若手弁護士として活躍する越水遥さんは大学在学中に司法試験に合格後、大手法律事務所へ入所し、数々の企業法務に携わってきました。25歳で独立し事務所開業、並行してテレビやウェブ番組、出版などでも活躍されています。弁護士とはどんな職業か、実体験からのお話の一部をご紹介します。[2025年9月]
大手事務所の弁護士に求められるもの
私は弁護士になって今年で4年目になりますが、大手法律事務所勤務の弁護士と、自らの名前を冠した事務所を立ち上げた独立弁護士という2種類の働き方を経験しています。
ファーストキャリアとして選んだ大手法律事務所の特徴の一つとしては「クライアントのほとんどが大手の上場会社で、要求レベルが非常に高い」ということが挙げられます。
大手上場企業はそもそも会社内の法務部にプロの法律家がいて、一応の法律的な業務は処理できるけれど、そこで対応しきれない問題が生じて、さらに高度な答えが欲しいなどというときに大手法律事務所に相談するわけです。クライアントは司法試験レベルの知識は完璧に持っていて、その上でさらにより高度な答えを求めてくる。正解がないのを承知で、ではどうするのがいいかを尋ねてくるのです。ですから大手事務所の弁護士には、真の専門家としての法律家であることが求められます。
大手事務所の特徴の2点目は「一つの案件に大人数で取り組む」こともあるということです。大きい案件では10人、20人が関わることも稀ではなく、その場合は例えばM&Aの案件ですと「あなたは組織のパートを、あなたは労働のパートを」といったふうに分野ごとに分担することがあります。案件の大きさゆえに仕事が細分化されて、全体が見えにくくなることが生じやすいため、今自分が担当している仕事が全体のどこに位置しているのか、誰とどのように連携し、いかにして成果を上げていくかを瞬時に判断することが求められます。自分が担当していない箇所についても把握できる能力を身につけ、その上で仲間との連携がうまくいくよう人間関係への配慮も必要です。
こうした大手事務所の仕事は、自分が関わった案件が翌日の新聞の一面に載るなど、世の中に大きな影響力を与えているという感覚を味わうことができる反面、きついこともありました。「勤務時間は9時から5時まで、ただし朝9時から翌日明け方の5時」という業界話がありますが、これはあながち大袈裟ではなく、実際毎日が真剣勝負の連続でした。海外とのやりとりも多く、時差の関係上、夜中でも対応が必要なことも少なくありません。世界とリアルタイムにつながっているという面白さはあり、やりがいはあるのですが、それなりの覚悟は必要です。
私が独立を決意したわけ
こうして2年ほど大手事務所で働いていたのですが、次第にこちらがいくら頑張って法律的に100点満点の答えを出したとしても、クライアントの経営者の方が持つビジネスマインドに応えきれていないのではないか、というもどかしさを感じるようになりました。
弁護士として成長するためには、ビジネスについてもっと理解を深めたい。そのためには自分も一旦経営者になってみないとわからないのではないか、と独立を考えるようになりました。2年間弁護士業務を経験したタイミングで独立しました。
個人事務所になると、スタートアップ企業から昔ながらの中小企業まで、さまざまなクライアントを相手に、ありとあらゆる相談を受けるようになりました。
また自身も一経営者となったことで、これまでなかなかピンと来なかった「経営マインド」を、身をもって理解できるようになりました。法的知識だけでなく自分の経験をもとにアドバイスできる能力は、想像以上にクライアントに喜ばれました。大手法律事務所にいたときには答えに窮した「先生ならどこまでリスクを取りますか」といった質問にも、法律家としてまた経営者として向き合うことができるようになりました。
大手事務所に所属していた時には、自分が案件を取ってくるわけではないので、クライアントとの関係では「会社から割り振られて担当している仕事」と、どこか他人事感がどうしても生じてしまう側面があるように感じます。それに比べて独立すると、自分の名前で引き受けた案件という重さをひしひしと感じます。もし失敗したら全て自分の責任になるし、クライアントを失うことにつながります。後輩弁護士のミスも、私が責任を取らなければなりません。そういう意味の厳しさはありますが、頑張ったらその分収入が増えるという独立弁護士ならではの醍醐味もあります。
弁護士が背負う社会的イメージとは
現在はテレビなどのメディアに出演する機会もいただいていますが、世間から見れば弁護士は、「超頭のいいなんでも知っている先生」。クイズ番組とかニュースのコメンテーターとか、法律分野以外の番組で意見を求められることもあります。そんな時「私は法律の専門家で、他のことはわかりません」とは言えません。
通常の弁護士業務の中でも、「わからない」と言ってしまうと、クライアントの信頼を大きく毀損することになるので、そこはいかに対応するか、弁護士の腕の見せ所です。
世間的には弁護士は「弱い者の味方、弱い立場の人を助ける仕事」と見られています。そうしたイメージを付与されている職業の、自分はロールモデルとしてみられているのだという自覚を持ち、意識して活動することで、通常の弁護士業務以外の分野でも活躍するチャンスがあります。
私はメディア出演の他に、26歳にしてある企業の社外取締役に就任するという機会を得ました。これも弁護士だからこその経験で、経営者とはまた異なる立場から企業活動に携わる面白さを実感しています。
法律家は無限の可能性を持つ素晴らしい職業だと思います。
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こしみず・はるか 2017年学校法人市川学園中学校・高等学校卒業、2021年司法試験合格、東京大学卒業。 2022年西村あさひ法律事務所入所、 2024年越水法律事務所設立。専門分野は M&A、キャピタルマーケッツ、ファイナンス、ジェネラルコーポレート ベンチャースタートアップ法務。