韓国ドキュメンタリー映画『差別』を福島で上映する(牧内麻衣)

マガジン9で『中村さんの俳句と福島の11年』を連載してくださっていた物書きユニット・ウネリウネラの牧内麻衣さんから、6月23日(金)~29日(木)までフォーラム福島で開催される上映会についてのお知らせをいただきました。

 3月下旬SNSを眺めていると、興味深い映画の情報が流れてきた。映画は『差別』(2021年韓国/キム・ジウン、キム・ドヒ共同監督)というタイトルで、4月のはじめにオンライン上映会が開催されるという。

 作品説明には「朝鮮学校無償化訴訟を2017年から2019年まで追った韓国のドキュメンタリー」とあった。オンライン上映会で映画を見て胸を衝かれた私は、なんとかこの作品を多くの人々と共有し、問題について語り合う場を設けたいと思った。この映画のテーマとなっている訴訟について、ほとんど関心を払ってこなかった自分を恥じた。

 全国に10校ある朝鮮高級学校は、2010年度より施行中の日本政府の高校授業料無償化政策から唯一対象外とされている。これに反発した5つの朝鮮高級学校(愛知・大阪・広島・福岡・東京)の生徒たちが2013年以降、不指定処分の取り消しなどを求め、国を相手取り裁判を起こした。高校授業料無償化の対象には外国人学校も含まれているが、朝鮮学校だけが除外されている。

 普段ははじけるような笑顔で生活する子どもたちが、裁判という重く高い壁に立ち向かうなかで、時に激しく、時に静かに、心の内の葛藤や疎外感を痛切に訴える。作中に映し出されているのは、大人同士の政治や外交をめぐる闘争ではない。子どもたち自らが教育を受ける権利、人権について懸命に語り、自分たちのことを「恥ずかしい存在ではない」と叫んでいるのだ。
 こんな悲しいことを続けさせてはならない。問われているのは、「大人」であり「無関心であった私」だと感じた。

 オンライン上映を企画した有志の方々に連絡をとると、すぐに監督を紹介してくださった。福島県福島市の映画館「フォーラム福島」支配人の阿部泰宏さんの全面的なバックアップもあり、福島上映会の企画はあっという間に進んだ。

 5月のある日、『差別』福島上映会に関する番組の収録のため、阿部さんとふたりで、郡山市のラジオ局に出かけた。事前に資料や書籍を読み込み、朝鮮学校をめぐる問題と作品の意義について語った阿部さんは、終盤ふと、こんなことを漏らした。

 「福島にいる人たちはみんな、多かれ少なかれ『差別』を経験しているじゃないですか。あのどうしようもない疎外感を体験した人には、何がしか伝わるものがある、共感できることがあると思うんです。福島でこの作品を上映することで、良い化学反応が起こることをぼくは期待しています」
 言うまでもなく、2011年3月の東日本大震災と原発事故のことだ。当時福島に暮らしていなかった私の口からは語ることのできない、重い言葉だった。

 オンラインやコミュニティ上映を除き、日本国内でこの作品が劇場公開されるのは大阪の「シネ・ヌーヴォ」に続き2館目。その希少性でも、ゲストへの興味でも、劇場の前を通りかかったということでも、きっかけは何でも良いと思う。ぜひ多くの人たちに作品を見てもらい、一緒に想像してほしい。
 あなたのすぐ隣にも、深い疎外感を胸のうちに秘めて生き延びている人たちが大勢いるということを。

(牧内麻衣)

映画『差別』福島上映
https://chabyeol.uneriunera.com/

期間:2023年6月23日(金)から6月29日(木)
各日13時/17時40分からの2回上映
場所:フォーラム福島(福島市曽根田町6-4)
料金:前売り1100円(招待券は不可) ※フォーラム福島窓口にて発売
   当日一般1800円/大学専門学生1500円/高校生以下1000円/
   シニア(60歳以上)1100円/障がい者1000円(付き添いの方1名様まで適用)
トーク:
6月24日(土)13時の回終了後 
  東京大学准教授 福永玄弥(ふくなが・げんや)さん
6月25日(日)両回終了後
  東京純心大学教授 佐野通夫(さの・みちお)さん
6月27日(火)13時の回終了後 
  元拉致被害者家族連絡会事務局長 蓮池透さん(はすいけ・とおる)さん
監督来場:6月26日(月)夕~最終日まで、キム・ジウン監督
各日17時40分の回上映後アフタートーク

【本件お問い合わせ・取材のお申込み】
フォーラム福島
https://www.forum-movie.net/fukushima
TEL 024-533-1717


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