能條桃子さん、さこうもみさんに聞いた:政治のジェンダー平等を目指して、生きやすい社会を地域から!

現在、市区議会における女性議員の割合は約18%、町村議会ではわずか約12%(2024年3月 内閣府資料)。世界経済フォーラムが発表した「ジェンダーギャップ指数2024」でも、日本の政治分野は146ケ国中113位と低迷し続けています。若い世代の声を政治に届けるには、まず議会におけるジェンダー平等の実現が必要――そんな思いから「FIFTYS PROJECT」を立ち上げた能條桃子さん。23年の統一地方選で東京・武蔵野市議になったさこうもみさんとともに、プロジェクトの意義や私たちにできることについて話していただきました。

若い世代の不安が政治家に伝わらない

──能條さんは、2022年8月に「政治分野のジェンダーギャップ解消」を目指して地方議会議員を目指す人たちを応援する「FIFTYS PROJECT(フィフティーズ プロジェクト)」をスタートさせました。昨年1年間にプロジェクトが後押しして議員に当選した人の数は、27人にものぼるそうですね。このプロジェクトを始めたきっかけを教えていただけますか?

能條 若い世代の声が政治に届きづらいという思いがあって、デンマーク留学中の2019年に、U30(30歳以下)世代に向けて政治や社会について発信する「NO YOUTH NO JAPAN」を立ち上げました。
 でも、そもそも政治家側に若い人たちが全然いないので、いまの若い世代が抱えている漠然とした将来不安について訴えてもなかなか伝わらない。逆に「いや、君たちは恵まれてるよ」と言われてしまったりして話が通じませんでした。
 そうした経験から若い世代の政治家が必要だと感じるようになりました。ただ、周りにいる20代くらいで「政治家になりたい」という人たちって、ほぼ男性で権力志向が強い人。少なくとも私が応援したいのはそういう人ではない、という気持ちがあったんですよね。

──若い政治家が増えたとしても、このままでは男性ばかりになってしまう、と?

能條 そうなんです。ジェンダー平等の根底にあるのはやはり政治なので、いま私たちの世代から政治家が男女半々いる状態を作ることが大事じゃないかと思うようになりました。
 21年2月に東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の会長だった森喜朗氏の女性蔑視発言に対して抗議署名を集めたのですが、そのことも大きかったです。さまざまな世代から15万7千筆以上も集まり、署名活動を始めたすぐあとに辞任が発表されました。「声を上げれば届く」という一つの成功体験になったし、日本でジェンダー不平等に怒っているのは私だけじゃなかったんだと気づきました。それが「FIFTYS PROJECT」の立ち上げにつながっています。

FIFTYS PROJECT代表の能條桃子さん

地方議会に感じる希望と可能性

──「FIFTYS PROJECT」では、その活動を「ジェンダー平等実現を目指して地方議会議員を目指す、20~30代の女性(トランス女性を含む)、ノンバイナリー、Xジェンダーなどの立候補者を増やし、横につないで一緒に支援するムーブメント」としています。国会議員ではなく「地方議会議員を目指す」としたのは、どうしてですか?

能條 ジェンダー平等を実現すると考えたときに、最初は国政ばかりを見ていました。でも、結局は国会議員も地域から代表を選んでいるという目線から、地方議会にも目を向けるようになったんです。女性の総理大臣を出したいと考えていたので、まず戦後の総理大臣の経歴を並べてみたら、地方議員出身か名家出身が多かったというのもあります。名家出身はあとから選べないじゃないですか(笑)。そこで地方議会のことを調べ始めました。
 世代別の女性議員の比率などを見たときに、私たちの世代はジェンダー平等意識が高いので上の世代よりは20代、30代の比率は高いだろうと思ったら、全然変わらない。両方とも20%を切っていて、むしろ当時20代の女性議員の比率は約16%で全体より低かったんです。その数字を見て、ここが最初のステップじゃないかと思うようになりました。
 今ではむしろ地方政治のほうに希望を感じていて、女性首長をどう増やしていけるかに関心があります。暮らしに根付いた政治が地方から実現できれば、国政にもよい影響があるはず。本来は大事なことであるはずの政治が、みんなにとって「イヤなもの」になってしまっている現状を変えられるのではないかと思っています。

──昨年4月の統一地方選挙では、「FIFTYS PROJECT」に29人が参加、そのうち24人が当選しました。これだけ多くの候補者が集まると思っていましたか?

能條 21年の衆議院選挙のあたりに、ツイッター(X)で「女性議員が少なすぎて、『もはや自分が政治家になるしかないのかもしれない?』と思う人」とゆるく募集したら、DMが100件ぐらい来たんですよ。「政治家をやりたい」っていうより「やるしかないかもしれないから興味あります」という人ばかり。だから、潜在的に「私がやるしかないのかも」と思っている人がいることは感じていました。

議員になるのは、社会課題解決のための手段

──当選した24人の一人が現在、東京・武蔵野市議を務めるさこうさんですが、どうして「FIFTYS PROJECT」に参加したのですか?

さこう 私が選挙に出ようかなと思い始めたのは、コロナ禍の真っ最中のとき。以前はクラウドファンディングの会社で、災害の復興支援や困窮者支援などあらゆる社会課題の解決のための民間資金を集めるサポートをしてきました。
 クラウドファンディングを機に公的な制度ができて、公的な予算がつくようになった事例もたくさん見てきた一方で、「社会課題解決の資金集めを民間のお金でやり続けるのは持続可能なのか? これは公的な資金でやるべきことでは?」という疑問も感じていました。そこから自分の次のキャリアとして、民間のお金ではなく公的なお金の配分を決めたり制度を作ったりする仕事に関わりたいと考えるようになったのです。
 能條さんのことは以前から知っていて、「FIFTYS PROJECT」の企画段階から、「私も出るかも」と話していたんですよ。

能條 この企画を考えていたときに、さこうさんが「自分も立候補を考えている」と言っていたので、「これで一人は確実!」って思いました。プロジェクトを立ち上げて誰も出なかったらどうしようって思ってたから(笑)。

さこう ただ、そのときは23年の統一選挙に出るのか、次の27年の選挙に出るのか迷っていて。妊娠や出産などを考える年齢なので、出産を終えてからのほうがいいのかなと考えていました。それで地元である武蔵野市の議員さんに相談しに行ったら、「任期中に産んでる議員もいるよ」と言われたんです。当時の武蔵野市長だった松下さんも、市長になる前、都議会議員の任期中に出産しているんですよね。
 議員控え室にベビーベッドが置いてあって、授乳している議員さんもいました。いまも4年の任期中に2人の子どもを産んだ方もいます。武蔵野市では出産は議員になるうえでネックにならないとわかって、23年の選挙に出ることにしたんです。ただ、これは地域によって状況は違っていて、武蔵野市議会ではそのときから女性議員が4割を占めていたことの影響はあると思います。

東京・武蔵野市議会議員のさこうもみさん

──「FIFTYS PROJECT」の応援を受けた人たちは、所属政党もさまざまで、無所属の方もいます。どんな共通点があるのでしょうか?

能條 参加する条件として、ジェンダー平等の政策4項目(※)に賛同していることを挙げているので、そこはまず共通しています。
 それ以外で言うと、なんだろう? ただ、相対的に言うなら、高学歴・大企業出身といった人よりも、保育士や介護士、看護師といったケアワークの経験者、NPOなどで働いていた人が多いですね。自分がいた現場での経験や、虐待サバイバーなどの人生経験から見えてきた社会課題を解決する手段として議員を選んだ人たちが多いです。

※①選択的夫婦別姓・婚姻の平等(同性婚)の実現に賛成、推進する ②包括的性教育の普及、緊急避妊薬アクセス改善に、賛成、推進する ③トランスジェンダー差別に反対する ④女性議員を増やすためのクオータ制などのアファーマティブアクションに賛成する

女性が少ないからこそネットワークが大切

──政治家になることが目的ではなくて、社会課題の解決手段として議員になった人が多いということなんですね。立候補する人にとって「FIFTYS PROJECT」はどういう場ですか?

能條 私たちが立候補する人に提供したいと思っていたことが3つあります。
 まず、「政治家になる」といっても具体的にどうすればいいのか分からないですよね。公職選挙法のような分かりにくいルールもあるし、政党に所属していればそこから情報が入ってきますが、無所属だとそうはいきません。そういう情報のプラットフォームになりたいと考えました。
 2つ目は、心理的に安全を感じられるネットワークをつくること。選挙期間中はそれぞれの地域で活動するわけですけど、不安もあるし、嫌なことも起きる。同じ候補者同士にしか分からない大変なことがあるなかで、定例会やLINEグループを通じたやりとりを通じたピアサポート的な役割も果たしています。
 そして3つ目が、選挙のサポート。これは地域差がありますが、「FIFTYS PROJECT」が応援したことで選挙のボランティアが多く来てくれたという人もいますし、票につながった部分もあると思います。何よりこれだけ多くの若い世代の女性が立候補していることが可視化されたことに意義があったと思います。

さこう 私は、ピアサポート的な機能をもつコミュニティがあったのは重要だったなと思います。選挙期間中、初めて選挙に出る若い女性ばかりに何度もDMしてくる人がいたのですが、一人だと「なんか怖いけど、無下にしたらダメなのかな……」と思い悩んで疲弊しちゃうと思うんですよね。そういうときに、コミュニティのなかで「それはハラスメントだから注意したほうがいいよ」というのが共有できたりする。それは結構大きかった。
 ハラスメントにあって傷ついたときに、「それでも頑張っていきたいから、どうにかお互いを守りあおう」というコミュニティがあることは、女性が少ない場所においてすごい大事だと思います。それは選挙中だけではなくて、いまもそう。議員になってからのほうが大変だったり、周りに言えなかったりすることも多い。それを共有できて、解決方法を一緒に探ることのできるコミュニティがあるのはすごくいいと思ってます。

能條 あとは、選挙ポスターを貼るテープや街頭演説で使う小さいスピーカーはどれがいいかとか、具体的なことも相談しあっていたよね。

さこう 「これはきれいに壁からはがせるテープだからいいよ」とか「街宣の場所とりはどうしてますか」とか、そういう具体的な知識は無所属で出るとわからないので助かってました。
 あと、地域で長く選挙運動をしてきた上の世代の人たちとやり方や考え方の違いが出てきて、そこで悩んでいる人もいましたね。そういう悩みって周りに言えないけど、「FIFTYS PROJECT」のコミュニティでなら安心して話せます。

議員になって1年、議会でのハラスメントも

──統一地方選から1年がたった今年4月、「FIFTYS PROJECT」に参加して当選した議員さんたちによる報告会も行われましたが、そこでは議会でのハラスメントについての話も出ていました。

能條 若い女性であること、リベラルであることが攻撃対象になりやすいように感じています。報告会では、新人議員が壇上に立つとほかの議員のおしゃべりが始まるとか、言い間違えると笑われるなどの話がありました。

さこう 会社だったらプレゼン中に私語しているようなもの。普通は「うるさい、仕事しろ」って言われますよね。

能條 「FIFTYS PROJECT」のメンバーの大学生が「推しの議会傍聴行ってみた企画」というnoteで、東京・世田谷区議会の傍聴に行ったときのことを書いていました。「FIFTYS PROJECT」から出たおのみずき議員が質問をしている最中に、自民党の男性議員数名が大きな声でおしゃべりを始めたそうなんですね。
 そうしたら、そのnoteを読んだ世田谷区民の人が「これは良くない」と議員間のハラスメントを防止する内容を条例に入れてほしいという署名活動をして区議会に陳情したんです。結局、条例にはならなかったのですが、その後そういう表立った行動は減ったと聞きました。やっぱり声をあげれば変わるんだなと思います。

さこう 私が実際に議員になって感じているのは、企業と違って議員には仕事の質に対するフィードバックや評価がほぼ存在しないこと。「あの人の一般質問、素晴らしいよね」と評判になったからといって、その人がパワーをもつわけではありません。結局は、大きな会派のリーダー、それから長年議会にいる人たちがほとんどのパワーを掌握していて、基本的にはひっくり返せないんです。
 会社だったら、たとえばものすごい売り上げを立てれば認められたり、認めざるを得ない状況をつくったりできると思うんですよね。でも、議会にはそうした評価軸や基準がないし、リベラルな議員は少数会派であることがほとんど。さらに若くて女性だと、対等に扱ってもらうことの難しさを感じています。その中で隙間を狙って発言するとか、なんとか思っていることを通す方法を考えるしかない。

能條 それでも、議員になると、いろいろな行政の情報にも確実にアクセスしやすくなりますし、できることは格段に増えていると感じます。議員になったメンバーは、それぞれの地域で変化を起こすための「小さな石」を投げて波紋をつくっていますよね。

さこう すぐに大きな変化を求めるのではなく、議員である私自身や地域の人たちも含めて「自分たちは社会を変えることができるんだ」という成功体験を小さくても積み重ねていくことが大事だと私は思っているんです。
 たとえば、「選挙で応援した人が当選した」ということもそうだし、「おかしい」と思ったことを議員を通じて質問したり要求したりして、小さなことでも「自分たちで変えられた」という経験を繰り返していくことで、少しずつ変化は広がっていくのだと思います。

能條 これまでは地方議会のなかに、ジェンダー平等や気候変動などに関心をもつ20代、30代の議員があまりにもいなかった。だから若い世代は地方議会に注目してこなかったし、地方議員の担い手になる若者もいなくて、結果として議員の質も下がっていくという負のループがありました。 
 「FIFTYS PROJECT」が応援して議員になった人たちは、いま先頭を切って、それぞれの地域でこれまでになかった政策の引き出しを増やそうとしているところ。そういう動きを見て、もしかして地方議会にはもっと役割があるんじゃないかとか、みんなが生きやすい社会にしていくために地方自治体からできることがあるんじゃないかという希望を感じる人が増えているように感じています。

議会傍聴が応援している議員の支えになる

──「FIFTYS PROJECT」から議員になったみなさんは2年目を迎えていますが、地域から変化を起こしていくために市民に求められることは何でしょうか。

能條 議会傍聴にぜひ行ってほしいです。監視の目を光らせるだけでだいぶ変わります。議会に送り出して終わりじゃなくて、傍聴にも来てくれたらみんな嬉しいと思います。
 あとは、ジェンダー平等について関心を持っているコミュニティが地域の中で増えて、議員と連携して活動するようになっていってほしい。議員の仕事は市民の声を聞いて届けることなので、市民の声を届けてもらうことで議員も動きやすくなります。最近、「FIFTYS PROJECT」で「オーガナイザー育成講座」を始めたのですが、これも議員にはならなくても地域の中で活動する人たちをもっと増やしたいという意図からです。

さこう やっぱり議会に傍聴に来てくれたり、リサーチなどを一緒にしてくれたりするチームが地域のなかにできると、すごく支えになります。「あの人の後ろには若い元気な住民がいっぱいいる」となると、ほかの議員も軽視できなくなるんですよね。それに、議会傍聴にたくさん市民が来て、「居眠りしていたら写真を撮られる」となったら、議員に対するプレッシャーにもなります。

議員になった人、なりたい人を支えるコミュニティ

──最後に、能條さんがこれから「FIFTYS PROJECT」として取り組みたいことを教えてください。

能條 次の統一地方選やそれ以外の地方選挙でも、もっと多くの「FIFTYS PROJECT」に参加する候補者を出したいし、議員になりたいと思う人たちも支えたい。そのためには経済的基盤のサポートも必要です。仕事を辞めて立候補して、選挙で落ちたら無職ではリスクが高いですよね。そうしたハードルを下げるような仕組みづくりも考えているところです。
 それから、議員になった人たちが2期目も続けたいと思えるサポートも必要だと思っています。議員になったらなったで大変なことが多くて、疲れていってしまう人もいる。議員になってからもコミュニティを継続して心理的安全性のある場を提供していきたいし、政策上でも横のつながりをつくっていけたらいいと思っています。
 少し前に「FIFTYS PROJECT」で、ジェンダー平等について学ぶ6回連続のゼミを開催したところ350人も参加してくれて手ごたえを感じました。ジェンダー平等に関心がある若い市民と議員をつなげていくことは今後の選挙を支えるうえでも大事だろうし、こうした場からまた「私が政治家になるしかないかも」という候補者が生まれていったらいいなと思っています。

(取材・構成/中村)

のうじょう・ももこ(写真右)FIFTYS PROJECT(一般社団法人NewScene)代表。2019年、若者の投票率が80%を超えるデンマークに留学し、若い世代の政治参加を促進する「NO YOUTH NO JAPAN」設立。Instagramで選挙や政治、社会の発信活動(現在フォロワー約10万人)をはじめ、若者が声を届けその声が響く社会を目指して、アドボカシー活動、自治体・企業・シンクタンクとの協働などを展開。

さこう・もみ(写真左)東京・武蔵野市議会議員。大学卒業後、アパレル企業を経てクラウドファンディングの会社CAMPFIREに参画。25歳で子会社GoodMorningの代表に就任し、社会課題解決に取り組む。2023年4月、無所属で現職に立候補し、新人トップで初当選。

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