夏の参院選から2カ月が経ちました。選挙後は「参政党の躍進」ばかりが取り上げられがちでしたが、もちろんそれだけが結果ではありません。当選した顔ぶれの中でもとりわけ気になったのは、活躍してきた分野は違えど、ともにまったく違う世界から「新人議員」として政治の世界へ飛び込んだ、ラサール石井さんと伊勢崎賢治さん。お2人に、立候補を決意した理由や、国会で何をやろうとしているのかについてお聞きしました。
人間には、ファーストもセカンドもない。差別も戦争もない世界に向けて
ラサール石井さん(社民党)/取材日:2025年8月27日
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◆ 「政治的発言をするから使えない」
──長年芸能界で活躍されてきたラサールさんが、立候補を決意されたのはなぜだったのでしょうか。
ラサール 立候補については、だいぶ以前から何度か声をかけてもらったりはしていたのですが、あまり現実的に考えてはいませんでした。反戦や平和を語ることはお芝居などエンタメの世界でやればいいじゃないかと、あえて政治の世界に飛び込もうとは思わなかったんです。
──ただ、SNSでは政治や社会問題について、活発に発言されていました。
ラサール そもそも、僕は世の中で不満が広がっていることについて批判したり文句を言ったりするのも芸人のひとつの仕事だと思っているんです。僕が子どものときはそういう芸人さんもいましたからね。自分も、思ったことは口にしようと思っていました。
ところが、そうするうちに、だんだん芸能界での仕事がしづらくなってきたんです。
──というと?
ラサール たとえばコマーシャルです。スポンサーは政治的な色のついたタレントは嫌がります。また、ドラマやバラエティにもスポンサーが付いています。アンチの「ネトウヨ」たちが抗議電話したりしますから、「ラサールさんを使うとスポンサーが嫌がる」「上司に怒られるから」などと言われて、仕事を回してもらえないんですね。特に第二次安倍政権になってからはそれが顕著になりましたが、それはもうある程度覚悟してやっていました。
所属事務所から「仕事が取れないから(政治的な発言は)やめてくれ」と言われたこともあります。さらにそのうち、ワイドショーの1コーナーで劇団の公演の宣伝をすることになったときに、テレビ局から「ラサールさんは政治的な発言をしているから出すなと上が言っている」と言われたんです。結局、僕が出ている場面だけ劇団の別の役者で撮り直しました。
──すでに撮影も終わっていたのに、撮り直しですか!?
ラサール そうです。しかし、同じように政治的発言をしていても政府を擁護しているタレントはテレビに出ている。つまり政治的発言が悪いのではなく政府批判がダメなんです。
さらにその後、やりたかった仕事がいくつか、立て続けにダメになった時期があって。「政治的発言」と関係あるのかどうかは分かりませんが、さすがにちょっとへこんでいたそのタイミングで、社民党から立候補のお誘いをいただいたんです。「社民党は今崖っぷちで、厳しい状況で」という話を聞いていたら、逆に「やってみようかな」という気になりました。僕の力で社民党を救う、なんて大げさなことではなく、少しでもお手伝いができるんならそれも面白いかなと思ったんです。
連れ合いも「やってみなよ」と言ってくれましたし、党首の福島(みずほ)さんの、パワフルで、いい意味で「空気を読まない」ところにも魅力を感じましたね。
◆ 人間には、ファーストもセカンドもない
──さて、これから政治家としてどのようなテーマに取り組んでいこうと考えておられますか。
ラサール 当選後すぐに陳情をいただいて取り組みを進めているのが、入管(出入国在留管理庁)問題です。政府が5月に「不法滞在者ゼロプラン(※)」を発表した後、在留資格を持たない外国人が未成年者も含め多数強制送還されている問題について、8月27日に関係省庁への交渉と院内集会を行いました。
※不法滞在者ゼロプラン……出入国在留管理庁が2025年5月23日に発表した「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」。将来的に「不法滞在」の外国人をゼロにすることを目標とし、難民認定審査の迅速化、強制送還の強化・促進などの施策を掲げている
──省庁交渉には、自分や家族が強制送還されるのではないかと不安を抱く外国人の子どもたちが、当事者として出席していましたね。「いつ送還されるか分からず、将来への展望が描けない」「生まれも育ちも日本なのに、言葉も分からない『母国』へ送還されても暮らしていけない」といった悲痛な声が上がっていました。
ラサール 「不法滞在者」というとまるで犯罪者のように聞こえるからか、「どんどん強制送還すべきだ」といった声もあるようです。でも、在留資格がないことと刑法違反とはまったく異なります。そもそも「在留資格がない」といってもそこにはさまざまな事情があって、中には技能実習生として来日したけれど勤務先でひどい扱いを受けて飛び出したなんていう人もいる。また、日本の難民認定率は1%台と、世界でも飛び抜けて低い水準なので、難民申請したけれど認められなかった、でも母国に帰ったら弾圧を受けるので帰れないという人もたくさんいます。
そうした事情のある人たちを、「不法滞在」とひとくくりにしていることがまずおかしい。まるで、あえて「悪いことをした人たちだ」と思わせようとしているように感じます。
──国際的には「不法滞在」ではなく「非正規滞在」と呼ぶべきだとも指摘されていますね。
ラサール 特に、日本で生まれ育った子どもたちには「在留資格がない」ことについて何の責任もないわけですから、それを強制的に送還するというのはあまりにおかしいですよね。
省庁交渉では、まずは実態を知りたいと、入管に対し「ゼロプラン」発表後の強制送還件数などを前もって質問していたのですが、「そうした形での統計は取っていない」として、具体的な数値は示されませんでした。そんなもの、数えればすぐに分かるはずなのに。子どもたちの泣きながらの訴えに対しても、官僚の方たちは「個別の事案にはお答えできない」と繰り返すなど、木で鼻を括ったような対応で……もちろん、心の中で何を思っていても立場的に言えないのでしょうが、あんまりだと思いました。一番ひどいのは、彼らにそうした態度を取らせている政府だと思いますが。
ともかく、なんとか実態を把握した上で、意味のない強制送還をやめるように働きかけを続けていきたいと思っています。
──選挙運動のときから、「人間にファーストもセカンドもない」と繰り返し訴えておられました。排外主義については、当初から取り組もうと考えていたのでしょうか。
ラサール 排外主義というか、外国人に限らず人間の間に「差をつける」ことがとにかく嫌なんですね。「差別と区別は違う」という人もいるけれど、不要な区別をするところから差別が始まると思うんです。
人にはもちろん「違い」があります。性別も年齢もそれぞれに違うし、人種や宗教や嗜好も違うかもしれない。大事なのは、その「違い」を認めることです。あなたが隣の人の違いを認めたら、隣の人もあなたの違いを認めて、尊重してくれる。差別することは、差別されることと表裏一体。人にされて嫌なことは人にしないでおきましょうという、とてもシンプルな話です。手塚治虫の漫画で育った世代ですから、そうしたヒューマニズムにはこだわりがあるんですよ。
でも、今の社会は物価高などで誰もが生活が厳しい中、その不満を外国人に向けさせられているところがありますよね。「違う国の人なら差別していい、対応を変えていい」という気持ちを植え付けられているようなものです。それがそのうち「違う国の人なら殺してもいい」となって、「戦争できる国」づくりにもつながっていくんじゃないかと懸念しています。
◆ 「戦争をする」ための改憲よりも、「戦争をしない」ための外交を
──山口県宇部市の長生炭鉱水没事故における遺骨収集(※)の問題にも取り組まれています。
※長生炭鉱水没事故における遺骨収集……1942年2月3日、山口県宇部市の東部、瀬戸内海に面した床波海岸にある長生炭鉱で水没事故が発生。犠牲となったのは183名、うち136名が朝鮮人労働者だった。現在もその遺骨は海に眠ったままになっており、90年代から地元の市民グループ「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」が中心となって、追悼碑の建立や追悼集会の開催、調査などの活動を続けてきた。2024年からは潜水調査も行われ、今年8月の調査で坑道内から遺骨が発見された
ラサール 炭鉱に朝鮮の人たちを強制的に連れてきて、石炭掘りの労働に従事させていたのは企業ですが、戦争のために石炭が欲しかったのは日本政府です。しかも、当時の法律では47メートルより浅い場所での採掘は違法とされていたのですが、長生炭鉱は最深部が37メートルしかない。法律を無視して操業していたんです。事故の前には「みしみし音がしている」といって入るのをためらった労働者たちを、無理矢理中に入れて働かせたという証言もあります。完全に人災なんです。
8月には、潜水調査をしていたダイバーが遺骨を発見し、引き上げてきてくれました。これまではこうした調査もすべてクラウドファンディングなどで集めた資金によって、民間がボランティアで行ってきたのですが、まだたくさんの遺骨が海底に眠っている。せめてここからは、国がきちんと予算を付けて、遺骨収集や遺族への返却を進めていくべきだと思います。それに向けて、まずは現場を見に来てほしいと政府に要請しているところです。
──かつての国の政策によって起こった事故なのだから、政府が責任を持つべきだということですね。
ラサール 入管の問題をやって、長生炭鉱の問題をやって……というと、SNSなどで「外国人のことばかりやるのか」と絡まれたりするんですが、これはどちらも紛れもなく「日本の問題」だと思っています。政府が原因を作った、あるいは作っている問題をなんとかしようとしているわけですから。
よく「英霊に敬意を払え」というけれど、「戦争のために亡くなった」から敬われるべきだというのなら、戦争に使う石炭を掘らされて炭鉱で亡くなった人たちも、もちろん空襲などで命を奪われた民間人も、等しく敬われるべきではないでしょうか。そういえば、これも陳情を受けたのがきっかけですが、東京大空襲を指揮した米軍人、カーチス・ルメイ氏への叙勲を取り消し、大空襲被害者の尊厳回復を求める運動にも関わっています。
──お話を伺っていると、陳情を受けた問題について、とても積極的に動かれている印象です。
ラサール まだ通常国会も始まっていないし、今は市民の皆さんから「やってくれ」と言われたことをやっていくのも大事かなと思っています。そうした市民運動の窓口になれる政党は限られていますし、言いたいことがあれば言ってください、それを私たちで政府に伝えますよ、ということですね。お話を聞いていると、皆さん根気よく運動に取り組まれていて、本当にすごいなと尊敬します。
──最後に、憲法についての考えをお聞かせください。参議院でも、いわゆる「改憲派」議員が改憲発議に必要な3分の2以上を占める状況が続いていますが、どうお考えでしょうか。
ラサール とにかく、戦争は絶対にしちゃいけないというのが僕の考えです。戦争は、必ず無駄に人が死ぬということ。そんなことは、絶対にあってはいけません。
今出されている憲法「改正」案はどれも、日本を戦争ができる国にしようとする「改悪」案だと思っています。近年、かつての戦争での日本の加害責任を否定しようとする歴史修正主義が広がっていることも非常に懸念しているのですが、このまま誰も声をあげなかったら、侵略戦争をしたという過去も否定されて、日本は「戦争できる国」になってしまうでしょう。これを絶対に止めなくてはならないと思っています。
やるべきは、「戦争をする」ための改憲ではなく「戦争をしない」ための外交です。まずは周囲の、アジアの近隣諸国と関係性をつくること。それによって、アメリカに過度に依存しなくてもいいような状態をつくっていくことを目指すべきだと考えています。
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らさーる・いしい 1955年大阪市生まれ。ラ・サール高校卒業にちなみ芸名を名乗る。「コント赤信号」のメンバーとして活躍する他、俳優・タレントとして舞台、ドラマ、映画などに多数出演。演出家としても活動している。