住民説明会は何のため? 繰り返された「ご理解を得たい」に覚えた違和感(中村)

 東京杉並区の善福寺川沿いは、緑が多く、散歩をしたり、ランニングをしたり、子どもたちの遊び場があったり、自然に囲まれたいやしの場として年代を問わずに多くの人たちに愛されている場所です。私も区内に引っ越してくるとき、この場所にひかれて近くで部屋を探したこともありました。地域にとって大切な場所です。

 ここに「善福寺川上流調節池(仮称)」を造る計画があります。時間最大75ミリの降雨に対応するため、計約30万立方メートルの水を取りこめるトンネル式調節池を上流に設置して水位を低下させ、下流の浸水被害を防ぐというもの。原寺分橋付近、区立関根文化公園、都立善福寺川緑地の3か所に深い立坑を掘り、取水施設や管理棟も建設予定です。もともとは前区政のときに杉並区が「水害対策を進めてほしい」と都に要望を出して進められてきた計画だそうです。

 実は、区内に住んでいながらこの計画のことをよく知らなかったのですが、反対の署名運動が起きていると聞きました。善福寺川沿いではこれまでも豪雨の際に水害が起きており、対策の必要性は周辺住民の人たちも感じていること。何がそんなに問題になっているのだろうかと思い、先週20日に東京都建設局が杉並区役所内で開いた「善福寺川上流調節池(仮称)について」という住民説明会に参加してきました。会場に着いてみると、定員100名と聞いていたのですが、定員を超えるおよそ180名もの幅広い世代の区民が集まっていました。小さなお子さんを連れた若いご夫婦などの姿も少なくありません。

 最初に行われた東京都建設局による説明では、近年の水害リスクの高まりと整備の必要性、調節池を造ることで浸水被害が防げること、地下にトンネルを掘るシールド工法は安全なので心配ないこと、今後の進め方などなどが説明されました。普通に聞いていたら「そうか」と思いそうな内容です。

 しかし、都による説明よりも、質疑応答の時間になってから参加者の発言でわかった情報のほうがたくさんありました。工事には10年以上かかる見込みで、約5.8キロメートルものトンネルを掘ること。費用が約1000億円と見積もられていること。同じようにシールド工法でトンネル工事を進めていた調布市では地盤沈下が起こっていて心配なこと。善福寺川緑地の「ロケット公園」や西荻窪にある「関根文化公園」など子どもたちが多く利用している遊び場が使えなくなってしまうことなどなど……。善福寺川では、これまでも調節池や護岸整備、流域対策などが進められて効果も出てきているのに、ここまで大規模なトンネル工事が本当に必要なのか? と問う住民もいました。

 もっとも私が驚いたのは、原寺分橋付近の敷地で20軒以上の住宅が立ち退きになるという話でした。このことは参加者の方が質問するまで、都の説明では一言も触れられませんでした。「住民の合意はとれているのか」という質問に「これから地権者の方々に丁寧に説明させていただきたい」と回答したのにもさらに驚きました。東京都都市計画審議会でこの計画が審議にかけられるのは2月6日。この説明会から2週間ちょっとしかありません。「これから丁寧に説明」というのが本当なら、あんまりではないでしょうか。

 昨年8月末に周辺住民への都市計画素案説明会が開催され、都は対象区域にチラシを配布したというのですが、「知らなかった」という住民の声もありました。今回の都による住民説明会も本来は予定にはなかったものの区からの要望で実現したそうです。工事計画の一時中止を求めている区議もいますが、この工事は都の管轄。しかし、これだけ多くの人たちが質問している様子をみても、とても住民が納得しているとは思えません。

 終了予定時刻を2時間超えても、参加者からの挙手は止まりませんでした。「子どもたちが遊んでいる公園はなくなるのでしょうか」「工事が始まったら、どのくらいのトラックが出入りするのでしょうか」など、工事予定地周辺の住民にとっては切実なことばかり。しかし、「詳細設計が進んでから、また説明の場を設けてご理解を得たい」と質問には回答せず、保留にされることも多くありました。

 環境や住民への負荷がかかる大規模工事ではなく、代わりに「グリーンインフラの整備を進められないか」「善福寺川に雨水が流れてくる武蔵野市側での対策を進められないか」「河川に流れ込む雨量を減らす流域対策を増やせないか」などの提案にも、「ご意見は参考にいたします」というばかりで、計画を真剣に再検討してみようという姿勢は感じられません。これでは住民の不安も疑問も意見も宙ぶらりんのまま。とうとう「(計画に)賛成するつもりだったけど、あまりに不誠実だ。これだけ反対意見が出ているのに審議会にかけるのか」という憤りの声まであがっていました。

 審議が通ったあとから詳細な説明を聞かされても、もう住民が変えられることはほとんどないでしょう。計画が進めば、10年以上という長期にわたる工事が始まり、後戻りできません。自分や子どもたちの住環境はどうなってしまうのか、事故が起きる危険性はないのか、代替案を真剣に検討したのか、「住民参加」はどこにあるんだ? という住民の訴えはもっともです。水害対策の必要性というゴールは共有できているのですから、良い面ばかりでなくデメリットやリスクも含めてきちんと説明してほしいものです。そして「お時間が限られていますので」と説明会を切り上げようとするのではなく、住民の不安や疑問、提案の声を真摯に受け止めて検討し、もう一度説明会を開き、地域住民とともに解決策を探る姿勢が求められているのではないでしょうか。

 この計画が2月6日の審議会にかけられて通れば、その後は計画決定、事業認可、工事着手と進む段取りです。今日のたくさんの住民からの訴えはどうなってしまうのか、審議会でどう取り上げられるのか、区民のひとりとして非常に気にかかります。

(中村)

※住民説明会は録音が禁止されていたのでメモをもとにまとめました。議事録は東京都建設局のHPにて近日中に公開予定とのことです

【参考】
善福寺川流域の浸水対策について(杉並区役所HP)

●「東京都 杉並区善福寺川流域の自然と暮らしを守る会」による署名サイトはこちら

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