第705回:個人的なことと共に振り返る2024年〜出した本、病気発覚、そして至ったある境地〜の巻(雨宮処凛)

 2024年もあと数日となった。

 年の瀬を控えた12月21日には、隔月で開催されている「いのちとくらしを守る なんでも相談会」が全国で開催された。

 私も対面の相談員をしたが、「食べるものもない」「子どもに食べさせるものに困っている」「もうすぐアパートを追い出される」などの深刻な相談が続々と寄せられ、年末を前に暗澹たる思いが込み上げてきた。しかもこの年末年始、役所は9日間にもわたって閉まるわけである。が、コロナ禍であったような、住まいのない人へのホテル提供などの支援策は現時点では確認できていない。生活が厳しいという人はぜひ、役所が閉まる前に生活保護申請などに行ってほしい。

 ちなみにTOKYOチャレンジネット(東京)は12月30日に臨時開所。自立支援センター等の一時宿泊所を提供するとのこと。女性専用ダイヤルもある(詳しくはこちらで)。

 また、さいたま市(埼玉)でも年末年始に一時宿泊場所を提供するとのこと。窓口が26日までなのでお早めに(詳しくはこちらで)。

 横浜市(神奈川)でも年末年始、宿泊場所と食事を提供する取り組みがある(詳しくはこちらで)。

 そんな24年は、能登半島地震とともに始まった。元日、私は「大人食堂」でやはり相談員をしていた。あの時感じた長い揺れを今もはっきりと覚えている。そんな能登半島を9月には豪雨が襲い、現地には今も「復興」とはほど遠い光景が広がっている。

 そんな24年1月、衝撃的なニュースが日本列島を駆け巡った。

 「東アジア反日武装戦線」の桐島聡が、半世紀の逃走の果てに入院先で名乗り出たのである。それから数日後に死亡したものの、これを受けて、元日本赤軍の足立正生氏は桐島を主人公にした映画『逃走』を制作、来年3月に公開予定だという。試写会で観たが、足立監督にしか作れない力作で、圧倒されたことは書いておきたい。

 また、7月には都知事選があり、10月には衆院選。そして11月には兵庫県知事選があった。年間通して自民党の裏金が問題になり続けたわけだが、自民に愛想をつかした人々の受け皿がいわゆるリベラルではない方に流れる現実、そしてリベラル系もある種の「既得権益」と見られているような実情には、本気で向き合わなければという課題を突きつけられた思いだ。

 そんな24年には、2冊の本を出版した。

 特に2月に出版した『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』 は発売前に重版となり、ベストセラーに。すでに6刷となっている。

 内容はこの連載の665回に詳しいが、仕事やお金がなくなっても、そして病気になっても「死なない」ための、そして親の介護や自らの死後のノウハウについて書いたこの本がこれほど売れたことは結構な驚きだった。

 なぜならそれは、貧困問題に関わってきてからの20年近く、ずーっと書いてきたテーマでもあったからだ。そんなテーマはリーマンショックや派遣村の頃はそれなりに売れたものの、以降、貧困と格差が深刻化し、常態化する中、売り上げ的には低迷が続いていた。

 しかし、同じテーマであっても「政治色」を抜き、徹底的にノウハウ本にしたら売れたという現実。この背景にあるのは、「社会を変える」のではなく、個々人がライフハックを駆使してサバイブしていくしかないという殺伐とした現状認識だろう。私はこの事実と、石丸現象などにはうっすらとした、だけど明確な共通点があると思っている。

 さて、8月には『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』を出版。

 コロナ禍、困窮者支援の現場に外国人が増え続けたことがきっかけで取材を始めて書いた一冊なのだが、改めて突きつけられたのは、この国の「移民政策」の適当さというか御都合主義というかビジョンのなさだ。

 そのことがさまざまな混乱を呼び、結果的に「1.5世」(親に連れられて幼い頃に日本にやってきた子どもたち)や「2世」の子どもたちの人生に暗い影を落としている。

 この連載の701回でも、制度の穴に落ちるようにして「受験拒否」「内定取り消し」などに晒される「仮放免」の学生たちについて書いたが、すべての元凶はこの国の「場当たり的」としか言いようのない移民・難民政策ではないのか。

 そんな24年は、この国で「クルド人ヘイト」がどんどんひどくなっていった一年でもあった。

 すでに日本で20〜30年暮らしてきたのに突如としてヘイトの対象となったのは、「改正」入管法の報道などで彼らの存在が「発見」され、ヘイトをぶつける新たな「ネタ」として発見されたからではないだろうか(神奈川県川崎市などでは条例により、ヘイトデモへの規制が厳しくなったこともあるだろう)。

 この春からは、クルド人が多く住む埼玉県の川口や蕨でヘイトデモが開催されるようになり、SNSにはデマにまみれた誹謗中傷が溢れている。

 ひとつ言っておきたいのは、SNSのデマを真に受けて誹謗中傷をした中には、すでに書類送検された人もいることだ。自分の身を守るためにも、ヘイトに満ちたデマに惑わされないでほしいし、周りにそのような人がいたら、ネットへの書き込みでも罪になり、多くのものを失うということを伝えてほしい。

 さて、ここで24年に「始めた」ことも振り返りたい。

 まずは毎日新聞で谷口真由美さんとの「『ロスジェネ』往復書簡。」が始まった。

 また、つい最近だが、デモクラシータイムスで「雨宮処凛のせんべろ酒場」という番組も開始。第一回ゲストには「だめ連」の神長恒一氏を呼び、2回目にはアナキズム研究者の栗原康氏を呼んで話を聞いた。

 そうして3回目のゲストは「素人の乱」の松本哉氏。12月27日19時に公開予定なのでこちらでチェックしてほしい。

 もうひとつ、特筆しておきたいことは50歳を目前にして膠原病の一種である病気(シェーグレン症候群)が発覚したこと。この顛末についてはこちらで書いているので興味がある人は読んでほしいが、ロスジェネもそろそろ身体にガタが来るお年頃。

 ちなみに指定難病のひとつなのだが、病名がはっきりするまでさらに重い病気が疑われた時期があった。それについていろいろ調べている時に「5年生存率」という言葉を目にしたのだが、それを見た瞬間、「あ、もうこれからはやりたいこと、好きなことしかしないでおこう」と閃くように思ったのが今年のハイライトである。

 同時に、しみじみと思った。人生は、考えているよりもきっとずっと短いのだと。嫌なことを我慢してやってる時間など、アラフィフにはもう残されていないのだ。

 そんなこともあって、来年1月27日の50歳の誕生日には「雨宮処凛 生誕50年&デビュー25周年大感謝祭」をすることにした(チケットまだあるのでぜひ!!)。

 なんとゲストにはゴールデンボンバーの歌広場淳さん、そしてサイコルシェイムのseekさんが登壇という豪華さだ。お二人とも、私が大大大好きなミュージシャンで、本当に今から楽しみで仕方ない。

 生誕半世紀、そしてデビュー四半世紀ということもあり、仕事でお世話になった人や共に活動してきた人をゲストに呼ぼうか5秒くらい悩んだのだが、結局は「推しに祝ってほしい」というバンギャとしての純度の高い欲望に正直になった次第である。これもおそらく病を得たことによるものだろう。いろいろ気を遣ってる場合じゃないのだ。アラフィフは自分の欲求に素直にならないと、もういつ死ぬかわからないのである。ということで、前回書いた通り、来年は一年通して祝い続けたいので全国の人にイベントなどに呼んでほしいと思っている。

 最後に強調しておきたいのは、やはり私のライフワークでもある貧困問題について。

 冒頭に書いたように深刻な状況は続いているのに、コロナ5類移行によって関心がダダ下がりし、支援団体には寄付金が激減しているという状況だ。

 私が世話人をつとめる「反貧困ネットワーク」では、コロナ禍、住まいのない人のためにシェルターを30室以上開設。他の団体もコロナ禍でシェルターを増設したところが多いのだが、どの団体も、今のままでは財政的に2年持たないと悲鳴を上げている。

 特に皆、頭を抱えているのが、生活保護の対象とならない外国人支援だ。公的支援がないので寄付金からの給付が続いている状態。が、お金がなくなったからといって放り出すわけにもいかない。政府に公的支援を求めているものの遅々として進まず、というのが現状だ。なんとかしたいという人はぜひ、こちらから。

 来年1月1日には、今回も「大人食堂」を開催する。お正月料理やスリランカのカレーなどが振舞われる予定だ。生活・医療・法律相談も無料で受けられる。私も相談員として参加する予定だ。

 ということで、来年こそは、もっといろいろなことがマシになっていますように。

 そう祈りつつ、みなさんも、良いお年をお迎えください。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。