第666回:庶民は増税、政治家は脱税!? 「自民党のウラガネ・脱税を許さない会」が自民党議員10人を刑事告発! の巻(雨宮処凛)

 「貯金がなく、今月の電気代が払えない。食べ物も買えない」

 「パート収入で暮らしているが、野菜の高騰など物価高で生活していけない」

 「コロナ禍で借りた借金の返済で生活が圧迫され、次の家賃がどうしても払えない」

 これらの言葉は、困窮者支援の現場で私が最近耳にしたものだ。

 また、この年末年始は例年のように各地の炊き出し(困窮者向けに開催されているもの)を巡ったものの、あらゆる場所で耳にしたのは「訪れる人が減る気配はない」という言葉だった。

 「コロナ収束」と言われ、観光地に人が戻った、海外旅行をする人が何割増などと言われるものの、コロナ禍の打撃から生活を再建できていない人たちは今もこの国に大勢いる。だからこそ、今年に入ってからも炊き出しや食品配布に並ぶ人は高止まりを続けている。東京都庁下の食品配布には、今年に入ってからも700人ほどが列を作っている。コロナ前の10倍以上だ。

 それだけではない。元日に能登半島を襲った地震は200人以上の命を奪い、今も行方不明の人が多くいる。被災した中にはこれから先のことどころか、自宅に戻ることさえできない人、寒い避難所での暮らしを強いられる人がたくさんいる。

 そんな中、年末から連日報じられているのは自民党の裏金問題だ。

 政治資金規正法違反として12月から本格的な捜査が始まり、年末までに萩生田光一前政調会長、西村康稔前経済産業相、世耕弘成前参院幹事長、高木毅前国対委員長、松野博一前官房長官という安倍派「5人衆」全員が東京地検特捜部の事情聴取を受ける結果になった。

 こんなことから、安倍派の主要な議員が全員立件されるのでは、と思っていた人も多いだろう。

 が、東京地検特捜部が立件したのは安倍派の衆院議員、政策秘書、会計責任者など10人だけ。

 そうして大物揃いの「5人衆」を含む幹部議員らは不起訴処分となり、捜査は終結。そんな結果には誰も納得していないのに、「政治とカネ」問題はこのままうやむやにされ、幕引きとなりそうになっている。

 そんなことは許さないと、2月1日、大きな動きがあった。

 一連の裏金問題に憤る人々によって「自民党ウラガネ・脱税を許さない会」が結成され、「5人衆」を含む10人の自民党議員を「所得税法違反(脱税)」で刑事告発したのである。

 2月1日午前11時30分、同会は東京地検に対して告発状を提出。

 午後2時から開催された記者会見には、この会の呼びかけ人とさせて頂いた私も参加、発言した。

 ともに登壇したのは、元経産官僚で政策アナリストの古賀茂明さん、東京造形大学名誉教授の前田朗さん、「自民党ウラガネ・脱税を許さない会」代表の藤田高景さん、そして告発人として名前を連ねる大口昭彦弁護士、一瀬敬一郎弁護士、長谷川直彦弁護士。

 会見では、最初に長谷川弁護士より、告発の内容について説明がなされた。
 告発状にある「罪名・罪状」は所得税法違反。「告発事実」には以下のようにある。

 「被告発人らは、いずれも自由民主党の清和政策研究会に所属するまたは所属していた、衆議院議員または参議院議員及び衆議院議員であった者であるが、2018年から2022年にかけて、各年度の総所得金額を翌年2月16日から3月15日までの期間において、各所轄の税務署長に対し、申告書を提出して正確な所得額を記載して申告しなければならないにもかかわらず、清和政策研究会主催のパーティー券のうち別紙売上金目録記載の売上金を正当な理由もなく申告書に記載せず、もって当該各売上金に対する所得税の課税を免れたものである」

 このような理由で「脱税」として刑事告発したのであるが、よく言われるものとして、「でも、政治資金って非課税なんでしょ?」というものがある。

 が、告発状にはこれが「大きな誤解」だと書かれている。

 所得税法第9条1項第19号によれば、非課税所得として申告・納税が不要とされるためには、「公職選挙法の適用を受ける選挙に関して」、「選挙活動に関連する収支で」、「収支報告書の提出がなされた」ことが絶対の要件だという。

 では、今回キックバックされた裏金はどうかというと、いずれの要件にもあてはまらないとのこと。告発状には、「いかなる意味においても非課税にする理由はない」という言葉がある。

 さて、この告発で事態はどのように動くのか? それとも動かないのか? これから注視していくしかないが、税金ということで考えると、フリーランスの私はそろそろ確定申告の時期を迎える。

 毎年うんざりするが、今年の作業を思うとさらに気が重い。自分は一円単位の漏れもないようチマチマした計算をしているのに、そうしてせっせと税金を払い、また毎年、通知が来るたびにその高さに驚く社会保険料をこれまたせっせと払っているのに、自民党議員の場合、不記載の総額が3000万円以下であれば起訴猶予でお咎めなし。これが特権でなくてなんなのだろう? 庶民をバカにするにも程がある。「正直者がバカを見る」を地でいくなんて、昔のお代官様とかそういう時代の話じゃなかったっけ?

 さて、今回刑事告発されたのは、萩生田光一氏、西村康稔氏、松野博一氏、高木毅氏、世耕弘成氏、下村博文氏、塩谷立氏、池田佳隆氏、谷川弥一氏、大野泰正氏の10人。

 世耕氏については、生活保護引き下げの旗振り役の一人であったことは662回の原稿に書いた。自民党の生活保護プロジェクトチームの座長として生活保護費一割カットを掲げ、また生活保護利用者のフルスペックの人権を否定するような発言までしていた世耕氏だが、そうやって弱者は徹底的に痛めつけるのに、自身には超絶甘い姿勢が今回明らかになったわけである。

 また、野党時代の自民党が掲げた「生活保護費一割カット」は実際に第二次安倍政権で強行されたわけだが、現在、それを違法として全国で裁判が起こり原告勝訴が続いている。

 これまで、地裁レベルでは14勝11敗訴、2022年5月からは高裁も含めて15勝4敗と原告の圧勝が続いている。多くの裁判で、生活保護の引き下げは違法で取り消すべきという判決が続いているわけだが、それを推し進めた当人はダンマリを決め込んでいるどころかキックバックでとてつもない大金を得ているわけである。

 生活保護引き下げは13年から段階的になされ、今も引き下げられたままだ。

 この10年以上にわたって、利用者は、食事を抜く、入浴回数を減らすなどの涙ぐましい節約を続けている。私の知る人の中には、引き下げによって親の入居する施設に行く交通費が捻出できなくなって面会が激減、そこにコロナ禍が来たことでさらに会えなくなり、そのまま親を亡くして今も悔いる人もいる。そこに長く続く物価高騰である。みんな1円2円単位で生活費を削っている状態だ。それなのに、それを強いた当人の一人である世耕氏の裏金の額は1542万円。なんなんだろう、この落差は。

 が、世耕氏に限らず、自民党はこの30年、弱者を切り捨てる政治、そして弱者を積極的に産み出す政治をやってきた。「失われた30年」の中、非正規化と不安定化を推し進め、それによって少子化はすごい勢いで進み、令和となった今、日本は衰退の一途をたどっているわけである。

 そんなふうに弱者を見捨てる中、私腹ばかりを肥やしてきたなんて、コントとかに登場する「絵に描いたような悪い政治家」そのものじゃないか。というか、悪い独裁者がいるせいで庶民が痛めつけられる貧しい国の典型じゃないか。

 ちなみに刑事告発の少し前には、安倍派の95人が寄付金を収支報告書に記載していなかったことも報じられた。その額、5年間で6.7億円。

 告発を知らせる記者会見には、中国メディアも参加していた。海外の関心も高いようだ。

 日本の政権与党は、世界からどのような視線を向けられるのだろうか。

 この刑事告発の行方、しっかり見守っていきたいし、ぜひ、見守ってほしい。

2月1日の記者会見の様子

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。