第650回:最強の平和・反戦の祭り10日間〜アジア各国から有象無象が押し寄せ連日交流しまくる「NO LIMIT 2023 高円寺番外地」。の巻(雨宮処凛)

 とうとう「祭り」がやってくる。

 この数年、待ちわびた祭りだ。

 それは9月22日から10月1日にかけて開催される「NO LIMIT2023 高円寺番外地」。

 マガジン9の松本哉氏の連載「世界に激震! 久々の超巨大イベント『高円寺番外地』が勃発!」でも触れられているが、東京・高円寺に有象無象のアジア人(主に貧乏人)たちが押し寄せ、連日ライブやイベントやデモなんかで交流しまくるのである。

 首謀者は、やはりこの人。3・11以降、アジア各地に繰り出し、言葉の壁を酒の力で突破して友達を作りまくってきた松本哉氏。

 ちなみにこの取り組みは今回が4回目。

 1度目は2016年、安保法制が成立した翌年、東京で「NO LIMIT 東京自治区」として開催された。

 安保法制が成立し、なんだか国同士の対立が煽られてるけどアジア人同士仲良くしまくろうということで開催されたのだ。松本氏の呼びかけに応えて、韓国、中国、台湾、香港などなどからアーティストやミュージシャン、活動家、ただの一文無しや酔っ払い、柄谷行人ファンの中国人、橋の下に住むという台湾のバイオリニスト、インドネシアのバンド(むっちゃダーク系のロックバンドなのにのちに王族の子孫と判明、一同を驚愕させる)など200人ほどが押し寄せ、初日には「アジア永久平和デモ」を開催。

 以降、ライブやイベントやワークショップで連日一緒に遊びまくり、夜になれば高円寺の路上で飲み、歌い踊り、最終日には「鎖国反対パレード」という名のデモで締めくくり。結局は飲みすぎて10人以上が帰りの飛行機に乗り遅れるわ、そのまま国際結婚するカップルは現れるわで大変な騒ぎになったのだった。

 そんな交流に味をしめ、その翌年には韓国で「NO LOMIT ソウル自治区」が開催。もちろん私も駆けつけ、アジア永久平和デモや数々のイベント、飲み会、ライヴなどに参加。韓国語は一言もできないのに毎日韓国人と大騒ぎし、存分に交流を楽しんだ。

 その翌々年にはインドネシアで「NO LIMIT ジャカルタ・バリ」が開催。これには参加できなかったのだが、このように、アジア人たちが交流し、一緒に遊びまくることで世界平和が実現するという「NO LIMIT」が続いてきたのである。まさに飲酒活動という名の反戦・平和運動だ。

 しかし、ここ数年はコロナ禍で中断。それが今月数年振りに、日本では7年ぶりに開催されるのである。

 9月22日から10月1日まで、連日50ものイベントなどが開催される予定。

 詳しいスケジュールはこちらこちらで確認してほしいが、注目は「寝そべり族」のイベントだ。

 「寝そべり族」。21年頃から競争の激しい中国の若者の間で「向上心がなく消費もせず寝そべるだけ」というムーブメントが広がり、私は「中国版・だめ連!」と熱烈に注目し、「『競争、疲れた……』中国・寝そべり族出現について、日本の『だめ連』に聞く」などの原稿を書いてきた。そんな寝そべり族は誰がいつどこで始めたか、そこから不明で「自分は寝そべり族」と名乗った者が寝そべり族なのだが、21年には中国各地で「寝そべり主義者宣言」という文書がばらまかれ始める。それを入手した松本哉氏が日本語に翻訳して昨年1月以降、販売され始めたのだが(一般流通はしていない)、すぐに2000部とか売れていて、日本でも大注目されているのだ。

 「高円寺番外地」には、その寝そべり族関係の中国人も来るということで、私もイベントに出演させて頂くことになった。

 話してくれるのは、上海で「怠け者の家」をやっている羅渣さん、松本哉さん、そして私。「中国寝そべり主義と怠け者の家」というタイトルで、9月24日18時から高円寺のSUB STOREで開催される。料金は「自由定価」とのこと。ぜひ来てほしい。

 また、29日にも注目のイベントがある。それはこの連載でも取り上げ、現在全国の大学に増殖中の「だめライフ愛好会」と、90年代に台頭した「だめ連」、そしてやはり中国・寝そべり主義によるトークバトル。題して「世界ぐうたら抵抗運動 ついに衝突?」。

 チラシには「のんびり&マイペースで開き直ることによって窮屈な社会に立ち向かう古今東西のぐうたら抵抗者たちが、重い腰を上げてついに集結!」という言葉が踊る。

 だめ連からは神長恒一氏が、そして中国からは寝そべり主義に詳しい草世木氏が、そしてだめライフ愛好会からは誰かが参加。場所は高円寺のAMPcafeで19時から。司会は松本哉氏で1000円。

 と、これは10日間にわたって開催されるイベントのほんの一部だが、他にも脱力系だったり焚き火だったり辺境だったりと個性豊かすぎるイベントが目白押し。最終日は「全部に反対デモ」だ。

 全部に反対とは、「物価高い/税金高過ぎ/給料は安いまま/無意味な再開発やめろ/インボイスいらねえ/金ばかりの世の中要らねぇ/保険証返せ/好き勝手遊ばせろ/国境邪魔くさいand more」。

 中国と日本のみならず、アジアの、世界の貧乏人が久々に集まって連帯しまくるのである。

 これこそが、私たちが目指すべき社会ではないか。なんたってあまり働かないだめな貧乏人ばかりだから非常にエコだしSDGsだ。しかも最強に「反戦」を体現している。なぜなら、基本家でぐーたら寝ている人たちだ。まかり間違って戦争なんかになって「突撃!」とか命令されても「いや眠いんで」で終わりだ。しかもまっすぐ列に並べない。体力がない。人の言うことを聞かない。これらすべて「戦力にならない」特徴で、これほど平和を体現している人たちはいない。

 ということで、台湾有事が叫ばれ、日本の「処理水」問題で中国との対立が煽られる中、中国、韓国、台湾、香港、インドネシアなどなどの人たちとともに遊びまくる10日間。

 ちなみに最近、私の『非正規・単身・アラフォー女性』が中国で出版されたのだが、その背景には、中国の状況が日本と似ていることがあるらしい。中国だけではない。私の格差・貧困系の本は韓国でもっとも多く翻訳出版されているが、その理由は、韓国も日本と同様の格差社会で不安定雇用が広がり、正規雇用や結婚、出産、マンションを買うことなどが「夢のまた夢」になっている現実があるからである。

 また、松本哉氏の『貧乏人の逆襲』は、韓国ではベストセラーで、台湾でも出版されている。松本氏の本を読んで、「高円寺にとてつもないマヌケな活動家がいるらしい」と韓国や台湾から多くの人が来るようになったことが、そもそも「NO LIMIT」の始まりのひとつでもある。

 アジアの貧乏人たちは、市場原理主義の中、「こんな社会は嫌だから変えよう」というよりは、「こんな社会くだらないから自分たちで勝手に始めてしまおう」ということで、勝手にいろいろやっている。それが寝そべりだったりだめライフだったり、そして高円寺番外地だったりするのだと思う。

 私はこの動きが、世界最先端だと思っている。

 そんなノーリミットのチラシに踊るのは以下の言葉。

 世界では紛争や戦争が多発していたり、そのせいもあって行き場を失う難民も増え、差別やら格差拡大やらも各地で発生しまくり、なんだか大変なことになってきてる。
 ここアジア圏でも他人事ではなく、以前に増して国と国の間での不穏な空気感はます一方。
 そんなものに巻き込まれて、こっちまで分断されたり各所で仲が悪くなったりしたんじゃ、たまったもんじゃない。
 ってことで、こっちはこっちで勝手に仲良くするしかない!
 特に、巨大な金もうけ路線に巻き込まれずに勝手にやってる独立文化、水面下で自由に暗躍するカウンターカルチャーとしての地下文化などなど、そんな交流圏にとっては、国も国境もヘッタクレもあったもんじゃないし、そんな障害物は全部無視して勝手に国を超えた文化圏を作ってしまう方が面白い。
 例の謎の奇病によって閉じられていた各国の国境がついに開かれ始めた今、そのブランクを一挙に埋めにかかってしまおう。そして、世界的な停滞を余儀なくされたこの3年の間、高円寺周辺では大量の独立文化・地下文化スペースが相次いでオープンするという、世界の流れに完全に逆行する謎の現象が起きた。
 そんなこともあって、今年2023年に、ここはひと肌脱いで、世界の地下文化に対して高円寺への集結を無責任に呼びかけてみたい。名称は”高円寺番外地”。
 番外地とは、地図上で割り振られた秩序の外にある場所のこと。突如出現する高円寺番外地は、中野や阿佐ヶ谷をはじめ周辺エリアをも巻き込みつつ、既存の秩序外の謎の無国籍社会を登場させてしまうという、とんでもない10日間!
 こうなったらむやみに集い、全部ゴチャ混ぜの大バカたちが一緒に遊びまくる祭りを行い、独自の秩序を体験するしかない!
 祭りだ祭りだ! 遊びだ遊びだ!

 最高に楽しいに決まってる10日間。私も本気で遊ぶ所存である。

 ちなみに9月22日発売の「週刊金曜日」は松本哉氏と私が表紙で、高円寺番外地が特集されているのでこちらも要チェック。

 開催中、どこかの路上で会おう。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。