周囲を駆け回り、川に下りて思うまま水を飲む様子は、ある意味では「桃源郷」のようにも見える。
 その一方で、そこにはふとした瞬間に矛盾も垣間見える。ナオトさんは、今後の生活の糧になればと蜜蜂を飼い始めた。しかし、保健所から「県内の養蜂家のハチミツからセシウムが検出されて自主回収になったから気をつけて」との通知が来て、「そんなの蜂に言ってくれよ」とぼやく。
 そして、13年に開催が決定された「復興五輪」(福島市は野球とソフトボールの会場になった)。開催に向けて猛スピードで「復興事業」が進み、17年の4月には町の面積の9割で避難指示が解除されたが、戻ってくる住民は「年寄りばかり」。ナオトさんに牛を預けた元畜産家の夫婦は「5〜6年したらこの世さいねえ人ばっかりだ」と笑う。避難指示が解除された場所とされていない場所とは、放射線量もさしたる違いはなく、何によって線を引かれているのかもよくわからない……。
 原発事故から10年以上、「復興五輪」からも1年以上が過ぎて、こうした現実が自分の中ですっかり「遠いもの」になっていたことにも気づかされる。けれどナオトさんが「10年過ぎても、(この場所は)時が止まったまんまだ」とつぶやくように、何も終わってなどいないのだと、改めて思った。
 映画の終盤、ナオトさんと元畜産家の夫婦がそれぞれ監督との会話の中で、原発について語る内容も、少なからず衝撃だった(これはぜひ、映画を見て実際に聞いてみてほしい)。住み慣れた環境を、穏やかな暮らしを奪われた人がそれでもなお、原発の存在を否定しきれない複雑さ、難しさ。ここにも、「当事者」ではない私たちが目を背けてはいけない矛盾が色濃くあると感じた。
 

(西村リユ)


『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり』
東京・イメージフォーラム、神奈川・横浜シネマリンにて公開中、ほか全国順次公開
公式サイト:https://aloneinfukushima.jp/

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