法律家の仕事 検事・企業法務弁護士としての経験を踏まえて 講師:蛯原俊輔氏

今回の講師・蛯原俊輔弁護士は、司法試験合格後に検察官としてさまざまな刑事事件を担当。その後、弁護士に転身し、現在は企業法務弁護士として活躍されています。それぞれの実務とやりがいについてお話しいただいた講演の一部をご紹介します。[2026年1月]

子どもの頃に見た刑事ドラマ

 私は2015年に司法試験に合格し、その後、検事と弁護士というふた通りの道を法律家として歩んできました。もとから法律家になりたいという強い意思があったわけではありませんが、小さい頃祖父と一緒にテレビの刑事ドラマをよく見ていた記憶はあります。悪い相手を捕まえて取り調べて……というのが面白そうだという単純な子どもの印象にすぎなかったのですが、大学進学を前にした時、やはり興味があるのは法律かな、法学部に行ってみよう、という気持ちになりました。
 大学の法学部の勉強は面白く、特に刑法関係の科目には興味を惹かれました。将来の行くべき道を考えた時、何か自分の考え方の「本籍地」のようなもの、世の中のことを判断するための自分の軸を持つなら、それは法律だろうと考え、ロースクールに進みました。幸運にもロースクール在学中に予備試験に合格、翌年には司法試験に合格できました。
 強い目的意識があったわけではなく、目の前のことを「なんとなく面白そう」とやってきて、気がついたらここにいたという次第です。

捜査担当検事の仕事とは

 司法修習後は検事に任官し、大阪地検と福岡地検小倉支部で捜査、公判を担当しました。
 捜査担当の検事は何をするのかといえば、まず大事な仕事として被疑者の取調べがあります。ドラマなどでもよく出てくるように、容疑者と差しで向き合って、話を聞いたり質問したりして取り調べます。
 被害者の方、目撃者、参考人など事件の関係者にも話を聞きます。また、「この刺し傷はどういう状況でできたのか」など法医学的な知見が必要な場合は、専門家に話を聞きに行くこともあります。このように、検事は事件に関係する方の事情聴取も行っています。
 関係者の話を聞くと同時に大切なのが客観的な証拠を収集すること、つまり証拠集めです。防犯カメラの映像、携帯電話の履歴など警察と連携して証拠を集めます。検察の仕事は警察との連携が必須で、警察との相談は日常的な業務となります。
 このように検察の捜査担当の職責は、証拠をきちんと収集し、関係者の話を聞き、犯罪の立証ができるかを十分検討し、起訴不起訴の判断を行うことです。間違って犯人ではない人を起訴してしまったり、犯罪が成立しないような案件を起訴してしまったりしたら大変ですから、非常に責任の重い仕事です。

公判担当検事の仕事とは

 被疑者が起訴され裁判が始まると、今度は、検事は公判担当として事件を取り扱います。公判担当検事は、被告人が犯人であることを立証し、犯した罪に相応の刑罰が科されるように裁判所に対して主張立証します。
 その内容をかいつまんで説明すると、まず「冒頭陳述」を作成します。冒頭陳述は「被告人はこういう経緯で犯行に及び、このような犯行を行った」というように、これから立証しようとするストーリーを組み立てて、裁判の最初に読み上げるものです。
 裁判の終盤には「論告」を作成します。これは、「審理の結果をこう考えます」という最終的な書面です。例えば裁判の中で「自分は犯人ではない」と被告が主張したとしても、「こういった証拠、証言があり、それに基づいて考えると被告が犯人であることは間違いありません」というように、検事としての意見を述べます。
 公判担当検事の仕事としては、証人尋問の準備も重要です。被害者の方、目撃者あるいは法医学の専門家などを法廷にお呼びして証言していただくわけですが、そのための事前の打ち合わせもします。被告人本人、また被告人側の証人に対して「ここが違うのではないか」など、反論の材料を事前に準備しておくのも大切な仕事です。
 また、裁判員裁判の場合は、一般の市民である裁判員の方にもわかりやすいよう、資料やイラストを作成する作業がさらに必要になります。

検事としてのやりがい

 私は検事として、殺人、強盗致傷、暴力団関連、投資詐欺の事件など、さまざまな犯罪を扱いましたが、とてもやりがいのある仕事だなと感じました。
 例えば取調べでは、被疑者がなかなか自白しないケースがあります。もちろん虚偽の自白をさせてしまうことは絶対いけませんが、真実を語ってもらおうとすることは検事の仕事の第一歩となる最も大切な部分です。どうしたら本当のことを語ってもらえるか、そこは検事の腕の見せ所なのだと思います。例えば、相手に喋らせて言質を取った上で、証拠を出して矛盾をつく。語気を荒げるのではなく、「ここが違うのでは?」など、理路整然と話して説得を試みることがあります。
 印象に残っている例があります。なかなか自白をしないある被疑者が、私の取調べの後で数日して警察で自供したことがありました。後日、私が検察庁で再度取調べを行った際に、彼は「検事さんに言われたことが高校時代の友人に怒られた時のことと重なって、自分はなんでこんなバカなことをしたのかという気持ちになった」と語ってくれました。
 何か特別なテクニックがあるわけでなく、きちんと相手に向き合ったことで、彼の気持ちが動いたのだなと、振り返って思います。
 検察庁は国の大きな組織ではありますが、現場の一人ひとりの担当検察官の裁量を許容する土壌があるように思います。担当官に任される裁量が大きく、自分で方針を決められるところが、検事の魅力といえるでしょう。
 取調べや証拠収集は苦労の多い仕事ではありますが、それがうまくいって事件の解決に結びつけば、他とは比べようもない大きな喜びになります。

企業法務弁護士の仕事

 検事を経験した後、2019年に弁護士に転身しました。現在は東京にある法律事務所で、企業法務全般に関わる幅広い分野の案件に取り組んでいます。企業法務の弁護士として扱う仕事としては、例えば株主総会の事前準備、当日の対応、あるいは「決議を取り消せ」という訴訟が起きればそれにも対応します。建設や製品の瑕疵、営業秘密、役員責任などにまつわる訴訟紛争、競争法分野、倒産分野、M&Aに関わる案件もあります。
 私は検事の経験があるということで、危機管理の案件も比較的多いです。会社で不祥事があった場合の不正調査、会社あるいは従業員の刑事事件について、依頼者が被害者側であれば告訴の対応、被疑者側であれば弁護的な対応をします。
 扱う分野が非常に広く、また全てが世の中の動きと直結しているので、常に知見をアップデートする必要があります。裁判の判例や、さまざまな業界のガイドラインも日々新しいものが出てきますので、毎日の勉強が欠かせません。

弁護士としてのやりがい

 企業法務弁護士は、世の中を構成している多様な仕事の内容を知って、そこに法律の知見を生かして関わることができる仕事です。多種多様なビジネスのアシストができるという点で、やりがいを感じることができます。
 また社会情勢を踏まえた仕事であることも魅力です。例えば近年ですと、フリーランス新法ができたことで、フリーランスの方々に仕事を委託している会社からのご相談を受けたり、法的なアドバイスをしたりすることも増えました。またコンプライアンス、内部通報など、近年社会的に注目されている事柄と直結する仕事に関わることもあります。
 クライアントとの継続的な関係を築くことができ、その中で全幅の信頼を寄せていただけるというのは、検事ではなかなか経験できない、弁護士ならではのやりがいです。
 私が弁護士の仕事として思い出すのは、ある会社の経営権争いに関する事案です。
 クライアントとなった社長さんは、「会社は自分の人生そのもの」というほど事業に賭けておられ、また従業員にも慕われている方で、従業員の雇用を守るためにも何としても経営権を守りたいと頑張っておられました。会社の倉庫で資料探しをしたり、昼夜を問わず打ち合わせをしたり、とても大変な仕事でしたが、その結果経営権を守ることができ、非常に感謝されましたし、弁護士としてやりがいを感じました。

法律家として大切なこと

 最後に、私が考える「法律家として大切なこと」をお話しします。
 当たり前ですが、まず正確な法的知見を持つこと。法律家の存在意義は法律を知っていること。日々の勉強が第一です。しかし法律を知っているだけではダメで、事実関係の把握も大事です。法律というのは、事実関係が変わると全く逆の結論になることもよくあるからです。
 そのために、目の前にいるクライアント、あるいは被害者の方、被疑者からきちんと事実を聞き取って、頭でっかちにならず、目の前の人の話や資料をきちんと把握することが必要です。
 さらに一歩踏み込んで、クライアント、相手方、被害者の方、被疑者など、相手が求めていること、考えていることを推測して把握する能力も欠かせません。
 法律の世界では、斬新な結論というのはあまりなく、バランスの取れた常識的な結論に落ち着くことがほとんどです。バランス感覚を磨くことは法律家にとって大切です。
 法律家は今までの人生経験が全て無駄にならない仕事、そして頭を使った分だけ感謝されるありがたい仕事だと思っています。

えびはら・しゅんすけ 2014年早稲田大学法学部卒業、東京大学法科大学院入学。予備試験合格。2015年司法試験合格、2016年検事任官、大阪地検に配属、2018年福岡地検小倉支部に転勤。2019年岩田合同法律事務所入所、2022年三浦法律事務所入所。

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