先週の毎日新聞に、自民党の憲法改正推進本部が開いた全議員対象の会合において、〈大災害などに備える「緊急事態条項」の創設〉が議論された、との記事が掲載されていました。
「緊急事態条項」は、近年自民党などが繰り返し「改憲項目」(この言い方自体、まず「改憲ありき」でおかしいといつも思うのですが)の一つとして取り上げているテーマ。大災害をはじめとする「緊急事態」において、憲法秩序を一時停止して非常措置を行う権限、すなわち「国家緊急権」を政府に与えることで、平時なら許されない人権制限なども一部可能にするというものです。
特に東日本大震災の直後には「憲法に緊急事態条項がないことで、救援活動などに障害が生じた」という言説がさかんに喧伝されました。最近ではテロと結びつけて語る声も多く、「外国の憲法には当然ある規定だ」という主張も。これだけ聞くと、「それなら、少々人権が制限されるようなことがあってもしょうがないか」とも思ってしまいそうです。
でも、実は日本では、災害対策基本法をはじめ、災害などの緊急事態に対応できるだけの十分な法制度がすでに整備されていることは、マガ9でもインタビューさせていただいた小口幸人弁護士はじめ、多くの専門家が指摘しているとおりです。冒頭に挙げた毎日新聞の記事の見出し、〈大災害などに備える「緊急事態条項」〉という言い回し自体が、すでに「ごまかし」で「嘘」だといえるでしょう。共謀罪成立のときにも、「テロ対策のための法律である」「この法律を通さなければ、国際条約に加盟できない」という、明らかに事実と異なる言葉が堂々と、繰り返し語られていたことを思い出します。
それにしても、街頭演説で「辞めろ」コールを浴びただけで激高して、「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と声を荒らげる首相に「非常事態宣言」の決定権を預けて権力を集中させるって、考えただけでゾッとします(もちろん、どんな人が首相であっても危険な規定ではあるのですが)。
なんとなく「それなら必要かも」と思わされてしまうような、聞こえのいい「ごまかし」や「嘘」に流されているうちに、気がつけば取り返しのつかないことになっていた──。そうならないためにはやっぱり、萎縮せず、沈黙せずに「おかしい」と声をあげていくしかないのでしょう。「共謀罪」法が施行された翌日、改めて書き留めておきたいと思います。
(西村リユ)