NHKの朝ドラ『虎に翼』が人気だ。ここしばらく朝ドラを見る習慣がなかったのだが、「毎朝見て号泣しています」といったフェミニストたちの声に押されて、1ヶ月遅れで見始めた。
子ども時代をすっ飛ばして、いきなり女学生から始まる展開、ヒロインの妊娠・出産をサラリと描くなど、これまでとは異なるドラマ作りに、まず興味をひかれた。
戦争前夜なのに主人公の暮らしにその気配はあまりなく、いつの間にか戦争が始まって、夫は戦死してしまう。それも「勇ましく戦って戦友の腕の中でガクッ」というお決まりの戦死でなく、病死という設定に納得。戦死の多くが病死、餓死だった事実をしっかり踏まえたところに、脚本家の意気を感じた。
お約束の玉音放送のシーンもなく、終戦。仕事も家族も無くして、心が折れそうになった寅子(主人公)は、闇市で焼き鳥を買い、ひとり河原で食べようとする。焼き鳥のたれのついたくしゃくしゃの新聞紙を手のひらで押し広げると、そこには発表されたばかりの新憲法の条文が……。それを呟くように読み上げる寅子、暗く俯いていたその顔に希望の光がさし、生きる力がみなぎり……泣けました。
感動を分かち合いたくてパソコンを開くと、SNSには以下のようなコメントが。
「憲法が読み上げられるのを聞いて涙が出るなんて、初めての経験」「学校の授業でも習った有名な条文を改めて読んでみて、清々しい文章に心が洗われました」「若い頃憲法の美しさに感動しながら暗記したことを思い出し、改めてこの憲法を大事にしていきたいと強く思いました」「戦後私達の暮らしは、憲法に守られてきたのだと、そのありがたさを再認識しました」「この憲法がある国、時代に生まれたことに感謝しています」「日本国憲法は今現在も私達の希望です」などなど、「#日本国憲法」でバズる日が来るなんて、感無量です。
ドラマのシーンを解説した以下の指摘にも「なるほど」と深く納得。
「男も女も自分の人生を生きていいのだと、トラちゃんが家族に新憲法をわかりやすく説明するシーン、70年後の今を生きている私達一人ひとりに語りかけているのだ」「(主人公の夫)優三さんが寅子に語りかける〈君ができるのは君の好きに生きること、君が後悔せず、心から人生をやりきってくれること、それが僕の望みです〉というセリフ。基本的人権ってこういうこと。これは新憲法の超訳、優三さんこそ新憲法の化身、権化」「(基本的人権を侵すことのできない永久の権利とした)97条こそ、このドラマのメッセージ」
そしてこんな警告にも同意。
「憲法は昔の人の願いを具現化したもの。それを今誰かが変えようとしている、日々自分達で守っていかないと変えられてしまう」「国会議員の皆様、声に出して憲法を読み上げてください」「(憲法が保障する自由及び権利を国民の不断の努力で保持すべしとした)12条を、毎朝思い出させてくれるドラマ」
ここ数年我らの憲法は「みっともない」だの「お花畑」「理想論」など、さんざんコケにされてきた。馬鹿にされ、足蹴にされ、寒風に舞うハズレ馬券のように、道端に掃き寄せられていた。しかしその憲法が、今、こんなにバズっている。全国の朝の茶の間を湧かせ、泣かせている! 心肺停止状態だった憲法が、息を吹き返したのだ!
マガジン9は来年設立20年を迎えます。気弱になることもしばしばでしたが、やっと我々の時代がやってきました。自信を持って翼を広げ、羽ばたきましょう。
(田端薫)